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Episode19 - D3


結論から言えば、親玉等の類は見つける事が出来なかった。

先に次の階層へと繋がる場所・・を見つけてしまったからだ。

そう、階段ではなく場所だ。


「……うーん、警戒されてるっぽいな」


遠巻きにこちらを見る人型の敵性モブを空中で数えつつ、私はその場所を観る。

それは、マングローブの木々を使って作られた集落だった。

中へと入ろうとすれば、次の階層へと移動する云々が書かれたウィンドウが表示される。

しかも、移動しなくとも中に居る敵性モブからは攻撃されるのだ。

中々にどう進むかを考えねばならない……のだが。

……正直、攻撃が通るって事は……そういう攻略法もあり、って事なんだろうなぁ。

紫煙も酒気も、私が4層に居る状態で集落の中へと侵入させる事が出来た。

その状態で【状態変化】及び各種操作系スキルが使えるのも確認している。


つまるところ、私はここから一歩も動かずとも集落を破壊しようと思えば……出来てしまうのだ。

それは他のプレイヤーでも似たような事が出来るだろう。

一番分かりやすい所だと1YOU辺りだろうか。紫煙の巨人を集落へと攻め入らせるだけで壊滅くらいはさせる事が出来るはずだ。

だが、それらの選択が出来る、という事は。


「何かしら、居るんだろうなぁ。ボスみたいなのが」


威圧感の類は感じない。

未だ集落内の敵性モブ達は明確な敵意を私に向けているわけではない。

私がここから攻撃を行ったり、集落内へと侵入した場合はまた別なのだろうが……どうしたものか。

……中に入る事と、入らない事での選択肢。【隠蔽工作】を使えば空中からでも入れるだろうけど。

気が付かれないで侵入する方法はある。

それこそ、ステルスアクション用にラーニングした【隠蔽工作】を使えば一発だ。

だが、中に入って何があるかと言えば……今の所、階層が進む程度の情報しかないのも問題だろう。


「考えても仕方ない類かな。……よしっ」


こういう時は直感に……否。

私の場合は、好奇心私の持病に身を任せるべきだろう。

やる事は単純にして、やったらどうなるかが気になる事。

それは、


「紫煙駆動、起動」


空中からの、出来る限りの手斧の投擲だ。

結局の所、気になるのは4層に居る状態で推定5層であろう集落を攻撃したらどうなるのかという点。

これによって進行不能になった場合は再挑戦すればいいだけの話ではあるし、藪をつつく結果になったとしても……それはそれで面白いだろう。


紫煙の斧が私の左右に出現したのを確認した後、私は酒気を固めたアクセサリーを1つ解放し、手斧へと纏わせる。

【狼煙】も使おうかと思ったものの、この後に何か変なものが出てきた時に対応できなくなったら不味い為、今回は普通に投擲するだけにしておこう。

但し、しっかりと紫煙の斧には紫電を纏わせるのだが。


「じゃ、頑張りますか――ねッ!」


出来る限りの力強さをもって、投げつける。

たったそれだけの事をしただけなのにも関わらず、空気が破裂するような音と共に手斧と紫煙の斧は飛んでいき……集落の一部の建物へと直撃。

その瞬間、


「うわぁお……ッ」


紫煙の斧に纏わせていた紫電によって、引火し爆発が起きる。

衝撃がこちらへと伝わると同時、私はその場から更に跳躍する。

その場が危険域であると知らせるアラートが視界に表示されたからだ。

……一体何が……!?

昇華煙の煙草を取り出し、口に咥えつつも私は先ほどまで自分が居た位置を観る。

すると、そこに向かって巨大な木製の杭が数本、集落の方から射出されてきているのが分かった。


「すぐに迎撃って訳?……いや、違うな」


それだけか、と安心しそうになった頭を軽く横に振る事で考えを吹き飛ばす。

先程までならば感じなかった、私の肌を刺すような威圧感が炎に包まれる集落の方から発せられているからだ。

……うーん、やっぱり藪蛇だったかぁ……。

視線を向ける。


燃えていく集落の建物の中から、1人の人型敵性モブが現れ空中に居る私を睨みつけてくる。

褐色の肌。想像上のアマゾネスのような、最低限の恥部を隠せる獣の毛皮で出来た鎧。

そして極めつけは、その手に持っているものだろうか。

巨大な骨の大剣と、瓢箪のようなもの。


「やっぱりここでも酒飲みか……」


それなりに距離があるというのに、既に私を捕捉している以上……逃げるなんて事は許されないだろう。するつもりも一切ないが。

そして降りるつもりも一切ない。

相手が持っている得物の1つが大剣……つまりは近接用の装備なのだ。近接で戦う相手に対して、わざわざ相手と同じ土俵に立って戦う意味もない。

私はここにプライドバトルをしに来たわけではなく、攻略をしに来たのだから。

そう考え、戻ってきた手斧を再度構えようとした所で……相手が動く。


「おいおいウッソでしょ?!」


軽くその場で跳んだかと思えば、私のように空気中の何かを足場に連続で跳躍して。

こちらへと凄まじいスピードで迫ってきたのだ。


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