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Episode9 - D3


最初の戦闘から暫し。

白黒の森の中を探索していた所、インクイーグル以外にも2種類の敵性モブと交戦する事が出来た。

1体は、黒い液体……恐らく墨を耳に纏った兎型のインクラビット。

そしてもう1体は、何故か二足歩行の蛙型のインクフロッグだ。

どちらも防衛時に出現したモブだった事もあり、戦闘能力自体もそこまででは無かった。

唯一違う点としては、特殊能力が備わっていた点だろう。

……まさか、墨を使って色々してくるとはねぇ。

インクラビットは、その耳に纏った墨を硬質化させる事で擬似的なヴォーパル首斬りバニー化を。

インクフロッグは、口の中から墨を吐き出す事で命中した場所に動きを停滞させる墨煙を発生させるという面倒な能力を獲得していた。

これが中々厄介だったのだが……それらよりも厄介な相手が居たのだ。


「あぁもう!面倒臭いなぁ!!」

『『『ゲッゲッゲッ!』』』


異音と共に、空から聞こえてきた鳴き声に私はその場から走り出す。

インクイーグル。

最初に出会った敵性モブであり、適当に『想真刀』の試しに使った相手でありながら、今の所1番面倒で1番相手をしたくないと思う相手だ。

その理由として、


「時間経過で強制ポップ、数も増えるとか聞いてない……!」


延々と襲いかかってくるのだ。

それも、私が【隠蔽工作】を使って身を隠していたとしても関係なく、空から降ってきては体当たりのように突っ込んでくる。

正直、対処自体は楽だし、何なら1体1体は弱い部類だろう。

それこそ、【酒気帯びる回廊】に出現したアロワナよりも弱い。


だが、数が増えていくのが厄介すぎる。

まだ私が対多数相手に対応出来るスキルを何個か持っていたから良いものの、これが純粋な前衛……それもスリーエスのような単体特化だったら……中々に苦戦した事だろう。

……対応出来るからって、別に全てを倒したいと思うわけじゃ無いんだよ……!

こちらのリソースは有限であり、向こうの出現限界数は不透明。

尚且つ、まだ1階層という現状も相まって……相手をする事自体が不毛なのだ。

素材集めという観点で見るならば美味しい敵だが、攻略という観点では不味い敵。

それが、インクイーグルという敵性モブの正体だった。


「ッ!あった!」


森の中を走りつつ、背後から聞こえる鳥の鳴き声が増えていくのに焦りより苛立ちを覚え始めた時、それは見えた。

鳥居だ。

白と黒の樹木で象られた、森の中にあるにしては手入れがされているように観えるソレ。

その向こう側には、下へと降りる階段が見えていた。

頬が緩むのを感じつつ、鳥居の前で私は急停止をして勢い良く振り向くと。

こちらへと向かって、凡そ10体以上のインクイーグルが飛んできているのが目に見えた。


「よくも乙女を延々追っかけ回してくれたなぁ……!『変われ』ェ!」


笑みと共に、周囲に紫煙と酒気によって作られた大小様々な武具が出現する。

次いで、紫煙の武具は全て怨念へと変化し……迫ってきていたインクイーグル達へと殺到した。

短く断末魔のような鳴き声をあげる個体。

掠る程度に被害を抑えたものの、怨念によって身体に不調をきたす個体。

ダメージはないものの、『酩酊』によって落下していく個体と、その光景は悲惨の一言だろう。

しかしながら、それを見た私の頬はどんどん緩んでいく。


「ずっと追いかけられるって、意外とストレス溜まるんだよねぇ!」


リソース消費自体は少なめに。

途中から固形化した酒気へとメインを切り替え、落ちてきたインクイーグル達を『想真刀』によって切り裂いていく事、数分。

森は静かになり、天に昇っていく光の粒子の中に私は立っていた。


「二度と面見せんな、ストーカー鳥」


その場の地面に唾を吐き捨て、私は鳥居から下へと降りていく。

好奇心が刺激されるような相手ならば兎も角、種も割れている弱い相手に延々追いかけ続けられたのだ。

悪態の1つや2つは吐いておきたい気分だった。


鳥居の先の階段はそこまで暗くなく……かといって、何かしらの灯りがあるわけでもない。

所謂、ゲーム特有の不思議光源で照らされた中を進んでいくと。


--【清濁記述の森】2層


辿り着いた先は、またも同じ白黒の森。

違う点があるとすれば、


「こっちは結構植物に植物が侵食されてるなぁ……」


より自然豊かになったと言うべきだろうか。

これまで1階層で広がっていた森をベースに、様々な植物が群生する未開の地。

時折、木々に巻き付いている蔦に絡まる様にして、動物の骨らしきものも見つける事が出来る。

中々にバイオレンスな生態域になっているようだ。


「……空は……見えないな」


そして大きな違いとして、1階層にあった白黒の空が無くなっている点。

下へと降りてきたのだから当然と言えば当然なのだが。

代わりと言っては何だが、木々の葉の隙間から見える、様々な植物が絡まり固まった末に出来たであろう天井がこの階層には存在している。

……やっぱ謎光源あるのとないとじゃ違うねぇ。

少なくとも灯りを自前で用意しなくて済むのは助かる。

今後は出来るだけ色んな環境に対応出来る装備を揃えていく必要があるだろうが。


「よっし……イーグルがいないとも限らないし早めに探索しちゃおう」


そう言って、私はその場から移動を開始した。

空がないとはいえ、上に空間がある以上、飛べる敵性モブが出てこないとは限らないのだから。


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