目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
Episode6 - S


--マイスペース


「ま、休憩とは言ったけど」


私は紫煙技術用の作業台の前に立ち、煙草を吹かす。

『想真刀』が使える様になった今、戦闘に行く前にやる事が何個かあるのだ。

その内の1つ。


「怨鉄、作らないとね」


以前見た時、この作業台には普通のSTの他にも、【狼煙】や【怨煙変化】も内部に補充されていくのを確認していた。

患猫が装備していた腕輪も、それを使った上でこの作業台で作ったモノだろう。

……対策、というよりは……より制御を安定させる為の補助、って考えた方が良さそうだよねぇ。

アレ1つで対策が出来るならば、簡単にも程がある。


「お、作り方は煙鉄インゴットとほぼ同じじゃん」


幸いにして、素材自体はほぼ同じ。

というか、一度煙鉄インゴットを作った上で、それを作業台内で煙質によって変化させるだけ。

お手軽であるのは大変助かる。


「よっし、怨鉄インゴットは完成……後は成形するだけ……なんだけど」


やはりというか、何かしら装備の形に変えるにはそれに対応したスキルを持っていた方が補正が掛かる。

今からメウラを呼ぶには中々に時間も必要となるし、何より彼に頼りっぱなしというのも……中々申し訳ない気持ちにはなる。

……んー、今回はどれくらい変わるかっていうお試しで良いかな。割と簡単に作れるし。

鉄系素材ならば、様々な方法で手に入れる伝手がある。

生産区の方で探しても良いし、何なら【霧燃ゆる夜塔】で『切裂者』を周回しても良いのだから。

今ならば『想真刀』もある分、変に気負わず戦う事もできるだろうし。


「よし、完成……結構薄い・・な」


そうして出来上がったのは、怨鉄のピアス。

『真斬のピアス』改め、『怨斬の耳飾り』の対になるように作った、片耳に着ける形のピアスだ。

形は選べなかった為、耳たぶに着けるシンプルな丸の形とはなってしまったが……こちらは本格的に作る時にデザインは変えれば良いだろう。


「効果は……うん、しっかり書かれてる」


――――――――――

怨鉄のピアス

作者:レラ

耐久:100/100

種別:装飾品・ピアス

品質:D-

効果:怨念の込められた装備に対する耐性微小

説明:怨念によって変質した鉄を使ったピアス

――――――――――


簡素な説明と、本当に少しの効果。

だが、確かめるならばこれで良い。

早速装備してみると……何やら少しだけ身体が軽くなった様に感じた。

微小と言っても、やはり少しは効果があるらしい。


「よし、後必要なのは……」


これで装備面での準備は完了。

消耗品に関しては、ルプスに今も製作及び補充させている為、問題はない。

普段ならばダンジョンに向かっても問題はない程度の準備だが、今回はまだやる事がある。

それは、


「やっぱり、昇華使ってなくても使いたいよねぇ」


スキルのラーニングだ。

『人斬者』との戦闘で猛威を奮った【酒精作成】と【酒気展開】。

この2つをラーニングしておいて、昇華煙を使っていなくとも扱える様になっておきたい。

勿論、それに伴って周囲に『酩酊』をばら撒き続けるなどのデメリットは存在しているのだが。


「えぇっと……あぁ、あったあった。……げぇ」


どちらのスキルも、ラーニング可能なスキルの中に存在自体はしていた。

しかしながら、どちらも酒浸りの親衛者の素材を使う……どころか。

2つのスキルをラーニングしたら、手持ちに存在する素材をほぼ全て使い切らねばならないようだった。

……背に腹は変えられないか。

もう一度戦えるかどうかは、再度【酒気帯びる回廊】へと挑まねば分からない。

だが、ラーニングしておけば私の戦闘能力が向上するのも事実。

逡巡するのは一瞬で、次の瞬間には私は2つのスキルのラーニングを完了させていた。


「よっし……うん。酒臭いな」


離れた位置で作業しているルプスから抗議の視線が飛んでくるものの、気にしていたらこんなスキルをラーニングしてはいない。

ただ、想定と違ったのは……どちらのスキルも、昇華時に使った時より効力が弱い様に感じたのだ。

否、確実に弱くなっている。

『酒霊』を作り出した【酒精作成】は、コップ一杯分の酒を作り出すのが精一杯だし、【酒気展開】に至っては、効果自体は発生しているものの、薄い。


「あちゃちゃ、分かってはいたけど……やっぱり昇華だから熟練度の段階とかブーストされてたか」


元より、昇華煙は元となった存在の力を借り受ける術。

酒浸りの親衛者に設定されていたスキルの熟練度がそれだけ高かったという事なのだろう。

だが、この状態でも出来る事はある。

それは、


「――よし、出来るね。【酒精操作】」


私の周囲に、薄いものの……白い蒸気のようなモノが集まってくる。

【酒気展開】によって、私から発生している酒気。これを【酒精操作】によって垂れ流しの状態から身に纏う様に操作しているのだ。

熟練度の関係で、触れていなければ操作出来ないという制約はあるが、それも私の身体から発生しているのであれば関係ない。

試しに纏っている酒気を圧縮し、様々な形……剣や手甲、蛇や狼などに変えてみても霧散する事なく操作出来る。


「うん、今はこれで充分かな。紫煙やお酒みたいにリソースが足りなくなるって事はないし」


実質無限に扱える、デバフ特化の気体。

【状態変化】によって、気体から固体へ、固体から液体へと変える事が出来るのも確認し、ルプスに謝罪した後、ダンジョンへと向かった。

まずは……娯楽区から行ってみることにしよう。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?