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Episode6 - OWI5


自前の【隠蔽工作】に加え、音桜のスキル【隠遁結界】、患猫の怨念系装備による気配の弱化を展開する事で、私達5人は森の中を高速で進んでいく。

私が作った紫煙や酒気の足場を使い、木々の枝から足場へと跳び移る。

……凄いなキヨマサ。スキルは使ってるんだろうけど。

そんな中でも、頭ひとつ抜けて移動速度が速いのがキヨマサだ。

修羅モードの私相手に目立った怪我をする事なく渡り合った彼は、このゲームでは希少種レベルの非喫煙者。

その為、STを使う様なスキルや紫煙駆動などを使えないが……それなのにも関わらず、しっかりとした実力を持ったプレイヤーだ。

今も、私の作る足場を使わずに、某忍者漫画のような身のこなしで枝から枝へと跳び移っていた。


『そろそろ目標地点かな?』

『そ、そうねぇ。こっちで連絡を入れるわ。合図があったら動く形で』

『了解』


チャットを使い会話しつつ、十分程度。

敵性モブに襲われる事も、勘付かれる事もなく辿り着いたのは、一見すると今まで移動してきた森の中とそう変わらない場所だった。

枝の上から目を凝らして【観察】してみると、

……ん、あれがそうか。

植物や土などによって巧妙に隠された扉の様なものを発見する事が出来た。


『あれ、地面と水平って事は地下に繋がってる感じかな』

『肯定。開けると階段有』

『成程ねぇ』


私の周囲には、少ないながらも昇華、具現の紫煙がある程度漂っている。

過剰供給が出来るような量ではなく、煙草1本程度の量だ。

だが、これだけあれば瞬間的に移動、もしくは肉壁になる事くらいは出来る。

それ以外にも、飴玉型ST回復酒を指輪のような形へと変えて指に嵌めている。

ガスマスクがある為、そのままでは摂取出来ないものの【状態変化】によって気体化すれば良いだけの事。

……でも、火力自体は下がってるんだよねぇ、私。

不安はある。

いつもの様な、潤沢な紫煙や酒気を使う事で行う絨毯爆撃を模した攻撃は出来ない為、殲滅力は低く。

ST回復酒に関しても、数に限りがある為に紫煙駆動を使い続けるような戦い方も出来ない。

出来るとしたら、セーフティエリアに辿り着くまでに行ったような酒気の腕や手斧の展開だが……やり過ぎると遺跡が崩れてしまう可能性もあって怖い。

そんなことを考えていると、


『き、来たわ。先に防衛班が目標付近に接近するから、隙を見て行動開始よ』

『了解。メウラくんは防衛班に合わせて人形出しちゃって』

『了解了解』


作戦開始だ。

森の中に、突然爆音のエンジン音が響いたかと思いきや……扉付近までバイクを乗り回す集団が接近してくる。

まず間違いなく宿無のパーティだろう。

彼らの速度は速く、一瞬で扉まで辿り着く……かと思いきや。

……ふぅん、中々面倒臭い湧き方したなぁ。

ある程度の距離まで近付いた瞬間、扉周辺に狼や猿、鹿や熊などといった野生動物型の敵性モブが突如出現し、戦闘が始まった。

メウラの人形も参戦し、中々カオスな状態になっているものの……私達はこの中を潜り抜けて、扉の先へと行かなければならない。


『患猫ちゃん、一発だけ攻撃耐えられる類の装備ってある?』

『あ、あるにはあるわ。調伏がまだだけど』

『うーん、それは使えないなぁ。……音桜ちゃん』

『畏まりました。対物理、現象結界と、紫煙外装側の障壁の計3種複合ならすぐにでも人数分用意出来ます』

『ゆ、優秀ねぇ……』

『でしょ?それでお願い。合図と切り込みは私がするから、キヨマサくんは殿頼むよ』

『了承』


一息。

大事なのはタイミングだ。

今も、宿無や火車、それ以外にも暴走族がモチーフなのか特攻服に身を包んだプレイヤーや、メウラの人形達が延々と湧き続ける敵性モブ達と戦い続けている。

その中でも、ちらほらとお互いの攻撃が止む瞬間があった。

敵性モブが倒される瞬間だ。


「――今ッ!」


つい声に出して、征った。

枝を蹴り、更に自身の身体を紫煙、酒気で作った手を使って加速して。

それと共に、宿無達が戦闘中に垂れ流したのであろう紫煙を使い、扉を無理矢理こじ開けた。

……予想以上に何も見えないな……。

まだ陽が高い時間だというのに、扉の先は何も見えない。

かろうじて下へと降りる為の階段があるのが見える程度。


「着地ぃー……!」


他のメンバーよりも一足先に扉近くへと着地した私は、自身に迫ってくる敵性モブを無視して空を観る。

患猫、メウラ、音桜、そしてキヨマサの順で落下してきている彼らの軌道修正を行う為だ。

そんな私の行動を咄嗟に理解してくれたのか、


「任せろォ!」


宿無が舎弟なかまを率いて、私へと群がろうとしていた敵性モブ達の動きを妨害していく。

たまに彼らから漏れた敵性モブがこちらに来てしまったものの、それに関しては音桜が張ってくれた障壁でなんとかなっている。

……後でお礼は言わなくちゃね!

暴走族のおかげで、私の落下補助が間に合い。

患猫達は、そのまま扉の中へと吸い込まれる様にして消えていく。

最後、キヨマサが私に対して先に行け、というジェスチャーを出してきた。

元々彼は殿の予定。それを果たすつもりなのだろう。


「ありがとう!」


言って、すぐさま私は扉の中へと飛び込んだ。

暗闇の中を、落ちていく。


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