「――と、言うことで。おーい、レラ。主目的話すからちょっとこっちに意識向けてくれ」
「ん、あいよー。話自体は聞いてたけどね」
いつの間にか自己紹介タイムは終わっていたらしく。
1YOUが巨大な書き込み可能なウィンドウを出現させる。
そこには現在のエデンがある位置を表している地図が載っているらしく。
「今エデンが在るのは丁度このマップの中央。ここだ」
森林、荒野、草原、そして砂漠の4つのエリアが重なり合う位置。
エデンはそこから砂漠へと向かって移動しているらしい。
……今後はちょっと外に出る時大変そうだなぁ。
砂漠を地に這う様に移動しているわけではないとはいえ、空気中に舞う砂自体はエデンへと到達するだろう。
下手すれば、ガスマスク辺りを着けながらエデン内を移動した方が良いかもしれない。
「今回我々『Sneers wolf』が侵攻しようとしているのは、こっち、森林部の方。……このマップからは分からないが、この森林部には数多くの遺跡が在る事が分かった」
「遺跡、ですか」
「そう、遺跡だ。うちの斥候班が見つけてきた情報で……あったあった。これがそのスクショだ。敵性モブの数が多くて中には入れなかったようだがな」
そう言って、新しく表示されたウィンドウには、確かに遺跡が写っている。
石造りで、所々に苔や木々の侵食を受けており、中は暗く外から伺うことは出来ない。
だが、それよりも目に付くのは敵性モブの多さだろう。
表示されているスクリーンショットの半分以上は動物系の敵性モブが写っており、下手なモンスターハウスよりも多いくらいだ。
……確かにこれは数が必要になるなぁ。
これがこのスクリーンショットの場所だけならば、ここに集まっているプレイヤー達だけでも対処は出来るだろう。
それこそ、1YOUだけでも十二分に討伐出来るはずだ。
だがそれをしない選択をとった理由はただ一つ。
「数多くの遺跡って言ったよね?もしかしなくても、遺跡の数だけこんな数の敵性モブがいる感じかな?」
「話が早くて助かる。このスクショには動物系のみが写っているが、他にも機械系やゴーレムと言った無機物系。一見居ないように見えて、周囲の木々に紛れている植物系など様々だ」
「なるほどぉ、だから私達が必要、ってわけねぇ?」
以前話してくれた、攻略時間を合わせる、というのもここに関わってくるのだろう。
遺跡が繋がっている可能性もあり、中に何が待っているか分からない以上、全体的に数を削るようにした方がいい。
だがそうするならば、もっといい方法があるはずだ。
例えば、
「それって、遺跡を破壊しちゃダメなの?明らかにモブ達のスポーン位置とかそういうタイプでしょ?」
「それは確かに考えたんだがな……出来なかった、というのが大きな理由だ。俺の紫煙駆動でも傷一つ付かないんじゃお手上げだ」
「あー、巨人でもか……」
このゲームでは、基本的に建造物と言えど破壊しようと思えば破壊する事が可能だ。
たまに始めたばかりの初心者が、防衛戦でもないのにも関わらず、大規模破壊系の紫煙駆動を起動してGM等に連れていかれる事も珍しくはない。
その上で、破壊力もあるであろう1YOUの紫煙駆動……紫煙の巨人によって破壊出来ないオブジェクトという事は。
……何かしら、重要な情報とかアイテムがあるかもしれない……って感じかな?
それを得られるように、遺跡内を探索できるようにするために私達は動員されるのだろう。
「大体理解したよ。……でも1つ問題があるよね?」
「そうだなぁ……バカな俺でも分かるぜ、1YOU。どうやって狙った位置の外界にアクセスすんだ?流石に俺の単車でも狙った所にテレポート、なんて能力はついてねぇぞ」
「それなら問題ない。というか、この中の何人かは既に今回やろうと思ってる方法を既に試しているはずだ」
1YOUの視線は、私を含めた何人かに向けられる。
……まさか。いやいやそんなバカな事するわけ……。
頬が引き攣るのを感じつつ、1YOUに笑いかけると。
しっかりと彼は笑みを浮かべてこう言った。
「――
そして、時間は現在へと巻き戻る。
酒気による翼を使って周囲のパーティメンバー2人を回収しつつ。私は更に周囲の紫煙を操る事で、着地までに間に合うか怪しいプレイヤー達を自身の周囲に集め、
「皆、ちょっと紫煙頂戴!紫煙!でっかい滑り台作るから!」
「あんた……レラちゃんか!」
「『紫煙頭巾』!助かる!まだ【魔煙操作】の熟練度稼げてねぇんだ!」
「とりあえず紫煙なら何でもいいんですよね?じゃあこれで!」
瞬間、私を先頭にする形で紫煙による斜面を作り出し、簡易的な滑り台を空中に作り出す。
つい最近のイベントでも行った、空中での姿勢制御がしにくい人用の滑落補助だ。
……あの時より段階も上がってるから、まぁまぁ楽に作れるなぁ。
操作系の3段階目の追加能力は操作難度緩和が主となっており、【魔煙操作】にもそれが追加されている。
それに【多重思考】が合わさる事で、巨大で、尚且つ横から落ちないように柵のようなものを作り出す余裕すら今の私にはあるくらいだ。
「よぉーし、目標地点までこれで行くから!紫煙駆動とか使っちゃった人はごめんだけど自分で回復して!」
プレイヤー達の応答の声を聴きながら、私はメウラと音桜を連れて先に降りていく。
なんだかんだ言って、一度経験している事だ。
慣れている私達が先に降りて、後から降りてくるプレイヤー達のサポートをした方が色々とスムーズだろう。