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Episode20 - D4


慌てつつも、目は逸らさない。

【観察】の効果もあるが、私と同じ様に空中を渡る術を持つ者だ。

変に目を離して見失いでもしたら、遮蔽の無い空中では致命的なのだから。

……【酒精操作】持ちは確定、あとは……【酒気展開】もか。

迫ってくる相手よりも遅い速度ではありながら、距離を取りつつ足元を観る。

そこには、砕けていくものの……薄く白い何かが在った。

酒気だ。

それも私よりも操作の段階が高いのか、先程からアクセサリー状に固めている筈の酒気が揺らぐ様にアマゾネスの方へと流れている。

この相手に酒気を使った攻撃をしても無駄になる可能性が高いだろう。


「よっと」


ならば、やれる事は1つ。

空中での近接戦闘だ。

一度高く跳び上がり、いつの間にか大きく骨の大剣を振り上げているアマゾネスに対し、私は右手で軽く手斧を握りつつ、


「『変われ』」


左手の内に、『想真刀』を呼び出した。

一瞬、それを見た相手は表情を歪ませたものの、再度空中を蹴る事で私の目の前まで移動し、


『――ッ』


大きく骨の大剣を振り下ろす。

それに合わせる様にして、私は現状の体勢で出来る限りの力強さをもって刀を振るった。

金属同士が強く打ち合った音が空中に響き渡る。

それと共に、私の左腕には重い痺れが伝わってきた。

……うわ、受けただけなのにHP削れてるよ。

減った量は少ない。だが、受けるだけでもHPが減る以上、あまり多くは受けられない。

具現煙を使えばそれすらも踏み倒していけるが……今は一度置いておこう。

問題は、相手の大剣が『想真刀』と鍔迫り合いになっている点だ。

アマゾネスの力は強く、足場を形成し踏ん張っていても徐々に後ろへと押されていくような感覚がある。


「切れ味も耐久も十分ってわけだねッ!」


それを無理矢理に、紫煙の手を作り出し自身の背後から身体を押す事で一度弾き返した。

力は向こうが上。

スキルの……操作系の段階も向こうが上。

優っている点があるとすれば、【観察】による動きの始点が分かるが故に、【回避】などをこちらの動きに適用出来る所だろうか。

……長い事戦うのは得策じゃ無い……ん?

そう考えていれば、向こうは向こうで空中の酒気の足場の上で喉を鳴らしながら瓢箪の中身を飲んでいた。

それに伴って、アマゾネスの顔が赤みを帯びていくのが観て分かる。


「……成程、そっちはそっちで短期決戦型か」


確実に、あの瓢箪の中身は酒なのだろう。

『酩酊』のスタック値が一定以上になれば、動けなくなる程に身体が重くなってしまう。

ステータスの低下も入るはずだ。

だからこそ、条件自体は似た様なモノ。

ならば、


「訓練の成果、ここで見せるかぁ……!」

『……』


アマゾネスは空中に立ちながら嗤う。

私が手斧を仕舞い、右手に『想真刀』を構えたからだろうか。それとも、彼女の琴線に触れたのか。

どちらかは分からない。だが、私に応えるように骨の大剣の切先をこちらへと向け、構える。

……伊達に、AIルプス相手に延々訓練してたわけじゃ無いんだよ。

イベント中に黒狐と戦った時から比べれば、私の練度は上がっている。

それはスキルの段階にも現れる形で見えている。

だからこそ、


「――勝負」


征った。

空中に紫煙の足場を作り出しながら、アマゾネスへと向かって駆けていく。

同時に彼女も走り出す。

当然ながら、向こうの方が速く私の元へと辿り着き、大剣を上段から振り下ろそうとして。

私はそれをしっかりと観て、身体を逸らす事で紙一重で避ける。

そうして出来るのは一瞬の隙。

既に回避した私へと向けて、下から掬い上げるような動きで大剣が迫ってきているのが観えていた。


……いける。

だが、それはまたも届かない。

幾本もの紫煙の手が、上から押さえつける事で大剣の動きを阻害しているからだ。

それすらも次の瞬間には虫でも払うかのように消えてしまうだろう。

だからこそ、私は一刀を振るう。

上段に構えた刀の刃に、紫煙の鞘を被せるように形成し、変則的な【居合】として大剣を持つ右腕を斬り付ける。

一閃。

一瞬の間に生じた酒気による障壁すらも叩き斬りつつ、私の一振りはアマゾネスの腕へと裂傷を刻み付けた。

だが、まだ止まらない。


「『変、われ』ぇええ!」


振り下ろした刀に、再度紫煙の鞘を形成し。

下から斜め上へと、右腕から肩、アマゾネスの顔へと向けて、怨念の刃を纏った刀を振るった。

それに合わせる形で、骨の大剣が酒気の刃を纏い私の身体へと迫る。

避ける事は出来ない。だが、それで良い。

……1本は許容範囲!

半身となっている身体の、刀を持たない、まだ甘い痺れを感じる左腕。

それを紫煙の障壁と共に大剣の軌道上へと置くことで、勢いを阻害し、


「ッ――」


斬り飛ばされる。

しかしながら、致命となり得る首へと届く前に完全に大剣は停止し。

私の刃は、アマゾネスの身体を大きく斬り裂いていた。

酒臭い鮮血の華が空に咲く。


『――見事』

「君、喋れたのか」


急速に減っていくHPを見つつ、力無く堕ちていくアマゾネスへと視線を送る。

次第にその身体は光の粒子へと変わっていき……笑みを浮かべた彼女は空へと還っていった。


【酒好の女戦士を討伐しました】

【討伐報酬がインベントリ内へと贈られます】

【特殊討伐報酬:酒戦士の鍵を入手しました】


ログを見て息をつくよりも先に、私はインベントリ内から具現煙の煙草と普通の上薬草の煙草を取り出し一気に火を点ける。

その場のノリで腕一本を斬らせてしまった為に、今も『出血』などのデバフが重なりHPが継続的に減っているのだ。

具現煙の過剰供給を行いつつ、当然のようににょきにょきと生えてくる腕を見て引きつつも。

ある程度のHPが回復し、動いても問題がないと判断できる状態になってから私は今も燃える集落跡へとゆっくりと降りていった。


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