「という事で、一回大きくHP減らしておこう、かッ!」
身動きが取れなくなっているグレートヒェンの身体の中心部……人間ならば心臓があるであろう付近に向かって、力強く『想真刀』を突き入れる。
初めは弾かれたものの、徐々に『想真刀』によって私の膂力が増加し、その切っ先が身体の中へと侵入していくのが目に観えた。
……楽、ではあるけど……これだけじゃないだろうな。弱すぎる。
身体を貫き、地面にまで達した刃を動かしつつ、グレートヒェンのHPバーの減少を確認する。
一度大きく減り、その後じわじわと底へと向かって減り続けていくそれは、普通の敵性モブならば終わりを確信出来たであろう減り方だ。
しかしながら、相手は曲がりなりにもボスらしき存在。そんな存在がちょっとした攻防だけで倒し切れるとは思っていない。
そして、私の予想が正しいとでも言うかのように、彼女のHP減少は約1割を残した所でストップした。
「ッ!」
彼女の身体から青白い光が漏れ出し、大きく私の身体を弾き飛ばす。
HP自体は削れていない。何かしらの形態変化に伴う強制的なノックバックだろう。
……うわーぉ、ちょっと想像してなかったのが出てきちゃったな。
何処からか発生した土煙がグレートヒェンの姿を隠していたものの、一気にそれが吹き飛ばされる。
そこに居たのは、巨大な骨の怪物だった。
巨大な骨の剣、そして盾を持ち。
先程までの人のような身体から、言うなれば骨の鎧の身体の部分だけがそこには存在していた。
頭に当たる部分には青白く輝く炎が激しく揺らめいている。
「早ッ!」
骨の鎧は突然動き出した。
人間形態だった時とは違い、凄まじい速度で私の側面へと移動したソレは払うように骨の剣を振るう。
……流石に受けられないッ!
背骨ならば兎も角、巨大な骨の剣を受け止められる程、私の力は強くない。
何とか背後に跳び、紫煙の足場を作り出す事で再度空中へと向かって飛び上がる。
どう見ても近接戦主体の地上戦しか出来ない相手だ。残りのHP自体も少ないのだから、ここからは卑怯と言われようが遠距離主体に切り替えた方が良いだろう。
『ァアッ!』
「ッ、マジかよ!」
だが、現実は厳しかったらしい。
突然鎧の肩の部分が筒のような形状へと変化したかと思いきや、丸く固められた白い何かがこちらへと向かって射出される。
空中を跳び回る事で避けているものの……対空用の攻撃手段を持ち合わせているだなんて聞いていない。質問もしていないから当然だが。
「あぁもう!……紫煙駆動!『煙を上げろ』!」
『想真刀』を一度捨て、私は手斧から紫煙を漏れ出させる。
それと共に、私の右腕全体に群青色の紫煙が纏わりついていく。
このまま撃たれ続けても面倒臭いし、相手の攻撃を受ける事が出来ない近接戦闘を行うつもりは一切ない。
空中を駆け抜けながら、私の周囲に紫電を纏った紫煙の斧が2つ出現するのを確認しつつ。
一度、撃ち込まれ続けている弾丸のようなものを紫煙の壁によって受け止める。
【状態変化】の段階上昇によって追加された能力、粘性化付与により弾は紫煙の壁を突き抜ける事なく回収する事が出来た。
……うわ、面倒だなコレ。
そうして受け止めた弾丸は……正確には弾丸ではなく、骨の塊。
もう少し正確に言うならば、骨の塊ではなくスケルトン。
遺跡内で戦っていたような、装備を着けているものではなく純粋な
「取り巻き召喚的な意味もある対空射撃とか面倒すぎるでしょ」
受け止めたスケルトンは私を襲おうと動き出すものの、粘性を持った紫煙の壁の中に居る為か思うように動く事が出来ないようだった。
そのままにしておいてもいいのだが……少しだけ目障りだった為、そのまま圧壊させておき地上へと破片を落としていく。
「1割削れればいい、でもそれが遠そうっちゃ遠そうなんだよ、ねッ!」
【狼煙】を纏わせた手斧ではなく、今はとりあえずで紫煙の斧達を使って攻撃を行ってみる。
紫煙駆動によって出現させた斧だ。普通の紫煙の武具とは違い、その威力はバカにならないはずだ。
今もグレートヒェンが射出するスケルトンを切り裂きながらも本体へと向かって飛んでいき、
「うわ、マジかよ」
命中する寸前で、グレートヒェンが盾を使う事で弾かれしまった。
纏わせていた紫電によるダメージも鎧を身に纏っているからか、それとも鎧の中身にまで届いていないのかHPバーを目に観えて削る程度までは至ってはいなかった。
……どうするかな。怨念は……流石に『想真刀』ならまだしも、直接ぶつけるのは怖いし……。
【怨煙変化】は使えない。遺跡内での経験的にも、彼女の現状の脅威度的にも使ったら敗北しか見えないから。
ならば、今のように遠巻きから戦い続ける他ないのだが……それもそれで、紫煙駆動を使って今のような結果になる以上、中々難しい。
鎧の装甲の厚さがどれ程までかは想像できないが、アレを突破しないといけないならば……『想真刀』を使った方が楽だろう。