「んー……『
とりあえず、と足元に集まってきているスケルトン達を対処する為に『酒霊』を地面へと落とす。
攻撃方法が物理に寄っている純正スケルトン達にとっては十二分すぎるスパーリング相手だろう。
それと共に、私は一度足を止め、
「一回マトモに投げてみようか」
こちらへと飛来するスケルトン達を先程同様受け止めつつ、手斧を構え。
しっかりと身体を回し、重心を移動させた上で力強く投げつけた。
最初とは比較にならない速度で投げられた手斧は、群青の狼となってグレートヒェンへと襲い掛かる。
対してグレートヒェンは、先程と同じように盾を構え腰を低くして受け止める体勢を作り、
『――ッ!』
盾へと手斧が直撃する。
群青の狼が盾へ、そして鎧全体へと喰らいつこうとしているものの、硬すぎるのか歯が徹っていかないようだった。
対してグレートヒェンの方も方で、群青の狼を引き剥がせる程の力はないのか剣で払おうとしているものの上手くは行っていないようだ。
……ここがチャンスかな?
急いでその場から降りつつ、私は再び怨念を纏わせた指で耳飾りに触れる事で『想真刀』を呼び出し地上を駆ける。
私の最大火力である【狼煙】を合わせた手斧の投擲が防がれたのは痛い。しかしながら、火力面ではなく相手の防御突破面で見るならば……投擲ではなく複数のスキルが乗った『想真刀』の連続居合に軍配があがる。
こちらへと迫ってこようとするスケルトン達を、巨大な赤蛇となった『酒霊』が体内へと取り込み。
群青の狼がグレートヒェンに攻撃をするのではなく、纏わりつく事で私の接近を感知されないようにしてくれる。
……アレについても、あとで確かめる必要はあるよね。確実に
そうして辿り着いた先は、私よりも二回り以上は大きい巨大な白の鎧の前。
私の身長と同程度の長さの骨の剣が振り回されているものの、それを身体を逸らす事で避けながら私は征く。
白黒に染まっていく視界の中で、相手の身体を観据え続ける事で付与された『弱点把握』によって骨の鎧の中心が赤くハイライト表示された。
「一手」
酒気による鞘に『想真刀』を納刀し、一息。
吐き出すと同時に目の前の骨の鎧へと向かって、横薙ぎを振るう。
生身の肉体ならばそれだけで真っ二つに出来ていただろう。しかしながら、骨の鎧には一本の線が刻まれただけで、大したダメージにはなっていないように見える。
だがそれだけでは終わらない。
「二手」
こちらへと対応しようと、盾を向けてきたグレートヒェンに対し。
私は横へと開いた身体を戻すように刀を再度振るう。
当然、【居合】の効果を乗せられるように酒気の鞘を再度刀へと纏わせた上でだ。
そうして振るった一刀は、能力吸収の硬化もあってか盾の真ん中に大きく傷を刻み込む。
その瞬間、青白い炎が盾を包み込み……巨大な盾は、複数のスケルトンへと変わる事で崩れ落ちていく。
「三手」
スケルトン達がこちらの動きを止めようとするのを、私が集中している為か少しぎこちない動きとなっている『酒霊』が吸収し圧壊させる。
再度、居合の構えのようになった身体を一歩前へと踏み出す事で横向きに変え、今度は下から上へと刀を振るう。
盾が無くなったからなのか、それとも受けきれる自身があったからなのか。
グレートヒェンは巨大な骨の剣を私の刀に合わせるような形で振るう。
しかしながら、『想真刀』の刃は彼女の予想に反して柔らかいモノを斬るかのように、彼女の持った巨大な骨の剣の刃を断ち切りつつ、その鎧へと一撃を届かせた。
……見えたね。
度重なる能力吸収によって、私の一刀は鎧の前面部分へと大きく傷をつけ……その内部を露わにする。
そこに居たのは、先程私が首へと刀を突き入れた人間形態のグレートヒェン。
本体とも言える彼女は、何処か祈るような姿で手を組んで眠っているように見えた。
「四手。――最後ッ!」
完全に動きが停止した骨の鎧に対し、私は上へと振り上げた『想真刀』を再度振り下ろす。
一瞬一瞬がスローになっていく世界の中、グレートヒェンが閉じていた瞳を開いていくように見えた。
……何か言ってる……?
小さく、その口が動いているのが分かったものの……音は聞こえず。
私の握る刀が、彼女を上から断ち斬った。
HPバーが底を尽き、骨の鎧が光の粒子となって消えていく。
それと共に、残された彼女の身体も地面へと落とされた後、少しずつ溶けていく。
「……終わり、だよね?」
警戒はしつつ、視界に色が戻ってくるのを感じながら彼女の近くへと近付けば。
グレートヒェンは薄っすらと笑いながら、こちらに何かを手渡してきた。
受け取るべきか悩んだものの、既に害意は無いように見えたために受け取れば……そこで時間が来たのだろう。
彼女は満足そうな表情を浮かべながら、地面へと溶けていった。
【『【死骨王者 グレートヒェン】』を討伐しました】
【MVP選定……選定完了】
【MVPプレイヤー:レラ】
【討伐報酬がインベントリへと贈られます】
【特殊戦利品を入手しました】
【特殊インベントリ内へと収納しました】
【スキルを発現しました:【疑似腕】】
「大盤振る舞いじゃん……確かめる程余裕はないけどねぇー」
その場へと座り込み、大きく息を吐いた。
様々なスキルや、戦い方によってある程度完封のような形で終わったものの……一歩間違えれば『酒呑者』と同じ様な戦闘内容になっていたことだろう。
外界でなかった事も大きな要因だ。
「あー……連絡。メウラくんで良いか……もうちょい休憩してから送っとこう」
ここが何なのかは分からない。
分からないものの……今は、この赤い空を見ながら闘技場の真ん中で煙草を吸うのも悪くは無いだろう。