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Episode9 - Rem3


「皆、即時離脱準備!残りはやっとくから!」


言って、刃を振るう。

マイナーは既に粉々となったものの、未だ他のスケルトン達は残っているからだ。

そして、この敵性モブ達はここからが本当の戦いとなる。

……修復は……始まってるなぁ!

不死アンデッド だからなのか、それともこの遺跡の特徴なのか。

スケルトン達は、1度倒しても尚、数十秒後にはその身体を修復させ復活する。

耐久自体はそこまでではない為、復活されてもまた倒せば良いのだが……今の所、音桜の持つ【浄化】系スキル以外で完全に倒し切ることが出来ないのだ。

だからこそ、一度倒しては逃げを打つ。


「聖域化は?!」

「しなくて良い!目的地が近いから、そっちでやって!」

「畏まりました!」


そして、逆に私や患猫が使う怨念系は相性が悪く。

使えば使うほどに相手が強化され、面倒な事になってしまう。

その為、患猫は現状完全に探索要員でしかない。

……キヨマサくんの使ったのも聞きたいのになぁ、暇がない!

気になる事があると言うのに、聞く暇がないと言うのは中々にもどかしい。


「離脱。残るは君のみ」

「了ッ解」


飛来する矢を斬り払い、身体に纏わせていたワインを使ってスケルトン達を拘束し圧壊させていると、背後から声が聞こえる。

スケルトンから目を離さず、声の方向へと跳び退けばそのまま私の身体を器用に回し、抱える様にしてキヨマサが走り始めた。


「マイナーは?」

「身体の半分くらいは修復してたかな。でもこの速さなら感知外には行けると思う」

「了解。上々」


彼の身体からは今も尚、血の蒸気が立ち昇っている。

HPを削る類のスキルか何かだろうとは思うものの、私の知っているスキルの中にこの様な変化が起きるものは存在していない。

……聞くなら今かな。

運ばれている今ならば、聞いても許される……というか。

会話程度くらいなら、彼も許してくれるだろう。


「……ふぅー……聞いても良い?」

「了承。何だろうか」

「その身体から出てる奴って、さっき言ってた無煙駆動ってやつ?」

「……肯定。強化によって得た力だ」


少しだけ考えた後答えてくれたものの、それだけだ。

だが、これで考える要素が増えたのも間違いない。

……無煙なんて付いてるって事は、条件はSTを使ってないことかな。キヨマサくんのスタイルとも矛盾しないし。

非喫煙者である彼は、STの概念自体は備わっているだろうものの、その中身が満たされる事はない。

その上で、私達のように【世界屈折空間】の中層へと至る時、紫煙外装の強化を得たのだろう。

紫煙を使わない、代わりに身体を、命を削る事で能力を発動出来るように。


「ありがと。他の2人には言わない様にしとくよ」

「感謝」


既に同じグループに所属している患猫は置いておくとしても、メウラと音桜に態々言う事でもない。

何なら、私はPvPに興味がない為関係無いが、あの2人が今後それに関係するモノに出場する可能性だってあるのだ。隠せるものは隠しておきたいだろう。


「さて……そろそろ着くかな」


走ってもらう事数分。

メウラの人形が2体ほど護衛として立っている扉の前へと辿り着いた。

探索開始前に共有してもらったマップと照らし合わせ、目標地点である事を確認した後、


「行こう」


自らの両足で立ち、扉を開く。

すると、そこにあったのは、


「――ぇ?」

「……驚愕」


完全な無が広がっていた。

否、何もないと言うわけではない。先に中へと入り、擬似聖域化や工房化をしてくれていたメウラ、音桜の姿はあるし、そんな彼らを守る様に立っている患猫の姿もある。

だが、それだけだ。

完全な暗闇の中、私達の姿だけがはっきりと見える空間が広がっているのだ。

……これはまた……中々によく分からないのが来たなぁ。


「お姉様、ご無事で何よりです」

「あは、足止めくらいだったら余裕だよ。……所でこの部屋は?」

「わっかんねぇ。人形を歩かせてみてるが……途中で人形自体が消えちまうんだよ。即死級の攻撃を喰らったって感じでもねぇし」

「そ、そうね……それに、怨念の類でもないわ。私の装備が反応してないから、そうやって作られた空間じゃない」


メウラ、そして患猫から聞けた情報をもとに考えたい……とは思うのだが。

答えに辿り着くことは出来ないだろう、という確信もある。

何にせよ、この場所に居るにも関わらず、この場所自体の情報が無さすぎるのだ。


「……これはちょっと判断に迷うなぁ……人形が消えたって所まで行って良いものか……」


聞けば、他の部分……聖域化も、工房化も出来ているらしく。

患猫の持つ探索系スキルも、しっかりとここが他の部屋と変わらない大きさであると示しているらしい。

つまるところ、何かしらの原因があってこの様な状態になっていると推測出来るのだが、


「うーん……他の所の部屋はこんな事にはなってないよね?」

「なってねぇな。此処だけが異常だ」

「だよねぇ……流石に私の性分にこれ以上付き合わせる訳にはいかないし……」


勿論、私は今すぐにでも人形が消えたらしい位置まで走り抜けたい。

好奇心を理性で抑えていなかったら、既に走り出していた事だろう。だが、それは今パーティを組んでいる都合上、メンバーに迷惑を掛ける可能性がある。

そこまで考え、1つ方法があるのに気が付いた。

否、気が付いてしまったと言った方が正しいだろう。


「あ、そうじゃん。私1人だけで行けば良い話じゃない?」

「ダメです!何があるか分からないんですよ!?」

「いやさ、音桜ちゃん。この遺跡から出るだけなら、キヨマサくんとメウラくんが居れば充分。その後、セーフティエリアまでは音桜ちゃんと患猫ちゃんが居れば何とかなるんだよ」


そう、このパーティには原則私は必要ないパーツなのだ。

所々補える箇所はあるものの、無くても回る歯車。

だからこそ、ここで離脱しても……もしもデスペナルティになったとしても実は問題なかったりもする。

だからこそ、私は行く。

どうにか止めようとする音桜を宥め、情報が手に入るならばと半ば諦めた表情の患猫とキヨマサに一度頭を下げ。


「じゃ、行ってきます」


暗闇の中へと一歩、足を進めた。


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