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Episode8 - D2


そこは、白黒の世界だった。

名前の通り、木々が生い茂り森の様になっているものの……それら全てに色は無い。

まるでマンガの中にでも来た様な感覚だった。


「私だけ色があるってのも、中々目立つなぁ」


試しに昇華煙の煙草を取り出し、狼の嗅覚と聴覚を使って索敵してみるも、特におかしなモノは感じられない。

色だけがおかしい、至って普通の森だ。

……だからこそ、警戒が必要ってね。

現状、私は自身から発せられている酒気を制御してはいない。

人型の相手ならば、微かに香るかどうかというレベルの薄さのそれは、獣にとっては十二分な目印になるだろう。

今、この瞬間にも森の中に居る獣系はこちらへと向かってきているはずだ。


「待つのは趣味じゃ無いし……とりあえず探索かな」


無論、ここまでの考えはこのダンジョンに出現する敵性モブが獣型であるならの話。

だが、その可能性は高いだろうとも考えていた。

……ここのボスってアレだもんね。出てきてたモブも動物ばっかりだったし。

私達が討伐した『黒血の守狐』。

そして娯楽区に襲撃してきていた鳥獣戯画のような見た目の敵性モブ達。

彼らがここに出現するのはまず間違いないだろう。


「……ん、早速かな?」


森の中へと歩き出して、数分。

変化の無かった森に、ある異音が混じり始める。

風を切る音。羽ばたく音。何かが鳴く音。

それは、


「――空か!」

『ゲッゲッゲッ……』


見上げると同時、こちらへと1体の鳥がその足の爪を叩きつけようと迫ってくるのが見えた。

それは、巨大な白と黒で構成された鷲。

黒い液体を翼に纏っているその姿は、本当にここまで飛べていたのだろうかと疑問を感じるものの。

それの答えを出してくれる者はここには居ない。


「いつもなら手斧を投げて終わり、なんだけど……」


迫ってくる白黒の鷲へと視線を合わせ、ある程度の距離まで近付いた瞬間。

その身体に紫煙が纏わりつき、一瞬その動きを、勢いを殺す。

……ま、対処法自体は簡単だよね。

飛んでいるならば、落とすか確実に当てられる位置まで持ってくれば良い。

今回は刀を使う関係上、空を飛ぶ相手を落とす事は難しい。

ならば、刀以外でそれを補助してやれば良いだけの事。


『ゲッ!?』

「君、良い的になりそうだよね。大きいからHPもそれなりにありそうだし?」


勢いを殺された鷲は、慣性に従いこちらへと向かって落下するように向かってくるものの。

更に紫煙、そして酒気を身体に纏わせる事で空中へと固定する。

丁度、私の斜め上……刀を上段で構えれば程良く当てる事が出来る位置だ。


「じゃ、少し試させてもらおう」

『……ッ!』

「あー、ダメダメ。何かしようとしてもダメだよ」


何やら空気を大きく吸い始めた所で、猿轡の様に【酒精作成】による酒を頭部へと纏わせる事で黙らせて。

私は軽く『想真刀』を構える。

確かめるべきは、刀での距離感、そしてどれだけ力を入れるべきなのかという力加減。


軽く息を吐き、刀を上段で構え振り下ろす。

力は込めず、身体の動きに沿った行動だ。

狙ったのは胴体。しかしながら、


『――ッ!!』

「おっと。翼に当たっちゃったか」


私から見て右側の翼へと刀は命中してしまった。

だが、しっかりとその挙動は観えた。

……怨念がちょっとだけ悪さしてるね、これ。

デメリットを2つの装備で抑えてはいるものの、刀から薄らと滲み出る怨念によって、その軌道が変えられてしまっているのだ。

だが、それも大型を相手にするならば誤差の範疇で済む様なモノ。

怨鉄のピアスをしっかりと作り直せば解決するであろう問題だ。


「力は込めてなかったんだけど……まぁまぁ斬れるなぁやっぱり」


そして威力。

碌に力を込めていなかったにも関わらず、そして途中で怨念によって刃の起動が変えられたにも関わらず。

鷲の翼を両断するほどの切れ味を見せてくれた。

……手に感触が返ってこないってのが問題かな?

現実では、切れ味の良すぎる包丁を使い硬い物を切った時、『まるで豆腐を切る様な感覚』などと言う事がある。

しかしながら、この『想真刀』はそれすらも無い。

ただ、素振りの延長のような感覚。

しかしながら、結果は見ての通り。


「ちょーっと、これは使いづらいな……」


硬さが分からない、というのは中々に厄介だ。

『想真刀』だけがメインの武器ならば何ら問題の無い事ではあるが、私の場合はサブウェポンに位置する物。

あくまで、メインは紫煙外装である手斧なのだ。

そして手斧は硬いモノには弾かれてしまう程度の切れ味しかない。


「場面によって使い分け、要検討って感じで」


そう言いながら、私は目の前の鷲を今度はしっかりと頭から両断した。

真っ二つとなった鷲は、娯楽区で見た様な液体になる事もなく、光の粒子となって消えていく。


【インクイーグルを討伐しました】

【ドロップ:戯画獣の墨×1】


「ふむ、墨。墨ねぇ……じゃあやっぱりあの液体は全部墨だったわけだ」


特にこちらへと近づいてくる音や匂いが無い事を確認した後。

私は戯画獣の墨の詳細を確認した。


――――――――――

戯画獣の墨

種別:素材

品質:C

説明:独りでに動き、独りでに描き、消えていく

   白くも、黒くも成る墨であり、液体である

――――――――――


……扱いが難しいなぁ。

少なくとも、現状では特に使い道は思いつかない程度には私は使わない類のアイテムかもしれない。

もし必要そうだったら音桜など、図面をゲーム内で書く知り合いに渡してしまっても良いだろう。


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