【インクベアーを討伐しました】
【ドロップ:戯画熊の爪×2】
【インクシャークを討伐しました】
【ドロップ:戯画鮫の皮×3】
【インクスネークを討伐しました】
【ドロップ:戯画蛇の毒腺×1、戯画獣の墨×2】
「ん、終わったっぽいかな?」
実際の所、どれくらいの数が居たかは分からない。
ログの報酬の数的には合計6体程度だろうか?ドロップ品を落とさない敵性モブに出会った事がない為、基本はその数で良いはずだ。
……思ってたよりも数が少ないな。誤魔化されてた?
だが、私が感じた視線の数はもっと多かった。
ならば、倒した敵性モブの中に墨を使って分身を召喚する類や、幻覚などを作り出す類の能力を持っている奴が居たのだろう。
少しだけこの後、森を進むのには気を付けねばならないらしい。
「って言っても、この後は……」
進む、と言ってもだ。
眼下に広がる炎の先、私が向けた視線の先には鳥居が存在していた。
1つではない。ご丁寧に現実の千本鳥居の様に、数多くの鳥居が1つの道を作り上げているのだ。
明らかに次の階層へと繋がるであろう道。
そこに向かわない理由は今のところ、私の中には存在しなかった。
「……物々しいな」
空中を跳ぶように移動して、鳥居の前に降りてみると。
異様さがハッキリと分かる。
見える範囲に存在する鳥居全てに、何やら文字の書かれた和紙のようなものや御札のようなもの。
そして極め付けは注連縄が巻かれている事だろうか。
元より、注連縄は外界と聖域を分ける為の印のような役割を持つモノだったはず。
……それがこんな鳥居に巻き付けられてるって……何したんだろう、あの黒狐。
少しだけバックボーンが気になったものの、私がそれを知るのは後で良いだろう。
その手の調べものは、私のようなプレイヤーではなくそれらを専門としているプレイヤーが勝手に掲示板の方へと投稿するのだから。
私はそれを有難く拝見するだけで満足しておくべきだ。
「よし、行くか」
減ってしまったST等の補充、消耗品類の確認等が終わり、私は鳥居の内側を歩き出す。
一応端の方を歩いてはいるが……あまり意味はないだろう。
--【清濁記述の森】3層
【どうやらここはセーフティエリアのようだ……】
【扉の奥から強大な存在の力を感じる……】
流れたログ的に、確実にボス戦前のセーフティエリアへと辿り着く事が出来た。
といっても、だ。
「……なんで部屋とかじゃなく、森の中……?」
今回のセーフティエリアは今までのモノとは趣が異なるようで。
普段はダンジョンの雰囲気にマッチした部屋だったのに対し、今回は完全に森の中。
それも、私が禍羅魔と1YOUの戦闘の邪魔をした開けた場所のような、ちょっとした空間だ。
中心には焚火もあり、今も火が揺らめている。
……先に行くならアレかな……?
そんな広場の中には、ぽつんと1つの鳥居が立っている。
ここに至るまでに通ってきた全ての鳥居とは違い、これに関しては一見すると普通の鳥居にしか見えない。
しかしながら、1枚の和紙が貼られている。
「『忘れないで』。……どういう意味?」
和紙に書かれていたのはその一言のみで、それ以外は特に発見できなかった。
一応鳥居から剥がす事も出来た為、その和紙をインベントリ内へと仕舞った後に私は軽く息を吐く。
この先に居るのは、一度戦い討伐した相手。
しかしながら、その経験自体は私にはほぼ無いといっても過言ではないだろう。
何せ、討伐自体を成し遂げたのは、私の手の中にある『想真刀』を始めとした怨念の武具達なのだから。
……越える、って言うと違うかもしれないけど。
こうして、ダンジョンの形になっている以上、イベント内で戦うよりは弱体化されているかもしれない。
しかしながら、これはやらねばならない事だ。
何より、私はこの刀を扱えるようになる時に
「私より下の位に居る奴に出来てるなら、主人である私が出来ない通りは無いよねぇ?」
主人として分からせる。
今も滲み出る怨念によって、その切っ先がブレてしまうこの刀を扱った上で真正面から黒狐を討伐する。
3つの怨念の武具など使わずとも、1つあれば十分だったのだと証明するのだ。
『黒血の守狐』には悪いが、ここから先は私と『人斬者』とのプライド勝負の延長線のようなもの。
その舞台装置として頑張って足掻いて欲しい。
……あ、傲慢かもしれないけどね。
自嘲するように笑い、息を吐き。
私は鳥居へと足を進めた。