「ぉっとっとっとぉ!?」
落ちる事数秒後。
本当に階段などあったのか、と思う程度には直下に落下していった私の身体は、いつの間にかしっかりと地面に両足をつけて立っていた。
突然のその感覚にバランスを崩しそうになりつつも、周囲を見てみると。
……これまたきちんとダンジョンって感じ。
石煉瓦で造られた通路、時折見える木製の扉。
灯りは乏しく、しかしながら先が見えない程には暗くないそこは、何処か【四道化の地下室】を彷彿とさせるものだった。
「お姉様、御無事ですか?」
「おっと、そっちは大丈夫そうだね音桜ちゃん。問題はないよ、障壁のお陰だ」
「それは何よりです。……キヨマサさんは……」
「彼は殿として最後に……あぁ、来たみたい」
と、ここでキヨマサが突然私の後方に出現し、同じ様に軽くバランスを崩しかけている。
パッと見る限り、傷は無いように見える為上手くやったのだろう。
……うん、やっぱり転移式だったのか。
「今の状況を教えてもらって良い?」
「現在、遺跡内をメウラさんがマッピング中。患猫さんは1YOUさん達と連絡が取れるかを試しています。丁度そこの部屋の中を擬似聖域、工房化したので、2人はその中ですね」
音桜が指した、1番近い位置にある扉。
案内されるまま中へと入ると、部屋の中心にはメウラが目を瞑って胡座をかいており、患猫は何処か焦った様子で壁に寄りかかりながら空中を見つめていた。
「物置っぽい部屋かな……患猫ちゃん」
「き、来たのね……少し良いかしら」
「うん、キヨマサくんも一緒に話そう。音桜ちゃんはさっきまでと同じように警戒で」
「畏まりました」
メウラの邪魔をしても悪い為、先程キヨマサが現れた辺りの位置まで移動し、患猫の話を聞く。
すると、大分面倒な状況になっているのが分かった。
「……成程、外との連絡がつかない……邪魔されてる感じ?」
「そ、そうね。それかすっごく電波が悪い時みたいな、途中で送信自体がキャンセルされる形かしら」
「んー……地下だからってのは関係無いか。プレイヤー間の通信だもんね。……場所、だろうなぁ」
「同意。この場、紫煙一切無し」
キヨマサの言う通り、この場には私達から漏れる以外に紫煙が存在していない。
外界と言えど、多少なりとも存在していたそれがない、というのは中々に珍しい。
「私は酒気があるから問題ないっちゃないけど……2人は?」
「わ、私は難しいわね……ガスマスクを外せば煙草は吸えるけれど」
「無問題。元より」
「キヨマサくんはそうだよねぇ……」
はっきり言って、この状況で先に進むのは危険だ。
主要グループとの連絡がつかず、この先戦闘がないとは言い切れない。
全員の回復薬を集め、消費を抑えながら進んだとしてもどこかで限界が来る。
「……うん、進もう」
「そ、その心は?」
「情報が無いまま戻るパーティも居るだろうけど、ウチの所はキヨマサくんや私、それに今もマッピングしてくれてるメウラくんの人形もある。戦力自体は問題無いし、もし死んだとしてもエデンでリスポンするからね」
……ただ、私も普段よりは抑えないと。
1番大きいのはキヨマサの存在だ。
どのようなビルドなのかは聞いていないものの、煙草に左右されない実力を持つ彼が居る現状、適切にサポートさえ出来ればある程度までだったら戦える。
それに、
「最悪、私がガスマスク外して煙草を吸うよ」
「そ、それは……」
「あは。外界で外したらどうなるのかってのは知らないけれど、知らないからこそ興味があるんだよねぇ。……あ、言わないでね?モチベ下がっちゃうから」
「あ、貴女がそれで良いなら良いわ」
患猫の制止はそこまで強くない。
この時点でガスマスクを外したとしても、何か不利になる事はあってもすぐに死ぬ事はないと判断出来る。
すぐに死なないならば、私にとっては十分だ。
……ま、そんな機会がないのが1番なんだけど。
その後、細かい今後の方針……どの程度まで物資が減ったら撤退する等を決めた後、私達は2人の元へと戻った。
すると、
「ん、レラか。どうせ進むんだろ?マッピングが終わった所だから共有するぞ」
「こちらにST回復薬の準備も出来てます。数は少ないですが、その分中身の濃さは市販のモノの2倍です」
「おぉーう、流石だねぇ君ら」
と、聞かせていた訳でも無いのに、こちらのやろうとしている事を理解して行動してくれていた。
その様子に患猫とキヨマサは呆気に取られているようだが、
「ま、こういう2人なのさ。いつも助かってるんだよ」
事実、私が普段好き勝手出来るのは彼らのアシストがあるからだ。
決して1人の力だけでここまでやってきたわけでは無い。
……どこまで行けるかは分からないけど……やれるだけやってみよう。
共有されたマップを見つつ、遺跡内の目標地点を決めていく。
基本的には最奥へと向かうつもりなのだが、
「メウラくん、この何も描いてない部屋は?他の所は最低限、物置とか名前が書いてあるよね?」
「あー……いや。なんていうかな。その部屋に入った人形が消えちまってな。操作も出来ねぇ、命令も通らねえ。だからそこに関しては後回しにしたんだが……」
歯切れ悪く言う彼に、私は頬を緩める。
恐らく何も言わなかったのは、あわよくばスルーされたかったのだろう。
私がその話を聞けばどうなるのかをよく知っているのだから。
「よし……目標地点はここだね」
「い、良いの?最悪、デスペナよ?」
「良いの良いの。ここに何があって何が見れるかの方が重要だからね」