キヨマサが動きを止め、私が両手をあげたからか観戦していた1YOU達はこちらへと駆け寄ってくる。
その間に、私は自身の身を確かめた。
修羅の様になっていた身体は、いつの間にかあの空間内で使った昇華煙のモノに切り替わっており、【酒気展開】によって周囲に酒気を垂れ流し始めている。
しかしながら、片手には未だ刀が……『想真刀』が残り続けている。
他の2つ……『死傷続』、『師生』が消えてしまったのはどういう事なのだろうか。
そう考えていると、
「終わったようだな」
「ん、終わりはしたけど……」
「ぎ、疑問が残ってるようね」
私の困惑を感じ取ったのか、患猫が薄らと怨念の宿るモノクルを装備しつつ私のピアスへと視線を向ける。
ウィジェットも眼鏡から紫煙を垂れ流しつつ、私の全身を上から下まで見つつ、何やらウィンドウを開いているものの……その表情自体は険しい。
「う、うん……認めさせる事自体は出来てるようね……」
「名称も変わってますね」
「で、でも……完全、というわけでもないみたい」
「完全じゃない?……っていうと、同じ様なのがまだあるって感じ?」
私の言葉に2人は頷く。
現状から予想は出来ていたが、やはりそういう類のモノらしい。
……今回は『想真刀』だった、ってだけかな。
「ログの方で出ていた具現化概念の数は何個ですか?」
「この刀も合わせて3つだね」
「じゃ、じゃあ……残り2つ、少なくとも2回ね」
「うげぇー……」
同じ事かどうかは分からない。
しかしながら、あの様な場所で後2回も『人斬者』との戦闘をしないといけないと考えると……中々に気が重くなる。
幸いなのは、最初に武器である『想真刀』が私の制御下に入ってくれた事だろうか。
これがあるかないかで、今後のダンジョン攻略などでの戦い方が変わってくるのだから。
「ちなみに患猫ちゃんの装備で、こんな風に複数段階踏んで制御したってやつある?」
「い、一応ね。でも合計3回は無いかしら」
「運が良いのか悪いのか……」
「まぁ良いんじゃないか。一気に使えるモノが増えるよりは、1つ1つの練度を上げていけるじゃないか」
1YOUが苦笑しつつフォローしてくれるものの。
正直不安で仕方がない。
……これ、どう考えても学習する類の奴だよね。
毎度、怨念を纏わせる度にこちらへと掛けてくる声の内容が違うのだ。
今回の結果を経て、何かしらの対策を練ってくる事も考えられるだろう。
それに対応する作戦を考えねばならない……ある意味でイタチごっこのようなものだ。
「どうする?このまま続けて2回目を行っても良いが……」
「いんや、ちょっと時間を置こうかな。次の事を考えると装備の強化とかしておきたいし」
「だったら丁度良いのがありますよ」
ウィジェットはそう言いながら、何やらウィンドウを大きく表示し、こちらへと見せてくる。
それは、
「エデンのマップ?……なんか区画ごとに変な赤い丸が付いてるけど」
各区画、その中心地辺りに赤い丸のマークがついたエデンのマップだ。
治世区は中心ではないものの、それ以外はほぼ中心地。
だが、どう思い返してみても、何かマークをつけるようなシンボルはなかったはずの場所。
「一応、今ってまだイベント期間中なんですが」
「そうだねぇ。防衛自体も終わって、ある意味自由時間じゃない?」
「そうなんですが、昨日運営が終了アナウンスをしていた時に言っていたモノがあるんですよ。……聞いてませんでした?」
「あー……1YOUくん達と話してて聞いてなかったなぁ」
「そうですよね。……そこに、イベントダンジョンが出現してるんです。正しくは、イベントダンジョンへと繋がる小さな門が、ですが」
そこまで言われ、彼が何を言おうとしているかを察した。
つまりは、
「このダンジョンに『想真刀』の練習を含めて挑めば良いって事だね」
「そうなります。装備の強化用素材も得られて、練度も上げられる。一石二鳥ですよ」
今までの私の装備は、結局の所【世界屈折空間】の上層にいるボス達の素材で作られたモノだ。
消耗品や、手斧などはその後に強化されているものの……それ以外は自分の戦闘スタイルも相まって後回しになっていた。
イベント限定のダンジョンではあるものの……それこそ『黒血の守狐』のように倒した事があるボスならば周回だって狙えるだろう。
……【酒気帯びる回廊】の奥に挑む前に、色々強化したいとは思ってたんだ。
酒浸りの親衛者のような、1対1をしなければならない相手も今後増えてくるはず。
強化するならこのタイミングがベストだろう。
それに、
「1YOUくん、外界侵攻ってどれくらいのタイミングでやるか決まってる?」
「一応、参加メンバーの予定も鑑みて……イベント後1週間以内辺りにしようとは考えているぞ」
「了解、じゃあそこまでに
外界侵攻。
それによって何が齎されるかは分かっていないものの……力はあればあるだけ良い筈だ。
「……あれ?そういえば鼠都のダンジョンはない感じ?中央区にマーク無いよね?」
「無いみたいです。どうやら今回のイベントでもかなり特殊な立ち位置だったみたいで。アレの討伐報酬は当時ログインしてなかった人も受け取れてるみたいですから」
「へぇ、それはまた不思議なもんだ」
一先ず、今回の一連の礼を集まってくれた4人に言った後。
私は一度マイスペースに戻り、色々と準備を整える事にした。
この後、どのダンジョンに挑むにしても、『人斬者』との戦闘?の後なのだ。
少しだけ休憩はしておきたい。