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Episode2 - G1


「……まぁ、それは置いといて。怨念の込められた装備の作られ方は分かったよ。問題はその先、対策と制御だよね?」

「そうです。先に感情値の事を説明したのにも関係しますが……対策自体は本当に簡単です」


ウィジェットはそう言って、患猫の方を見た。

彼女は軽く頷いた後、おずおずと手首に付けられている赤黒い鉄の腕輪をこちらへと見せる。


「怨念には怨念を。怨念の込められた道具に対しては、怨念を込められた道具によって対処するんです。患猫さんが装備しているこれ……怨煙鉄の腕輪がその役割を果たします」

「……成程、ここで【紫煙技術】の登場ね」


怨煙鉄。

生憎と私が知らないモノではあるが、作り方は予想出来ている。

……煙質を使って、鉄系素材を作業台で変質させれば良いわけだよねぇ。

毒をもって毒を制す、とでも言えば良いのだろうか。

扱いを間違えれば大惨事にはなりそうなものの……理解出来ないわけではない。


「なので、対策の方はそれで。……残る制御の方なのですが」

「引継。俺が相手をする。闘争」

「……えーっと?」


短くキヨマサから告げられた言葉を噛み砕きつつ、1YOUの方へと視線を向ける。

彼は少しだけ困った様に笑いつつ、


「キヨマサはそういう奴なんだ。補足すると、結局の所、怨念を制御するには怨念を屈服させて、どちらが主人なのかを認めさせねばならない。――患猫」

「え、えぇ。貴女、制御を奪われたって事は、その様子は何処かから見てたのよね?」

「うん。湖しかない真っ暗な場所で見てたよ」

「へ、へぇ……『人斬者』はそういう空間なのね……。その空間内に、『人斬者』が居るはずなの。それを打ち倒す事が出来れば、制御への足掛かりは得られるはずよ」


断定しないのは何故だろうか。

そう考えているのが伝わったのか、患猫は困った様に眉を曲げつつ、


「も、申し訳ないけれど、ボスによって空間も、認めさせ方も違うの。『四重者』だったらアレを笑わせる事が出来る芸を何個か見せる、とかだったりするのだけど……今回の相手は武闘派でしょう?」

「バリバリにそうだねぇ。……あぁ、キヨマサくんが相手になるって私の修羅状態と戦って時間稼ぎをしてもらうわけだ」


そう言うと、結局周りに説明させてしまったからか申し訳なさそうにキヨマサは頷いた。

言葉足らず……というよりは、長く話す事自体が苦手なのだろう。

周りもそれを分かって補足してくれているようだし。


「オーケィ、理解した。じゃあ早速やっていくかな……って、場所はどうするの?言っちゃあれだけど、あの状態の私ってそこら辺のボスを一方的に狩れるんだけど」

「それについては問題ない。うちに訓練用の部屋があるから、そっちに移動するぞ」

「へぇ、ハウジングってそういうのも出来るんだ」

「中々便利だぞ。まぁかなり物資は使ったがな」


カウンターの席から立ち、軽く装備を確認した後。

私は1YOU達に連れられ、バーを後にした。

向かう先は管理区、それも私が前にガスマスク云々の受付をした場所の近く。

そこに、1つの建物が存在していた。


「……これは中々、というか。見た目は体育館にしか見えないね」

「どうにか変えたかったんだがな。まだゲーム内通貨が溜まりきっていなくてなぁ……一応、中は闘技場になってるぞ」


招待を貰い、中へと入る。

すると、かなり広い空間がそこには広がっていた。

以前、PvPイベントで使われていた闘技場に近い広さを持ち、今も何人かのプレイヤーが紫煙外装らしきものを振り回しているのが見えている。

彼らは私達が来たのを確認すると、すぐに観客席側へと移動していった。

事前に連絡でもされていたのだろうか。


「よし、じゃあ早速だがやっていこう。キヨマサ、準備は?」

「完了済。すぐにでも」

「よろしい。レラさんは?」

「私も大丈夫。普段からいつでもダンジョンに行ける様にはしてるからね」

「大変結構。では、ある程度距離を取って、私の合図で始めるぞ」


凡そ、15メートル程離れた位置に、キヨマサが立つ。

バーで確認した時から装備は変わっていないものの。

……雰囲気が変わったね。

纏う空気が、先程よりも剣呑なモノへと切り替わっていた。

威圧感とでも言えば良いのだろうか。

殺されるわけではなく、獲物であるわけでもない。

ただ、面と向かって立っているだけで、少しだけ後退りそうになる雰囲気を彼が発しているのだ。

……味方で良かったってタイプかな。


「では――開始」


1YOUが静かに、しかし通る声で宣言する。

それと共に私はピアス付近に紫煙を集め、


「『変われ』」


一言、絞り出すように言った。

その瞬間、待っていたかの様に私の全身が赤黒い靄で包まれ……怨念の塊へと、修羅へと姿が変わっていく。


『儂の元へと至るか、不遜なる者よ』


編笠が、羽織袴が、そして刀が私の手へと出現し、そして。

私の視界は暗転した。


【『真斬のピアス』に込められた怨念が一定以上溜まりました】

【怨念を輩出します】

【具現化概念『想真刀そうまとう』、『死傷続しにしょうぞく』、『師生ししょう』が一時的に使用可能となりました】

【『信奉者の指輪』による補助を確認。使用時のデメリットが一定時間打ち消されます】


再び、視界に光が戻る。

だが、私の周囲は暗闇のまま……目の前には、黒狐を討伐した時と同じ湖が広がっていた。

映るは、キヨマサへと襲い掛かる自我のない修羅の姿。

……さて、と。ここからだよね。

今回はそれを見ているわけにはいかない。


「さて……探索かなこれは」


この空間内でも手斧を呼び出せる事を確認し、昇華煙の煙草を1本口に咥え火を点す。

……匂いはしない。音は……分かんないな。過剰供給はまだ控えておきたいし……。

周囲へと紫煙を撒く様に操作しつつ、私は湖の周りを歩き出す。

アテはある。

イベントダンジョンあの時の戦闘を思い出してみれば……答えらしきものは目の前に広がっているのだから。

だが、それを確かめるのは最終手段にしたいのだ。


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