「――と言うわけで、紹介しよう。ウチの怨念系コンテンツ担当と、情報系担当、そして単体系戦闘担当の3人だ」
次の日。
私は1YOUに呼び出される形で、娯楽区の隠れ家的バーへと訪れていた。
『Sneers wolf』のプレイヤーが経営している店らしく、店内には私と1YOU、そして彼が連れてきた3人の他は誰も居ない。
相談事などをするにはうってつけの場所だろう。
「お、怨念系担当の
「情報系担当、ウィジェット。よろしく」
「単体系。キヨマサ。よろしく」
「患猫ちゃんに、ウィジェットくん、キヨマサくんだね。レラです、よろしく頼むよ」
それぞれに挨拶を返しつつ、3人の装備をパッと観ていく。
患猫は、全体的に黒色で固められており、前髪で表情を窺えない。
所々に穴が空いている外套に、革の防具。
そして目立つのは、腰に下げられた数本の黒い釘だ。大きさからして武器としては使えないとは思うものの……恐らく彼女の紫煙外装だろう。
次にウィジェット。
眼鏡を掛けたスーツ姿の男性で、一見すれば現実にも居そうなサラリーマン的風貌だ。
特に武器らしき物を持っている様子もない為、眼鏡辺りが紫煙外装なのかもしれない。
そして最後に、
「……1YOUくん、キヨマサくんの周囲だけ紫煙が全く無いんだけど」
「あー……まぁ特殊な奴でな。キヨマサ」
「肯定。スキル及び、非喫煙者」
「このゲームで……?」
キヨマサは上半身が裸の、ボクサーの様な姿をしている男性だ。
手には紫煙外装らしき手甲が嵌められているものの……問題はそこではなく。
私が観る限り、彼の周囲には一切の紫煙が存在しないのだ。
……極端に薄い、っていうなら【魔煙操作】の効果で観えるはず。でもそれがないって事は……本当に無いんだろうな。これ。
「まぁ、その辺りの話は後に。……さて、顔合わせも終わった所で本題に行こう。レラ」
「はいはい。見たいのはこれだね?」
私は被っていたフードを脱ぎ、片耳を3人の前に晒す。
今回の本題。それは、
「私の
装備の能力制御。
怨念によって起動する、修羅への道をより安全に、より確実に渡る為の足掛かりを私は目の前の3人に頼みたいのだ。
といっても、ここで全てが解決するとは考えていない。
何せ、人に見せただけで解決するのであれば……私が今の今まで放置しているわけもないのだ。
「じゃ、じゃあ失礼……」
まず、患猫が私のピアスに指先で触れる。
と言っても、それで変化を生じる様な物ではない。
エデンの中というのもある為、まずは安全に確かめようという事なのだろう。
「い、今だと特に変化はないようね……でも」
「でも?」
「こ、このピアス、強い念が込められているわ。……レラさん、貴女はどうやって、怨念が込められた装備が出来ると思う……?」
「えっと……現実的に考えるなら……強い想いとかが原因じゃない?恨みとか辛みとか?」
怨念。
恨み辛みが凝り固まって、害のある状態になったもの……という認識しか無いのが現状だ。
これが正解だなんて確信はないものの、そう遠くはないとも思う。
そして、患猫は私の言葉を肯定する様に躊躇いがちに頷いて、
「そ、そうね、確かにその認識で合ってるわ。でも、このゲームは少し違うの。……このゲームでは、ボスの素材を使って作られた装備にのみ、怨念が込められるのよ。……どうしてだと思う?」
「えーっと……もしかして、
「せ、正解」
患猫は頷き、懐から1つの白い針を取り出した。
黒一色の中から現れたそれは、他とはミスマッチな様に見えるものの。
……怨念、出てるねぇ。
微かに、赤黒い靄のようなものが滲み出ては消えていくのが観えた。
私のピアスと同様の、怨念の込められた道具だ。
「こ、これは『四重者』の骨から作った針なのだけど。数十本単位で作ったのにも関わらず、これだけが怨念の込められた物になったわ」
「……へぇ?」
彼女が言いたいのは、必ずしもボス素材を使ったもの全てがそれになるわけではない、という事なのだろう。
当然、私の装備している防具もそうだ。
全てが全て、怨念が込められていたら【怨煙変化】なんて使えたものでは無い。
「さ、さて。ここまでが事前に分かる程度の話。つ、次はどうやったら怨念が込められるかだけど――」
「それについては私から。レラさんは感情値、という言葉に聞き覚えはありますか?」
「ないね、申し訳ないけど」
ウィジェットが患猫の言葉を引き継ぎ、話出す。
……割と長くなりそうだねぇこれ。
そう思い、バーのカウンターに座れば。
いつの間にかバーテンダーのような格好をした1YOUが、こちらへと琥珀色の液体の入ったグラスを渡してきた。
軽く匂いを嗅ぎ、それがウィスキーである事を確かめてから口に含む。良い酒だ。
「感情値というのは、NPC全般に与えられているマスクデータの事です。相手がどの様な感情をこちらに抱いているか、その結果どの様な行動を示すか等がこれによって左右されます」
「成程、つまり?」
「怨念の込められた物品は、ボスを怒らせてから倒す事で取得するスタートラインに立てる、と言う事です」
良いですか?と、彼は眼鏡越しに私の顔を見つつ。
「怒りという感情をどれ程得たか、それによって怨念具……怨念の込められた道具は、解き放たれた時の性能を向上させます」
「……」
「……レラさん、貴女、どれだけ『人斬者』を怒らせたんです……?」
「正々堂々だって始めた勝負に、不意打ちで勝った後、煽り入れてハイになってたかな……」
そりゃ怒るだろ、とその場の全員から呆れたような視線を向けられてしまった。