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Episode20 - SW2


私のその言葉に、伽藍ドゥは浅く息を吐き。

スリーエスは1つ、酒の飴玉を新たに口に含んだ。

……あれ、2つ目からは結構動くのキツくなると思うんだけど大丈夫かな。

まぁ、後で動けなくて怒られるのは彼だろうし……何より。今は防衛イベントが終わったばかりで、特段警戒すべきものもないはずだ。

すぐに戦闘を行うわけでもない為、良いのだろう。多分。


「協力関係と言われてしまったか」

「あは、予想はしてたでしょ?」

「予想はしてたさ。だが、実際にそう言われてしまってはな」


協力関係と専属契約では意味合いが大きく異なる。

どちらも力を貸すという意味では同じものだが、立場が違うのだ。


専属契約では、結局の所結ぶ側の方が立場が上だ。

ある程度のメリットを盾に、それなりのデメリットを内包した契約を結ばされる事もある。

だが、契約先からの庇護も受けられるだろう。


しかし、協力関係はあくまで立場は対等であるのが前提だ。

使い、使われ、乞い、乞われ。

どちらもメリットとデメリットをある程度明確にした上で、互いに相手を使い合う関係。

それが私達の選んだ選択肢であり、提示した条件だ。


「――分かった。では、そうリーダーへ報告しよう」

「あれ、良いの?決定権とかは貰ってきたんでしょ?」

「専属契約って話なら貰ってきてるで。だけど、協力関係とかになりそうだったら一旦持ち帰ってこいとも言われとるんや」

「あーね」


流石に、この場でそれを決定する程、権限を確保してきてはいないようで。

伽藍ドゥは一度戻り、指示を仰いでから再度顔を見せるらしい。

また、それについていこうとしたスリーエスは、


「……嬢ちゃん、これ動けんのやけど」

「いや、それは君が悪いっしょ。あんだけパクパク飴玉舐めてたんだから」

「だからってこんだけ動けなくなるってどういうこっちゃ!?」

「あは、それ敵性モブの身体に直接ぶち込む用に作ってた試作品だからねぇ。プレイヤーにそこまで効果が出てるなら十分かな?」

「言っとる場合か!……あーもー、これ後で怒られる奴やん……」


ちら、とゲーム内ブラウザで彼の配信画面を覗いてみると。

それはもう阿鼻叫喚もののコメントが流れているのが目に見えた。

その殆どが、現在の彼に対する煽りだったが。




暫くして。

というか、私は主にスリーエスへと試作品の酒の飴玉やその他薬草類を試したり、メウラと音桜が私のマイスペース内で出来る生産活動をしていると。


【外部からマイスペースへとアクセスしようとしているプレイヤーが居ます】

【対象:1YOU】

【入室許可を出しますか?】


ログが流れ、私の目の前に是否を問うウィンドウが出現した為、許可すると。


「すまない、予想よりも時間が取られてしまって……スリーエスは何をやってるんだ?」

「おー、1YOUくん。あれは気にしなくて良いよ」


リーダーのご登場だ。

彼は私の背後で顔を真っ赤にしながら、毒のエフェクトを発しながら眠らされているスリーエスに疑問の表情を浮かべていたものの。

すぐに真面目な顔つきへと戻り、


「なら、話をしよう。――協力関係、だったな」

「そうだね。契約で縛られるよりは自由だから、私達的にはそっちの方が良いんだけど……どう?」

「どうもこうもないさ。受け入れよう」


あっさりと言われた言葉に、少しだけ呆気に取られてしまう。

だが、彼も考える時間があったのだ。

その分、しっかりと答えを決めてきただけの事。


「すぐに決まったねぇ。ちなみに、なんで協力関係でオーケー出したかって聞いても良い?」

「勿論だ。……と、言っても。君達の実力をそれだけ買っているというだけの事さ。それ以上でも以下でもない」

「私達が必要になるくらいには、外界の攻略が難しいって事ですか?」


音桜がそう問うと、彼は頷き肯定した。


「予想以上に、という枕詞を付けたくなるくらいにはな。スリーエス達、単体特化勢で足止めが精一杯だったり、広域殲滅が得意な連中で倒しきれない程の数が湧いたりと……まぁ難度が高い」

「おいおい、それじゃあ俺達が混ざってもそんな変わらねぇんじゃ」

「一応、その辺りはしっかり考えとるで」


先程まで、私の作った毒入り睡眠薬で眠っていた筈のスリーエスがいつの間にか目を覚まし、話に混ざってくる。

彼は赤い顔のまま、真剣な表情をこちらへと向け、


「嬢ちゃんら以外にも、うちで声掛けてる……言わば野良連中が居る。それらと攻略開始時間をある程度合わせるつもりなんや」

「……あー、数の分散ね」


味方の数が増えれば、その分だけ対応する戦場の数は増える。

今、彼らが話している……見据えている戦場が、敵がどのようなモノかは私達には分からない。

しかしながら、少しでも全体の負担を減らすべく動いているのは確かだ。

それを考えているからこそ、私達やそれ以外のパーティにも声を掛け、出来る限り戦場を増やす事で、戦場での敵の総数を減らす事を選んだ……という事なのだろう。

……で、そこに私のピアスの話も混じってくるわけだ。

その場での敵の総数が減った所で、敵の地力自体は変わらない。

だからこそ、それに対応、対抗出来るよう支援をする。

私のピアスの対処に関しても、その流れを汲んだ支援の一環なのだろう。


「……これ、私達がどっちの道も蹴った場合どうしてたの?」

「悪いが、初めにあったピアスの対処については……外界の攻略が進んでからにはなっていただろうな」

「関わらない人の支援よりも関係者に物資やらを使いたいだろうし、そうだよねぇ」


最善かは分からないものの、自身の強化という観点で見れば良い道を選ぶことが出来た、という事だ。

……良かった。

素直にそう思う。


「では、長居するのも悪いので。ここらで我々はお暇させてもらおう」

「……だってよ、スリーエスくん」

「ま、待ってくれリーダー!ワシゃまだ動けな――」


まだ『酩酊』が何スタック分か残っているであろうスリーエスの背中を、1YOUは軽く持ち上げ、米俵と同じように運び始める。

何やら吐きそうな顔になっていたものの、まぁ問題はない……と思いたい。多分。

まぁ、吐いたら吐いたで配信の絵面的には撮れ高にはなるんじゃないだろうか。


「近い内にまた連絡する。フレンド申請は送ってあるから、良かったら」

「はいはい、了解。じゃあね」


軽く礼をして去っていく1YOUに手を振った後、大きく息を吐いた。

そも、このような交渉事はあまり得意ではないのだ。


「お疲れ様です、お姉様」

「ま、良い方向にはなったんじゃねぇか?」

「あは、2人が嫌そうじゃなくて助かるよ。本当」


私についてきてくれている2人が納得できる、異論無い結論に持っていけて良かったな、とは思う。

これが1人だったら専属契約でも即決していた程度の話なのだ。

2人が居るからこそ、2人の立場が悪くならないように協力関係になるよう考え、好奇心を抑えた上で話をした。

……ホント、一瞬だけこの2人の意志とか関係なく話を進めたらどうなるかなって思っちゃったの危なかったな。

今回は他人のプレイに影響する内容だったからこそ、我慢できた。


「……ま、何処かで発散しておこうかな」


小さく、私は呟いた後。

メウラと音桜の2人と共に、イベント後の祝勝会を静かに楽しむ事とした。




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プレイヤー:レラ


・紫煙外装

『外装二式 - 亜器型一種』


・所有スキル

【煙草製作】、【観察】、【フィルター加工】、【背水の陣】、【回避】、【過集中】、【魔煙操作】、【隠蔽工作】、【複製】、【状態変化】、【投げ斧使い】、【多重思考】、【酒精操作】


・装備

赤き信仰のボディス、赤き信仰のドレススカート、赤き信仰のグローブ、赤き信仰のロングブーツ、赤き愉悦の外套、『信奉者の指輪』、『四重者の指輪』、『真斬のピアス』、『解体者の指輪』、『切裂者の指輪』


・煙質変化

【狼煙】、【怨煙変化】

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