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Episode18 - D2


酒精の槍が、小さい妖精の元へと殺到する。

それをフラフラとした動きで避けていく妖精を見つつ、倒れた身体を起こしていると。

……もしかして、アレ全部『酩酊』付与系……?

妖精が動くと共に、周りに薄く輝く粉のようなものが舞っているのが目に観えた。

幸いにして、私の元には届いていないものの……こうして観えるように舞っているのには何か理由があるはずだ。

そう考え、私は粉には触れないように周囲の紫煙を操り竜巻を起こす。

竜巻の中心に妖精を配置するような形で、逃げ場を無くすと共に変に粉が広がっていかないようにするためだ。


「蓋もしておこうか」


妖精が何とか抜け出そうとしているものの、竜巻の勢いに身体を持っていかれてしまうのか、上手く動けないようだった。

このままでも十二分に行動阻害として使えるだろうが……私は次いで、槍状にして周囲に浮かべていた酒を操り始める。

竜巻の規模感を小さくしつつ、その上から覆うように酒を使って水球の檻を作り出す。

次第に逃げ場が無くなっていくのに焦りを覚えたのだろう。

妖精がこちらへと見つつ、その目を何度も光らせるものの……何も起こらない。

恐らくは最初の落とし穴のようなものを周囲に設置したのだろうが、


「悪いけど、私は元々空中で戦う事の方が多くてね」


その場から跳び上がり、いつもの様に空中に紫煙の足場を作り出す。

それと同時、私が動いたからなのか……突然元々居た位置の地面が何度も爆発、透明な縄が何本も殺到したものの……対象となっていただろう私がその場に居なかった為に不発で終わる。

……1体だから問題なく対処出来てるけど、これが他のモブと一緒に出てきたら面倒だな。

この時点で、妖精の能力には凡そアタリは付けている。


「『酩酊』付与加速に、主に拘束系、たまにダメージを与える類の罠設置。本体は攻撃力を持たない、完全な支援型の後衛ポジション……厄介だなぁ」


詳細は違うかもしれないが、大体は確定でいいだろう。

正直、面倒が過ぎると愚痴をこぼしたくなる程度には面倒な相手だ。

何故ならば、


「これ、デバフ加速以外は他のダンジョンでも出て来れるじゃんね」


流用が可能な点。これに限る。

今回挑んでいる【酒気帯びる回廊】は『酩酊』が時間経過によって増えていく形式のデバフ特化型ダンジョン。

だからこそ、『酩酊』のスタックを増やすような調整がされているものの……これが『猛毒』や『出血』などといった、分かりやすいダメージ付与系のデバフだったら……地獄だっただろう。


「一応確認しておくか……載っては……ないね。新種かぁ……」


完全に妖精を閉じ込めたのを確認してから、周囲の警戒をしつつ掲示板を開く。

覗くのは、大部分のプレイヤーが外界での探索をするようになった為なのか立てられた、要注意モブが載っているスレッドだ。

まだまだ掲載されている数は少ないものの、ダンジョン内に出現していたモブなんかも外界で襲いかかって来る事もある、という事で。

スクリーンショットと共に共有しておく事にした。


「結構反応あるな……ま、今回はこの辺りで倒しておこう」


対策に関しては、私じゃなくこの掲示板の住民が考えてくれる。

それを見て、出来る所を使わせて貰えば良いだろう。

私はそのまま、酒の水球を圧縮するように小さくしていく。

その流れで、紫煙の竜巻も同じように圧縮し密度を高めていけば、


【ドランクフェアリーを討伐しました】

【ドロップ:酒妖精の粉×1】


小気味良い音と共に、中に居た妖精は潰れ光の粒子と変わって消えていく。

……粉、粉かぁ。

試しにインベントリ内から取り出してみると、マングローブの木で作った小さな壺の中に少量の光る粉が入っている状態で実体化した。

粉自体は別に良い。

他の何かしらの部位などがドロップしたところで、恐らくサイズが小さ過ぎる為に使えないからだ。

しかし粉となると、話が少し変わってくる。


「薬品関係って、流石にメウラくんはラーニングしてないだろうし……1YOUくんに相談かなぁ」


酒、と名がついている以上、効果は『酩酊』を付与するものだろう。

流石にここで詳細を確認する勇気は無いが、数を用意しておけば何かしらに使える可能性はある。

似たような物を自前で作れなくは無いが……流石にドロップ品よりは価値も質も下がるだろうから。


「よし、じゃあ方針は決まったって事で……フィールドボス探しますか」


1YOUに酒妖精の粉について個人チャットを送った後、私はその場から動き出す。

2層、3層の事を考えれば、この4層にも似たような存在が居るはず……だと思いたい。

……2層はアロワナの群体、3層は海賊だったわけだけど……今回はどうなるかなぁ。

妖精が出てきた時点で少しばかり不安がある。

群体でも、それの親玉的存在でも、どちらでも厄介な事には変わりないからだ。


「出来れば……親玉の方が相手はしやすいだろうなぁ……」


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