ラーニングするべきスキルの筆頭は決まっている。
【刀の心得】。これ以外は無いだろう。
『想真刀』を絡めた戦闘において、要とも言えるスキルだ。
それに加え、先のボス戦で得た【居合】も組み合わせればそれなりに戦う事は出来るだろう。
しかしながら、それでは一芸特化が過ぎる。
……【居合】も限定的過ぎるしね。
【居合】はその名の通り、鞘に入った刀を抜いて相手を斬る時にボーナスが乗る、というスキル。
元より抜き身の状態で具現化される『想真刀』に、紫煙によって作られた鞘でも発動する分、その制限自体は緩めだが、
「一々、頭のリソースをそっちに割きながら戦うってのも大変だしなぁ」
【多重思考】によって、今までよりは楽に大量の操作を行えるようにはなったものの、それでも大変な事には変わりない。
鼠都のように、拘束を力技で破ろうとする相手には付きっきりで操作し続けねばならないし、高速戦闘時にはそんな事をしている暇は恐らく無いだろう。
だからこそ、何かしら他に刀に関係するスキルをラーニングしておいた方が後々楽にはなる筈だ。
「んー……ルプスー」
「何でしょうか?」
「君に聞くのもあれなんだけど、良い刀のスキルってなんか無い?」
消耗品の補充を行っていたルプスを呼び、意見を聞く。
1人で考えるよりは2人で考えた方が違った視点からの意見も出て良いだろう。
問題は、彼女が
「刀のスキル、ですか。【居合】以外で、となると……刀剣系の【両断】や【剣気】、他だと【鎧徹し】等も候補にして良いかと」
「ふむ?【両断】は何となく効果分かるけど、他2つは?」
「どちらもパッシヴ系スキルです。【剣気】は熟練度の段階によって単純なダメージボーナスを。【鎧徹し】はその名の通り、肉体ではなく相手の持つ装甲類に対するダメージボーナスが加算されるものですね」
どちらもダメージの最低値を引き上げるスキル。
『想真刀』の切れ味を考えると、【鎧徹し】は必要ないように思えるが……それはまだ硬い相手を斬っていないだけの事。
持っていて損はない筈だ。
「うん、ありがとう。その2つをラーニングしておく事にするよ」
「いえ、答えられることを答えただけですので」
そう言って再び消耗品の補充作業に戻ろうとする彼女の背を見て、あることを思いついた。
先程の相談も出来たのだ。ダメ元で聞いてみる事にしよう。
ある種、好奇心から湧き出た質問だ。
回答の是否は関係なく、聞ければそれで良い。
「あ、ちょっと待ってルプス。聞きたいんだけどさ」
「……何でしょうか?」
「君って、もしかして頼んだら模擬戦とかしてくれたりする?」
そう言うと、彼女は少し逡巡した後、軽く溜息を吐いてから頷いた。
「出来ます。ただ、その場合はこのマイスペース内にその為の部屋を設置、及び装備を別で用意していただくことになりますが」
「ちなみに模擬戦のルールは?」
「私共は主人に危害を加えられないようになっていますので……致命傷となり得る攻撃が当たりそうになったらその場で終わり、が1番分かりやすいでしょうか」
「成程ね、じゃあそれでいこう」
……いやぁダメ元で聞いてみたけど、まさか本当に出来るとは。
元より、ルプスは私のスキルを参照して生産活動を行う事が出来る従者だ。
そのスキルが生産系のみとは言われた記憶が無いし、彼女の行動原理がそれに縛られているとも言われた記憶もない。
ただ、スキルによって出来る事が異なる、というだけだ。
早速私はマイスペース内に、新たに模擬戦用の部屋……広く、大体高校などの教室程度の広さのものを用意して。
生産区で適当に2本程、NPC産の刀を数本ほど買ってきた。
初心者が持つ用の、言わば初期装備的装備であり、耐久値も切れ味自体もそこまで良くはない。
しかしながら、こうして模擬戦で使い潰す事を前提に考えるならば、これ以上無い代物だろう。
「えーっと、スキルのラーニングは……うん、素材は足りてるね。オッケーィ」
【刀の心得】に始まり、【剣気】、【鎧徹し】をラーニングして準備は完了だ。
ルプスは私の様子を見つつ再度嘆息していたものの、言われたからにはやる気なのだろう。
模擬戦用の部屋で軽いストレッチを行っていた。
「内装自体は簡素で良いよね」
「下手に飾り立てると、刀などを引っ掛けて壊してしまう可能性がありますから、これで問題ないかと」
模擬戦用の部屋の内装は特にない。
コンクリートが打ちっぱなしの壁に床。これだけだ。
ルプスが言うように、変に内装を入れてしまうと壊してしまう可能性もある為、これで良いだろう。
彼女の対面へと立ち、軽く刀を振ってみる。
『想真刀』には無かった、切先に振り回されるような重さの感覚。
慣れていないそれは新鮮なものだが、ラーニングした【刀の心得】によってか、私の身体の芯がブレる事はない。
「では始めていきましょう」
「うん、よろしく」
言って、構え。
すぐさま、こちらへと風が来た。
ルプスが短距離の瞬発によって、一気に距離を詰めながらも、私の喉元へと刀を突き入れようとしてきたのだ。
……容赦無いなぁ!?
その速さと殺意の高さに驚きつつ、私は何とか身体を逸らす事で回避する。
スキルとして【回避】を持っていて本当に良かった。
だが、それだけでルプスの攻撃は終わらない。
避けられたと分かるや否や、そのまま駒のように回転する事で横に薙ごうと刀を振るったのだ。
力任せの荒削りの一刀。
しかし、その動きに無駄はないように観え……その場から大きく跳躍する事で脅威から逃れていく。
……元々、好奇心からの提案だったんだけどなぁ。
これは中々、骨のある模擬戦になりそうだ。