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Episode21 - B


--【酒気帯びる回廊】5層


私の所為で、と付けると中々に罪悪感が湧くものの。

焼け落ちた集落の中を歩いていくと、様々なものを見た。

まずは建物。住居であったろうそれらは、今も燃えているものもあり、近付くのは難しい。

だが、


日本リアルの建物っぽさがあるなぁ」


どこか、和式を感じさせる造りをしているのが見て取れた。

それ以外にも、既に炭化してしまった為に何かは分からないが物を売っていたらしき建物や、巨大な寺院のような建物も存在していたらしい。

……生きてるのは……いるけど、まぁ襲ってこれないか。

当然ながら、集落だったのだから住民はいる。

いるのだが、私に構えるほど元気ではないようで。

所々に傷や火傷、既に光の粒子へと変わっていく者も存在していた。

中々に悲惨な光景。

だが、これを作り出したのは自分であると、あまり感情を込めず、あくまで【観察】の範囲内で留め足を進めていく。

すると、だ。

集落の中でも、変に綺麗な道がある事に気が付いた。


「……うーん、単純に考えればこの道、だよねぇ」


変に寄り道をする必要も無い。

そう考え、小綺麗な道を進んでいくと……小さな神社らしき場所へと辿り着いた。

境内と呼べる広さも無く、ただ鳥居と、その奥に小さな賽銭箱と何かが祀られている祠があるだけの場所。

そして、そんな場所の雰囲気に似合わないコンソールが1つだけ設置されている。

……うわ、ここが1番お酒の匂いが強い。

とりあえず、とコンソールに近付き確認してみれば、1層に置かれていた酒を買うことが出来るコンソールと同じものである事が分かった。

つまりは、


「ここも、【夜塔】と同じパターンかな」


此処から先が、6層。

直接ボスが居る空間へと繋がっている場所なのだろう。

セーフティエリアも何もないこの場所で準備するのは普段ならば中々に骨が折れた筈だ。

しかしながら、今回は心配する必要もない程度には周囲が静寂に包まれていた。


「具現は……周囲に貯めといて。昇華はとりあえず吸っておこう」


魔狼の力を身に宿しつつ、私は周囲を今一度見渡した。

扉の様なモノは存在していない。

ならば、ここからどうやって6層へ……ボスへとアクセス出来るのか。

……あんまりやりたくないけど……まぁ、今更か。

結局の所、答えは1つしかないようなものだ。

コンソールから電気ブランを複数購入し、服用した後。

私は祠へと近付いた。


【祠は封印されています】

【封印を解除するとボス戦へと移行します】

【解除しますか?】


是否を問うウィンドウが出現する。

一息、深呼吸を行ってから私は選択した。


【封印を解除します】

【必要アイテム確認:酒戦士の鍵】


そんなログが流れたと同時、周囲の光景が溶けていく・・・・・

全てのモノの色が抜け落ち、透明となり。

固体から液体となって、堕ちていく。


--【酒気帯びる回廊】6層


階層が表示されると共に、私の身体の制御は奪われた。


――――――――――――――――――――


世は辛いモノばかり。

生きるは死へと繋がる拷問であり、死ぬは永劫の無へと繋がる扉である。

そんな事を、妾は考えて考えて考えて考えて。

考え尽くして、酒へと溺れた。


酒は良い。

考え過ぎる頭を溶かし、心を解かし、そして命をも退かす。

酩酊は救いであり、掬いであり、巣喰い。


気付けば、妾の頭には長く、重い角が生えていた。

……知らぬ。

酒を、酒を、酒を!

……もう見たくない。

紫煙などに惑わされる位ならば、妾は酒に惑わされる!

……考えるのは疲れたのだ。


あぁ、世界さけよ、妾に夢想の力を。

せかいを見ずに済む、逃避の力を。


――――――――――――――――――――


全てが溶けたダンジョンに、それは居た。

小さく、小学生程度の身長に、ある程度はだけた着物。

手には酒好の女戦士も持っていた瓢箪を持ち。

額には、大きい角が2本生えていた。

鬼だ。

それも、童女と言って差し支えないであろう見た目の鬼だ。

それなりの距離があるにも関わらず、僅かに威圧感を感じ、嫌な汗が額から垂れていく。


【『酒呑者ドリーマー』』との戦闘が開始されます:参加プレイヤー数1】


「ッ!?」


ログが流れた瞬間、鬼の姿が掻き消え。

私の視界に危険を報せるアラートが出現する。

咄嗟に前へと転がる様に跳び込めば、先程まで私が居た位置から空気が破裂する音が聞こえてきた。

観れば、そこには上段へと向けて蹴りを放ったであろう姿の鬼がいた。

……速いなぁ!?

目で追えない程の速度。だが反応は出来るし避ける事も出来る。

問題は、それに精一杯になるが故に相手に攻撃が出来ない点だろうか。

致命的だ。

だが、やっとここまで来たのだ。

一度でどうしようもなくとも、二度、三度で越えられるように情報だけは死ぬ気で取る。


周囲に集めておいた具現煙を身体に入れ直し。


【注意!具現煙の濃度が濃すぎる為、アバターに影響が残る可能性があります】

【スキル【鎮静】を使う事で影響を薄め、完全に消し去る事が可能です】


昇華煙によって、気合を入れ直し。


【注意!昇華煙の濃度が濃すぎる為、アバターに影響が残る可能性があります】

【スキル【浄化】を使う事で影響を薄め、完全に消し去る事が可能です】


私は叫ぶ。

左手には手斧を、そして右手には、


「『変われ』ッ!」


新たに手に入れた力を。

『酒呑者』はその姿を見て、薄く笑って……また消える。

それに合わせるように、私は動き出した。

空気が破裂する音と共に、勘で背後へと振るった手斧が強い衝撃を受ける。

観れば、そこには透明な液体で拳を覆い、手斧と打ち合った鬼の姿があった。

……勘で良い。観えないんだから。

否、動きは観えている。

全体の動きは確かに掻き消えてからは追えていない。しかしながら、そこに至るまでの動きの始点だけならば、何とか観えている。

だからこそ、


「追える……!!」


私は『想真刀』を鬼へと振るう。

我武者羅に、当たれば幸いを主にした一刀。最低限のスキルのみしか乗っていないそれは、相手の左上から襲い掛かった。

確かに当たる。だがそれは相手が瓢箪を使って刃を受け止めたからだ。

……硬い。でも、それは攻撃しない理由にはならないんだよ。

傷が付いていないわけではない。『想真刀』の刃を防ぐのに使った瓢箪は、その表面に僅かな傷が出来ているのが観えている。


一息。軽く吸って。

吐く様に、次は私の番だと鬼に宣言するかのように、人狼の身を全力で使って迫る。

鬼はその姿に瓢箪の中身を呑み、顔に赤みを差しながらも応戦した。


刀を降ろし、上げ、薙ぎ、突いて。

一歩下がられ、半身になられ、止められ、狙いを逸らされ。

拳が振るわれ、蹴りが飛び、瓢箪から液体が迫る。

紙一重で避け、頬に掠り、頭からそれを浴びてしまう。

……毒、じゃないのかコレ。

一度距離を取り、自身が何を浴びたのかを確認すれば……スキルで操れる事から、それがただの酒である事が分かった。

一応口に入った分以外を退かせ、遠くへと射出しておく。


地力が足りていないのは分かり切っている。

そも、先の戦いでも腕1本も被害を出している状態で、余裕で勝てる筈もないのだから。

実際、近接戦闘では酒をかけられる程度には実力差が開いている。

当然だ。私の技術など、頑張ったとは言えこの間のイベント中に何とか見れる形にした付け焼刃のようなモノなのだから。


……ここからが本番ッ!

距離を取り、空へ跳び。いつものように紫煙の足場に着地して、刀を手放す。

捨てるわけでは無い。周囲に漂う紫煙が手のような形へと変わり、『想真刀』を握りしめ宙に浮く。

視界は既に白黒へと切り替わり、眼下から私を見上げている『酒呑者』の顔の赤らみも分からない。だが、居るのが分かればそれでいい。

何故かこちらを観察するかのように待ってくれているのだ。出来る限りの準備をさせてもらおう。

インベントリ内から大量に上薬草の煙草を取り出し、火を点け吸って。

発生した全ての紫煙を支配下に置いて、私は人狼の指で銃の形を作り。


「BANG」


言って、行った。

紫煙による、無数の武具の雨。

【多重思考】、そして【魔煙操作】によって出来る最大密度の攻撃だ。

それに加え、手斧の羽根を1つ千切り取って。


「『煙を上げろワイルドハント』ォ!」


群青の紫煙を纏い、投げつける。

全力の一撃。紫煙駆動を使わないで行える最大火力。

群青の狼が、今も徒手格闘で紫煙の武具を砕き続ける鬼の元へと向かい、


『!』


その顎を鬼の両手によって受け止められた。

しかし、余裕ではない様で。

両腕から出血しつつ、その場から大きく引き摺れられていった。

だが、それも長くは続かない。

……難しいか。

群青の狼が膂力によって砕かれ、散っていく。

その間にも紫煙の武具によって攻撃しているのだが……その身体にすら、武具は届かなくなっていた。


「……酒気、だけじゃないな」


薄く球体状に展開された酒気。

但しただ単に球体にされているわけではなく、高速で回転させて展開している様で。

徐々に周囲の液体を取り込み、巨大な渦……竜巻の様になっていく。


「あっちゃー……これどうすりゃいいんだろ」

『――【Give Up One】』


声が聞こえた瞬間、私の身体は上空へと打ち上げられる。

強い衝撃が身体全体に走ると共に、HPが大きく減少していくのが目に観えた。

どうにか現状を把握しようと周囲へと視線を向けていくと……すぐ近くに、笑みを浮かべた鬼がこちらへと拳を振るおうとしている事に気が付き、


「ッ」


何とか防御、もしくは回避を行おうとして身体が動かない事に気が付いた。

……私が良くやる行動阻害か……!

関節等に酒気を纏わりつかせる事で、相手の動きを遅くしたり見当違いの方向へと動きを誘導する技術。

あまり強く阻害したとしてもこちらの狙い通りにならない為に、私はあまり力を入れないのだが……目の前の鬼はそうではないようで。

私の身体全身に強く酒気を纏わりつかせる事で、身動きを取れないよう拘束している。


『Good Game. Bye』


言われた瞬間、私の視界は暗転した。



【死亡しました】

【デスペナルティ2h:全ステータス制限酒気耐性低下


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