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Episode8 - Rem2


結局の所、好奇心。

人は好奇心があるが故に前へと進む。

故に、時に危険に陥って死ぬ。

それが自然であり、私はそれが人一倍強いという自覚もある。

だから行くのだ。自身の好奇心を満たす為に。

……振り回しちゃって申し訳ないとは思うけどね。

準備はさほど必要無い。

強いて準備するならば、【酒精生成】によって酒を生み出し酒気と同じ様にアクセサリー状にして身に纏うくらいだろう。


「ん、レラお前、それ【酒精生成】か?なんか赤くね?」

「うん、段階が上がったからね。なんかワインも出せる様になったんだよ。効果は無いし、リアルで言うコンビニの安いワインくらいの香りしかないけど、今の私の装備に合うでしょ?」


地味な変化だが、【酒精生成】は熟練度段階による追加能力で無味無色の酒以外にも、ウイスキーとワインを生み出せる様にはなっている。

と言っても、それらもそこまで美味くはなく……口寂しい時位にしか飲みはしない。

だが、色は良い。

赤を基調とする私の装備に、赤ワインの赤紫色は変に主張する事なくマッチするのだから。


「よし、みんな準備は出来たね?行こう」


行って、外に出る。

先程と変わらない、紫煙のない【地下室】のような通路。

メウラの案内用の人形を先頭に、私、患猫、音桜、メウラ、そしてまた殿にキヨマサを置く順番だ。

戦闘が十二分に行えるキヨマサを殿に置いているのは、ある程度の消耗も抑えつつ、ここぞと言う時に彼を前に出したい為。

そして私が前にいるのは、単純に紫煙に依らない戦い方が出来るから、というだけだ。


「じゃ、出発!」


この先に何が待っているのか。

不安そうにしている患猫には申し訳ないものの、私は少しだけそれを楽しみにしながら足を前へと進め始めた。



「新手来てます!」

「あーもう!やっぱり結構いるねぇ!?」

「嬉しそうにすんなバカ!」


そうして遺跡の中を進む事数十分。

私達は何度目かの戦闘を行っていた。

赤ワインで作り出した擬似的な刀を握り、こちらへと迫ってくる矢を斬り払う。

その隙を狙う様に、横腹へとナイフが突き立てられそうになるものの、


「補助。危険無し」

「助かるよ」


キヨマサの拳によって、それは弾かれた。

目の前を観る。数体の様々な装備を着けた白骨死体がそこには居た。

所謂、スケルトンと呼ばれる事の多い敵性モブだ。

……遺跡っぽいといえば遺跡っぽいんだけど!

彼らは装備によって行動が変化するらしく。

今も私達のことを遠巻きから弓矢で狙うスケルトンアーチャーとでも呼ぶべきモノや、今し方私の隙を狙ってきたスケルトンアサシン。

そして、オーソドックスな冒険者スタイルの装備を身に纏い、剣と盾によって襲いかかってくるスケルトンソルジャーなんかも存在していた。

だが、それらはまだ相手をするなら楽な方。

真に厄介なのは、


「ッ、振動!来るよ!」


足元から響く振動に、その場から咄嗟に跳び退けば。

先程まで私が居た場所の床を突き破る様にして、スケルトンが飛び出してきた。

その姿は、炭鉱夫のように見えるものの……手に持っているのはツルハシではなく、スコップだ。


「マイナー1体!今回は運が良いねぇ!」

「言ってる場合か!潜られるぞ!」

「そ、阻止するわ!」


スケルトンマイナーが厄介な点は2つある。

1つは、今現れた時の様に遺跡の硬い床だろうと何処であろうと、潜れるならばスコップを使って潜り奇襲を仕掛けてくる点。

そしてもう1つは単純に、近接戦闘能力が高いのだ。

私やキヨマサが、しっかりと集中して戦う事で倒せるレベル、と言えばその脅威度は分かりやすいだろうか。

下手にスコップを数打ちの武器で防ごうものなら、そのまま破壊されてダメージを喰らう。

打撃だけでなく、斬撃すらもスコップを使って出してくる為、一極型の障壁では相性が悪い。

そんな存在が奇襲してくるのだから……中々にこの遺跡を作った開発は趣味が良いと言うべきだろう。

顔に酒をぶっかけてやりたい程度には。


「1回斬るよ、キヨマサくん合わせられる?」

「無論」

「良いねぇ、頼もしい」


笑いつつ、あくまで気軽に。

今使っている刀は、私の気分次第で様々な形へと変化させる事が出来る。

だからこそ、斬れる範囲は見えている限り全てだ。

……斬るって言ったからね。

視界が白黒に染まっていくのを感じつつ、私はその場で居合の構えを取る。

酒気の鞘に、酒精の刀。リアルでは絶対に握る事は出来ないもの。

当然、動きを止め集中し始めた私にスケルトン達は殺到し始める。

しかしながら、それらはメウラの人形や音桜の障壁によって阻まれこちらには届かない。


足裏から感じる振動が大きくなっていくのを感じつつ。

軽く、後ろへと飛び退きながら刀を軽く振るった。

赤紫の刃が酒気の鞘から出てくると共に、私の足元からはスコップの切っ先が飛び出してくる。

避けられない位置だ。

だが、私にはまだ仲間が居る。


「頼んだッ」

「た、頼まれたわ」


瞬間、私の身体が後方へと身体1つ分スライドする。

勿論、私のスキルによるものではない。薄いものの、怨念が私の足裏から散っているのが視界の端に映っていた。

そうして無事に振るわれた刃は、しっかりと下から飛び出してきたスケルトンマイナーの胴体部へと命中し、


「【掌握】。無煙駆動起動」


身体から血を噴きだしながら、虚空へと拳を振るったキヨマサの一撃によって粉々に吹き飛ばされた。


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