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Episode1 - Prologue


「――と言うわけで、紹介しよう。ウチの怨念系コンテンツ担当と、情報系担当、そして単体系戦闘担当の3人だ」


次の日。

私は1YOUに呼び出される形で、娯楽区の隠れ家的バーへと訪れていた。

『Sneers wolf』のプレイヤーが経営している店らしく、店内には私と1YOU、そして彼が連れてきた3人の他は誰も居ない。

相談事などをするにはうってつけの場所だろう。


「お、怨念系担当の患猫わずらいねこです。よ、よろしくね?」

「情報系担当、ウィジェット。よろしく」

「単体系。キヨマサ。よろしく」

「患猫ちゃんに、ウィジェットくん、キヨマサくんだね。レラです、よろしく頼むよ」


それぞれに挨拶を返しつつ、3人の装備をパッと観ていく。


患猫は、全体的に黒色で固められており、前髪で表情を窺えない。

所々に穴が空いている外套に、革の防具。

そして目立つのは、腰に下げられた数本の黒い釘だ。大きさからして武器としては使えないとは思うものの……恐らく彼女の紫煙外装だろう。


次にウィジェット。

眼鏡を掛けたスーツ姿の男性で、一見すれば現実にも居そうなサラリーマン的風貌だ。

特に武器らしき物を持っている様子もない為、眼鏡辺りが紫煙外装なのかもしれない。


そして最後に、


「……1YOUくん、キヨマサくんの周囲だけ紫煙が全く無いんだけど」

「あー……まぁ特殊な奴でな。キヨマサ」

「肯定。スキル及び、非喫煙者」

「このゲームで……?」


キヨマサは上半身が裸の、ボクサーの様な姿をしている男性だ。

手には紫煙外装らしき手甲が嵌められているものの……問題はそこではなく。

私が観る限り、彼の周囲には一切の紫煙が存在しないのだ。

……極端に薄い、っていうなら【魔煙操作】の効果で観えるはず。でもそれがないって事は……本当に無いんだろうな。これ。


「まぁ、その辺りの話は後に。……さて、顔合わせも終わった所で本題に行こう。レラ」

「はいはい。見たいのはこれだね?」


私は被っていたフードを脱ぎ、片耳を3人の前に晒す。

今回の本題。それは、


「私の身体アバターの制御すら奪う装備、『真斬のピアス』。これの対策、もしくは対処を考え、教えて欲しいんだ」


装備の能力制御。

怨念によって起動する、修羅への道をより安全に、より確実に渡る為の足掛かりを私は目の前の3人に頼みたいのだ。

といっても、ここで全てが解決するとは考えていない。

何せ、人に見せただけで解決するのであれば……私が今の今まで放置しているわけもないのだ。


「じゃ、じゃあ失礼……」


まず、患猫が私のピアスに指先で触れる。

と言っても、それで変化を生じる様な物ではない。

エデンの中というのもある為、まずは安全に確かめようという事なのだろう。


「い、今だと特に変化はないようね……でも」

「でも?」

「こ、このピアス、強い念が込められているわ。……レラさん、貴女はどうやって、怨念が込められた装備が出来ると思う……?」

「えっと……現実的に考えるなら……強い想いとかが原因じゃない?恨みとか辛みとか?」


怨念。

恨み辛みが凝り固まって、害のある状態になったもの……という認識しか無いのが現状だ。

これが正解だなんて確信はないものの、そう遠くはないとも思う。

そして、患猫は私の言葉を肯定する様に躊躇いがちに頷いて、


「そ、そうね、確かにその認識で合ってるわ。でも、このゲームは少し違うの。……このゲームでは、ボスの素材を使って作られた装備にのみ、怨念が込められるのよ。……どうしてだと思う?」

「えーっと……もしかして、思考能力AIの差?」

「せ、正解」


患猫は頷き、懐から1つの白い針を取り出した。

黒一色の中から現れたそれは、他とはミスマッチな様に見えるものの。

……怨念、出てるねぇ。

微かに、赤黒い靄のようなものが滲み出ては消えていくのが観えた。

私のピアスと同様の、怨念の込められた道具だ。


「こ、これは『四重者』の骨から作った針なのだけど。数十本単位で作ったのにも関わらず、これだけが怨念の込められた物になったわ」

「……へぇ?」


彼女が言いたいのは、必ずしもボス素材を使ったもの全てがそれになるわけではない、という事なのだろう。

当然、私の装備している防具もそうだ。

全てが全て、怨念が込められていたら【怨煙変化】なんて使えたものでは無い。


「さ、さて。ここまでが事前に分かる程度の話。つ、次はどうやったら怨念が込められるかだけど――」

「それについては私から。レラさんは感情値、という言葉に聞き覚えはありますか?」

「ないね、申し訳ないけど」


ウィジェットが患猫の言葉を引き継ぎ、話出す。

……割と長くなりそうだねぇこれ。

そう思い、バーのカウンターに座れば。

いつの間にかバーテンダーのような格好をした1YOUが、こちらへと琥珀色の液体の入ったグラスを渡してきた。

軽く匂いを嗅ぎ、それがウィスキーである事を確かめてから口に含む。良い酒だ。


「感情値というのは、NPC全般に与えられているマスクデータの事です。相手がどの様な感情をこちらに抱いているか、その結果どの様な行動を示すか等がこれによって左右されます」

「成程、つまり?」

「怨念の込められた物品は、ボスを怒らせてから倒す事で取得するスタートラインに立てる、と言う事です」


良いですか?と、彼は眼鏡越しに私の顔を見つつ。


「怒りという感情をどれ程得たか、それによって怨念具……怨念の込められた道具は、解き放たれた時の性能を向上させます」

「……」

「……レラさん、貴女、どれだけ『人斬者』を怒らせたんです……?」

「正々堂々だって始めた勝負に、不意打ちで勝った後、煽り入れてハイになってたかな……」


そりゃ怒るだろ、とその場の全員から呆れたような視線を向けられてしまった。


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