「よし、準備は良いな?――行くぞ!」
掛け声と共に、私達は堕ちていく。
高く、様々なモノが観える位置から、地面へと向かってのフリーフォールだ。
ただ自殺行為をしているわけではない。
しっかりとそれぞれが生き残る術をもった上での自由落下だ。
……本当にこの方法でいくとは思わなかったけどねッ!
現在、私達のパーティを含めた『Sneers wolf』のメンバー達は、外界へと向かって侵攻を開始した。
その上で、外界の同じ場所から行動開始が出来るよう、門を使っての転移はしなかったのだ。
「私は慣れてるけど、コレ慣れてない人にとっては中々辛いよねぇ。どう思う?メウラくん」
「言ってる場合かぁ!俺らのパーティはお前頼りなんだぞ!」
「いえ、メウラさんはそうかもしれませんが、私は別にお姉様の手を借りずとも空を飛ぶくらいなら出来ますよ?」
「あは、まぁ一応大丈夫だよ。距離感とかは測ってるし……何より、私がしくじっても他のメンバーもいるからね」
言って、指揮棒を握っているかのように指を動かせば。
アクセサリー状に固めていた酒気が弾け、翼のような形となって私の背中にくっついた。
少しばかり気を付けねばすぐに落ちてしまうものの……滑空程度ならばコレで十分出来るだろう。
今も騒いでいるメウラを余った酒気を使ってこちらへと手繰り寄せ、音もなく寄ってきた音桜が離れないように固定して。
集合地点へと私は飛んでいく。
時は遡り、数日前。
私が『酒呑者』にボコボコにやられ、鍛え直そうと考えていた時の事。
『すまない、今暇かな?』
「ん、1YOUくんじゃん。何かあった?」
『外界侵攻の話があっただろう?あれの日程がある程度決まったから、それの報告と調整をしようと思ってな。この前のバーに来てもらってもいいだろうか。他のパーティリーダーとの顔合わせもある』
「おっけ、了解。少ししたら行くよ」
外界侵攻。
そのゴールについて、私は全く何も知らない。
何をもって侵攻するのかも、その過程に何が待っているのかも分かっていない。
だがゲームらしく、私の
他の2人……メウラと音桜も特段異論を唱えている訳でもないため、別に問題はないだろう。
……でも、そろそろどうして侵攻するのかってのは知っておかないとね。
目的を知っておく、というのは重要だ。
もう後戻りは出来ないものの、参加する上で事前に心構え等が出来るか否かは、その場の士気に関わってくるのだから。
「よし、行こう」
作っていたタバコをインベントリ内へと入れ、私はマイスペース内から出てバーを目指す。
「お邪魔ー」
「お、来たな」
バーの中へと入ると、そこには1YOUと、それ以外にも何人かのプレイヤーが居るのが見えた。
……ん、何人か見た事ある人いるな。
エデンで見た事がある人や、以前の対人イベント時に見た人。
赤ずきんのような姿をしている私が言う事でもないが、中々に目立つ格好をしている人達だ。
「では先に紹介から。皆、知ってると思うが彼女がレラ。この前の鼠都の時にかなり頑張ってくれたプレイヤーの1人だ」
「はいよ、よろしくね皆。……まぁそこまで実力があるわけではないから、サポートとかそっちで頑張ることにするよ」
「……置いておこう。さて、ではそっちの……レイリィから頼めるか?」
「はぁい」
1YOUに促され、ファンタジーの魔女然とした恰好をした女性プレイヤーが返事をする。
紫煙外装らしき黒い杖を持ち、複数の入れ墨が入った彼女は、こちらへと視線を向ける。
……うん、値踏みされてる感じだねぇ。スキルも使われてるかな?
【観察】のようなスキルではないとは思うが、何かしら相手の情報を把握できるスキルか何かを使っているのだろう。別段、PvPをするつもりは無い為に良いのだが。
「パーティ、というかぁ。『
「彼女達『魔女の集い』は基本的に前線の支えとなってもらう予定だ。何かあったら彼女達に頼ってくれ。……では次に、
「おう」
次いで呼ばれたのは、パッと見、暴走族のような特攻服を着たリーゼント頭の男性プレイヤーだった。
紫煙外装らしき装備が見当たらない為、私の手斧のように呼び出す類のモノなのだろう。
「俺は宿無。主にダンジョンや外界で仲間内で単車乗り回してるだけのプレイヤーだ。『魔女の集い』みてぇな大所帯じゃねぇが、5人程度のパーティだ。夜露死苦ゥ」
「宿無のパーティは機動力と単体火力に特化していてな。周囲のプレイヤーの移動速度を上げるスキルも持っている。基本は戦場と戦場の間での人員移動や、要所での火力担当になってもらう予定だ」
……結構長くなりそうだなぁ。
まだ紹介待ちは4人程居る。
本題に入るまでかなりの時間が掛かりそうな為、私は一度、バーのカウンターに座り適当なグラスに氷を入れて【酒精生成】によって酒を注いでちびちびと飲み始めた。