目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
Episode3 - OWI2


降り立ち、最初に感じたのは視線だった。

周囲から刺す様な、こちらに対する敵意を隠す事もない真っ直ぐな視線。

それが、周囲の木々に隠れる様に向けられていた。


「んー、もう見つかってるかぁ。メウラくん、頼める?」

「おう、空中じゃなけりゃどうにでもなるぜ」


だが、私達が今すべきなのは殲滅ではなく他のメンバーとの合流だ。

一々周囲の敵性モブらしき者達を相手にしていたらキリがない。

……リソース的に……外界だからこのまま酒気で。

私の背中に付いていた酒気の翼が解けるように空気中へと解き放たれ、2つの形へと変わっていく。

1つは、私の紫煙外装である手斧と同じ形状に。

そしてもう1つは、私の身体から生えるように成形され直した酒気の腕だ。

だが、それらも1ずつではなく、出来る限りの数……凡そ20程度ずつだろうか。

まるで千手観音のように腕を生やし、手斧を握らせている姿に、メウラは人形達を召喚しつつも呆れた様な表情をこちらへと向けた。


「おま、観音様みてぇな……」

「良いでしょこれ。ぶっつけ本番」

「またかよ……!」

「あ、音桜ちゃんは落ちてきてる人達の【魔煙操作】の補助してあげて」

「畏まりました」


言って、周囲に向かって酒気の手斧を投げさせる。

瞬間、空気の破裂する音が連続して森の中へと響き渡った。

……うん、しっかりスキルの効果も入ってるねこれ。

私の身体の延長のような場所から投擲された、斧のような何か。

いつも通りに射出したならば、空気を破裂させるような勢いで放たれる事はない。

だが、今回はしっかりと【投げ斧使い】の効果が乗ってくれたのだろう。数多くのログが流れていくのを傍目に、私は再度、酒気の手斧を作り出し、構える。


「意外と適用範囲が広くて助かるなぁ」


これならばまた【投擲】や【斧の心得】辺りをラーニングした時にも活躍できそうだ。

そんな事を考えている間にも、酒気による攻撃は続いている。

気が付けば、周囲はメウラの人形達によって木々を伐採、広めの空き地へと変化して。

音桜の補助によって、他のプレイヤー達がゆっくりと降りてきていた。

その中でも1人、特攻服を着たリーゼント頭の……宿無ではないプレイヤーが話しかけてくる。


「すまねぇ、『紫煙頭巾』。助かった」

「いんや、こういうのは出来る人がやるべきだしねぇ。……えぇっと」

「自己紹介がまだだったな。俺は宿無兄貴の舎弟メンバー、火車だ。一応ここらのプレイヤー全員の移動のフォローをする事になってる」

「おっけ、火車くんだね。後は頼んでいい?一応他と合流するまでは私らが敵性モブとの戦闘を受け持とうと思っててさ」


何も、戦闘がしたいからそう言っているわけでは無い。

単純に、私の持つスキルが周囲のリソース温存に使えるから、というだけの事。

【酒気展開】によって常時武器として使える酒気を垂れ流し、足りなくなったら【酒精生成】によって酒を作り出す。

外界という場において、以前降りた時に設置されていた篝火のような場所でもない限りガスマスクは外せない。それはつまり、煙草によるST回復が自由に行えない事を指している。

と言っても、ST回復薬のようなアイテムもある為、そこまで不自由な事もないのだが……だからと言って、この後に何が待っているか分からない現状、出来る限りの資材消費は抑えておきたい所なのだ。

それらの理由を話すと、火車を含めた周囲のプレイヤーは納得してくれたようで。

しかしながら、何もしないのは忍びないと出来る範囲で消費の少ないスキルで戦ってくれるとの事だった。

……ま、これもPvPコンテンツにあんまり参加しないからとれる選択だよねぇ。

他のプレイヤーに知られても構わない戦法を取る事が出来る。これは立派な利点の1つだ。

私が使う戦法はコレだけではないし、その一端は既にノリと好奇心に動かされた結果、鼠都戦で見せてしまっているのだから。


「で、火車くん。どうやって皆の移動をフォローするのかな?」

「簡単だ。って言っても、ちょっと何人かには……いや、あんたらだけでも行けそうだな。周囲の紫煙を全員が入れそうな荷車の形にしてもらっても?」

「おっけぃ。音桜ちゃん、メウラくん。頼める?」


上空からの滑落補助を実際に受けたのだろう。

私達、といっても主にメウラと音桜がこの場にいるプレイヤー全員が乗れる程度の大きさの紫煙の荷車を成形し、私が【状態変化】によって固体化した所で、火車が自身の特攻服の袖を捲り上げ、


「来い、俺の愛車ァ!」


腕に付いた黒い腕輪が、鈍い光と共に紫煙を発し始める。

次第に腕輪が彼の腕から外れ、紫煙と共に何かを作り上げていく。

……これは……大きめのバイク?

所謂、トライクという奴だろうか。前輪にあたる位置に2つのタイヤが付いており、普通のバイクと比べると巨大な姿をしていた。

座席やハンドルなどの部分に紫煙外装特有の黒い謎物質が、それ以外は固体化しているであろう紫煙が成形しているおかげで、ファンタジーに登場しそうな外見となっている。


「これに荷車を繋げて、合流地点まで引っ張っていくわけだ」

「へぇ、中々イカしてるじゃん。ちなみに速度は?」

「スキルとこいつ自身の能力も乗って、それなりに出るぞ。少なくとも身体強化してる奴よりは速いはずだ」

「おぉー上々じゃん」


何でもありの紫煙外装だからこそ、プレイヤーによってはこのような乗り物型も存在する、という事だろう。

速度も出るならば、これに乗って突っ込むだけでもダメージは出せるだろうし良いモノだ。

……他人の芝は、って言うけど……乗り物系はやっぱり良く見えちゃうよねぇ。

似たような事は出来るだろうが、それを固有で持っているか否か、という点は大きい。

少しだけ羨ましく思いつつ、私は他のプレイヤーに倣い荷車に乗り込んでいった。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?