火車の紫煙外装によって牽引される事、暫し。
私達が降りた、他のエリアと近い位置から森林部の中央へと近い部分へと辿り着いた。
……思ったよりも時間は掛からなかったなぁ。
火車のトライクは中々に突破力が高かったらしく。
私が酒気の腕と斧によって進行方向の木々を伐採する前に、強引になぎ倒しながら進む事が出来ていた。
と言っても、流石に荷車が通れるようなスペースが開くわけでは無かった為、私や数名のプレイヤー達が木々を伐採する事には変わりなかったのだが。
「……いやぁ、ラーニング出来ちゃうとは思わなんだ」
そんな事をしていたからだろう。
なんと【伐採】というスキルがラーニング出来てしまった。
効果としては『木を伐採する際にボーナス』という、単純明快極まりないモノ。だが、だからこそ効果は実感しやすく……ラーニングする前までは勢いで無理矢理に伐採していた木々も、カコーンという小気味いい音と共に簡単に伐採できるようになっている。
他のプレイヤーもラーニング出来たのか、中々に愉快な音を響かせながら森林の中を走り抜けていた。
「そろそろ着くぞ!一応セーフティエリアらしい!」
「はいよー」
火車からの報告に返事をしつつ、私は一度木々の伐採を他のプレイヤーに任せて荷車の後方へと……今まで走ってきた方へと向かい。
今一度酒気の腕と斧を出来る限りの最大数展開した。
周囲に居たプレイヤー達は何をする気だ、と驚いたような表情で一度こちらを見たものの。背後から迫ってきているモノを見て納得する。
そこには、
「流石にモンスタートレインなんてするわけにはいかないからねぇ」
大量の敵性モブが私達を追うように迫ってきていたのだ。
当然、道中でも倒せる限りのモブは倒してきてはいる。だが、如何せんこちらの速度が速かった為に倒す速度も追いつかず。
それに加え、中々の大きさの音を立てつつ森の中を走り抜けている為か、他の所からも敵性モブが集まって来てと、それなりに酷い事にはなっている。
……まぁ、同時対処が出来るだけマシかな。
周囲の紫煙すらも使い手斧を作り出し、敵性モブの群れへと向かって延々と投げ始める。
それに合わせるように、周囲のプレイヤー達も具現煙などを使う事で消費は少なく戦い始めた。
「ん、君それ具現煙?雷とか出すモブって居たっけ?」
「ぇ?!あぁ……コレ、【世界屈折空間】の中層のモブから作った奴ですよ。レラさんは……【酒気帯びる回廊】の方ですか?」
「うん、ボスにボコボコにされちゃったけどね。そっちは?」
「【死迎えぬ天の箱】です。詳細は……言わない方が良いですね?」
「ありがとう。この侵攻が終わった後の楽しみが増えたよ」
知らないプレイヤーと話しつつ、という集中していない状況ではあるものの……しっかり敵性モブを打ち倒していく。
だが既にかなりの数を倒しているというのにも関わらず、敵性モブの数は減ったようには見えない。
……んー、遺跡近くってのも影響してそうだなぁコレ。どうするかな。
事前説明があった通り、遺跡近くにポップ、もしくは遺跡から湧き出しているかもしれない敵性モブ達がこちらに寄って来てしまっているのだろう。
これでは流石にどうしようもないか、と本格的に紫煙を使うか検討していると。
「……ん?影?」
急に、影が差す。
太陽に雲が掛かったわけではなく、単純に巨大なモノが光を遮って出来た影。
何か嫌な予感がしつつも、引き攣った顔を上へと向けてみれば。
『君らで4組目だぞ、全く……』
「1YOUくん!ごめーん!」
紫煙の、甲冑を着けた巨人が剣を振りかぶっていた。
巨大な一撃はこちらへと迫って来ていた群れへと辿り着き、周囲へと破壊を振りまいた。
当然、その余波は私達へと襲い掛かってきたものの……咄嗟に周囲の酒気や紫煙を障壁のように展開した事でその被害を最低限へと抑えていく。
だが、流石に荷車を襲う衝撃を完全に緩和する事は出来ず大きく揺れてしまう。まるでちょっとした遊園地のアトラクションのようだ。
……よくあの時、一瞬とは言え逃げ切れたな私!?
荷車から誰も飛び出して行かないよう、紫煙を操りつつも私は戦闘……火車の方へと視線を向ける。
彼は彼でほぼ全身が浮いた状態でありながら、ハンドルから手を放さず必死に操縦を続けていた。
そうして駆け抜けた先には、外界のセーフティエリア特有の不自然に切り拓かれたと思われる広場が存在し。
私達は滑り込むようにしてそこへとなだれ込んだ。
「あはは、結構愉快なアトラクションだったねぇ」
「スリリングだったけどな!」
「皆無事かー?!途中で振り落とされた奴とかいねぇよな?……いないよな?」
「不安になるな!パーティ単位で集合、リーダー格は篝火の方に到着報告!」
周囲を見てみると、顔から地面へと突っ込んだのかボロボロになっているメウラと、しっかり障壁等を使う事で安全に荷車から降りた音桜の姿があった。
彼らに準備だけはしておくようにと一言伝えた後、私は篝火の方へと向かって歩き出していく。
どうやら私達の組が最後だったようで、バーで自己紹介をした面々に加え『Sneers wolf』の主要メンバーが集まっているのが目に観えた。