--紫煙駆動都市エデン・娯楽区
「こりゃまた……目立つねぇ」
娯楽区に辿り着いた私が見たのは、ある程度の大きさを持った門の様なものだった。
正確には門ではなく、何か文字の書かれた巻物で封印されたかのように鎮座している鳥居だ。
内側は白と黒の光に包まれており、向こう側が見えない様になっている。
周囲には、いつもの様に野良のパーティを募る者や、ダンジョンへと侵入する者、娯楽区にただ来た者から、巻物に書かれた文字を解析しようとしている者が集まっていた。
「おい、あれ」
「赤ずきんさんじゃん」
「『紫煙頭巾』もダンジョンに挑みに来たのか」
「あの人、誘えば来てくれるかな」
「……なんか白いマフラーしてんな。昨日あんなのしてたか?」
そして、変に視線を集めつつ。
私は鳥居へと近付き、手を翳す。
すると、いつもの様に侵入するか否かを選択するウィンドウが出現した。
……ま、注目され続けても面倒だしさっさと行こうかな。
いつも通りにPvEのみのモードに設定し、私は鳥居を潜る様にして内側へと足を進める。
無論、通るのは鳥居の端だ。
--【清濁記述の森】1層
【ダンジョンへと侵入しました:プレイヤー数1】
【PvEモードが起動中です】
【どうやらここはセーフティエリアのようだ……】
視界が一変し、白を基調とした木製の部屋の中へと私の身体は転移した。
それと共に、私は【酒気展開】の圧縮を解き放つ。
すると、自身の首に巻き付く様に存在していた白のマフラーが破裂するかの様に消え、周囲へと酒の匂いを放ち始めた。
……うん、周りの反応的にこれで問題はなさそうだね。
【酒精操作】による【酒気展開】の制御。
及び、それに伴った周囲からの反応。
それを確かめる為に、分かりやすくマフラーという形で固めてみたが上手く行った様で何よりだ。
「さて、と。セーフティエリアで今更準備するモノは……あったなぁ」
『怨斬の耳飾り』へと指を伸ばす。
素材の収集も目的ではあるが、メインは『想真刀』の練度を上げる為の攻略。
だが、ここに来て1つ聞くのを忘れていた事柄を思い出した。
「えーっと……居た居た。――もしもし?」
『な、何かしら?』
「いやぁ、聞くの忘れてた事があってさ」
フレンド内から、患猫へと通話を掛ける。
彼女に聞きたい事はただ1つ。
「怨念の装備が複数ある時、狙ってる物を具現化する方法を聞いてなかったからさ」
『あ、あぁ……それなら簡単よ。しっかりとイメージしながら怨念を補給してやれば良いわ』
「あ、それだけなんだ。オーケィ、助かったよ」
『お、お役に立てたなら何より』
患猫との通話を切った後、私はしっかりと刀をイメージしつつ、耳飾りへと触れつつ少量の紫煙を怨念へと変える。
怨鉄のピアスを作ったとはいえど、最初は少量の供給から始め、慣れてきたら怨念の量を増やさねばどうなるか分からないからだ。
今までは周囲に他の、私の事を対処出来るプレイヤーが居たから良いものの……今はソロ。
それも、PvEモードという事もあって下手にアバターの制御権を奪われたら碌な事にはならないはず。
最悪の事態を想定はしているものの、やはり不安はあるのだ。
【『真斬のピアス』に込められた怨念が一定以上溜まりました】
【怨念を輩出します】
【具現化概念『
【『信奉者の指輪』、怨鉄のピアスによる補助を確認】
【調伏段階確認。デメリットを打ち消します】
「よっと。うん、普通に出せたし身体も自由に動かせる。良いねぇ良いねぇ」
赤黒い靄が集まり、左手の中へと刀が一振り出現する。
軽くその場で振ってみるものの、動作が制限される事もない。
充分に使えると判断しても良いだろう。
……まずったなぁ。
だが、ここで1つ自分がミスしていた事に気が付いた。
それは、
「刀用のスキル、ラーニングし忘れちゃった」
私が以前ラーニングし、今では合成の末に消えてしまった【斧の心得】。
それと似た様に、全ての武器範疇の物には心得と名の付くスキルが存在している。
当然、刀にも存在し……効果は知っている通り、刀を使う行動全般への
素人レベルのプレイヤーでも、アマチュア程度の実力まで引き上げてくれるスキル。
最低でもそれをラーニングしていれば……少しは使い易くはなっただろう。
「うーん、重さはないけど……やっぱり刃渡りとか、その辺が慣れないな……」
軽く振っただけでも、部屋の壁に切先を引っ掛けてしまう。
『想真刀』だから何とでもなるが、これが本物の刀だったら……敵性モブとの戦闘で攻撃を当てるのは至難だろう。
「……『酩酊』と紫煙を上手く使って、無理矢理攻撃当ててラーニングを狙う。これかな」
手ぶらで帰る趣味はない。
最低でもボスの居る階層前までは辿り着いてから帰還。
私自身の考えもそうだが、ゲームシステム的にそうした方が次挑む時にボス前から再挑戦できる為、楽が出来る。
それを目指せるなら目指した方が良いはずだ。
「よっし、じゃあ改めて……行こうか」
私は『想真刀』片手に、セーフティエリアの扉をゆっくりと開いた。