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Episode11 - B1


探索を開始して、凡そ数十分が経っただろうか。

私が今居る【世界屈折空間】にある物は大体見る事が出来た……と思う。


「闘技場に、鍛冶屋。他にも色々あったけど……問題は門を見つけちゃった所かなぁ」


ここには様々な店が存在していたものの、中に入る事が出来たのは闘技場と鍛冶屋、そして薬が売っていると思われる店のみで、他は透明な壁が存在しており侵入する事は出来なかった。

だが、入る事が出来た場所もそれはそれで問題だった。

……ダンジョン……じゃあないっぽいんだよね。

見覚えのある門が存在していたのだ。

だが、通常の【世界屈折空間】とは違い、門に近付いた所でダンジョン名が表示される事はなかった。

代わりに表示されたのは、


「闘技場が【死骨王者】、鍛冶屋が【隠矢小娘】。薬の方が【死水魔女】……全部が全部ダンジョンってよりは人とかそっちの通り名っぽいんだよなぁ……」


私の『紫煙頭巾』のような、通り名らしきものだった。

……んー。何と言うか、裏口から入っちゃったみたいな感じなのかなコレ。

今私が居る【世界屈折空間】と、いつもダンジョンへ挑む時に経由する【世界屈折空間】は恐らく同じものなのだろう。

その証拠に、私が帰ろうと強く考えると何処へ戻るかを選択するウィンドウが出現するのだ。

流石にそうやって戻った後、ここにまた訪れる事が出来るかは分からない為にやってはいないのだが。


「……一旦、挑むのはありだよねぇ」


一応掲示板は確認している。

『Sneers wolf』の外界侵攻について喋っているスレッドもあれば、いつも通りに進んでいるスレッドも存在している。

その中でも、私は今回見つけた3つの通り名らしき名称が何処かしらで引っ掛からないかとスレッド検索をしてみたものの……件数は0。誰も話題に出していないのだ。

いつものように情報規制系かと思いきや、名前を知っているのにも関わらず出てこないという事は……本当に未踏域の可能性が高い。

……運営っていうかGMコールも入れたけど、別にバグとかじゃないって言われちゃってるし。

無論、確かめられる所には確認を入れている。

一瞬驚かれたものの、何故ここに居るのかを話したら納得してくれたのも印象的だ。


「やるなら【死骨王者】かな。他はちょっと絡め手使ってきそうだし」


私は誰も居ない街を、闘技場へと向かって歩いていく。

今まで流れでつけていたガスマスクを外し、少し久々に感じる煙草を吸い。

紫煙と酒気を身体に纏いながら、辿り着いた。

闘技場の中、その中央に白と、薄い緑の骨で作られた門。

その前へと立ち、深呼吸をしてから手で触れる。すると、


【過去事変:【死骨王者】との戦闘を開始します】


短いログが流れると共に、私の視界は暗転した。



――――――――――――――――――――


そこは、何処かの深夜の墓地だった。

1人の白衣を着た男が、必死に何かの薬剤と様々な動物の臓物を1つの墓へと撒き散らし、神に祈るようにして両手を掲げ祈っていた。


「神よ……いや、この際悪魔でも良い!彼女を!彼女と再び会わせてくれ……!」


声は聴き届けられた。いや、聴かれてしまった、と言った方が正しいだろう。

白衣の男の近くに、1人のタキシードを着た笑みを浮かべた仮面を付けた男が出現し、そっと耳打ちをした後。

様々なモノで汚れた墓に変化が起きる。


土の下から現れる、白く美しい骨。

骨は地上に出る度に肉を付け、しかしすぐにそれは溶けていく。

その骨格は全てが全て、白衣の男が愛してやまなかった死んだ女のモノと同じだった。

しかし、彼は認めなかった。

彼が会いたかったのは彼女の中身だけではなく、彼女自身……全てなのだから。

例え、そこに魂が宿っていたとしても、彼は認めない。


そして、彼女は行動を縛られ、彼亡き今も此処に居る。

墓は埋められ、その上に人々が集まる場所が出来。

彼女は、1人、その場で生まれた悲劇と血を吸い、今ここに立つ。


――――――――――――――――――――



視界が闘技場に戻ると共に、私の目の前……少し離れた位置に、それは居た。

一見すると普通の人間のように見える身体は、よくよく観てみれば骨で出来ており。

女性の様に見える顔には瞳はなく、その奥には青く光る炎のような揺らめきがこちらをじっと見つけている。

身体には【酒気帯びる回廊】に居たアマゾネスのように、最低限の骨の防具だけを付け、手には人間の背骨らしきものを握っていた。

ゆっくりと彼女は構えを取る。

それに釣られるように、私は虚空から手斧を呼び出し構えた。投擲の構えだ。


【『【死骨王者 グレートヒェン】』との戦闘が開始されます:参加プレイヤー数1】


瞬間、彼女は駆けだした。

動きは遅い。私がしっかり目で追える程度の速度だ。

だからこそ、一度手斧をそのまま投げつける。様子見の一撃として投げられたそれは、スキルの効果も相まって、空気が破裂する音を闘技場内へと響かせながらもグレートヒェンに向かって飛んでいった。

しかしながら、


「しっかり防ぐじゃん!」


グレートヒェンは走りながらも、手にもった背骨を一度軽く振るうだけでそれを弾いてみせた。

それでいて、特に疲弊した様子も、危なげにしている様子もない。彼女にとっては簡単な事なのだろう。

……膂力は十分。骨だから打撃に弱いとか……ありそうだねぇ。

そうして詰められた距離を、私は特に離す事はせず。再度振るわれる背骨に合わせて、私は耳飾りへと触れ、


「『変われ』」


『想真刀』を用いる事で、その一撃を受け止める。

金属同士がぶつかり合うような音を響かせつつ背骨と刀は鍔迫り合いのような状態になったものの。

私の腕には強い衝撃が伝わって来ていた。

思った通り、グレートヒェンの力は強い。だが、この間戦ったアマゾネス程ではないと感じ安堵する。

アレと同じ程度の力の強さであったならば、そもそも近接戦闘を行うべきではないからだ。

……『想真刀』だから良いけど……普通の武器で打ち合っちゃダメな類だね、コレ。


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