目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
Episode17 - EB?2


群青の狼が鼠へと襲い掛かっていく中。

周囲に居たプレイヤー達も、我先にと攻撃を開始した。

炎が、水が、雷が。

斬撃が、打撃が、突撃が。

様々な攻撃が様々な現象と重なり、普段では見られないような光景を眼下で作り出していた。

……すっごいじゃん。

別段、他のプレイヤーを侮っていたわけでは無い。

ただ、このような光景を見る事が出来るとは思っていなかっただけだ。


紫煙外装の能力によるものもあるのだろう。

斬撃が水を操るように、纏うように飛んでいけば。

雷で出来た槌が、上からそれを叩きつけ。

紫煙を纏う槍の穂先が、鼠を突く度に炎を生じさせる。

パっと上から目立つものを観ているだけでコレなのだ。キチンと全体を見ていけば……もっと面白いモノが見れるだろう。

頭部から昇華の煙を抜いていき、少しでも私が人であると、プレイヤーであると他からも分かるようにした上で、私は目を凝らす。


「鼠は……HPバーは順調に減ってるなぁ」


だがそれが見れるのも、中央区に足止めされているこの鼠が居てこそだ。

HPの減り方からして、そう長い時間見れる事は無い。

ならば、今は、今だけは観測者となっても許されるのではないだろうか。


「許されないよねぇ……」


この考えは、後がある者だけに許される事だ。

今回のイベントがどういう立ち位置のものかは知らないが、中央区というダンジョンや外界へと繋がる場所に直接敵性モブ、それもボスレベルが出現しているのだ。

それを討伐せず残すような行動をしてしまったら……ほぼ間違いなく、エデンは壊滅するだろう。

今も、鼠が動くだけで、それを討伐しようとする者達の攻撃の余波で、中央区に存在している建造物は崩れていく。

他の、支援系や物を作る類が得意なプレイヤー達が、被害を最小限に抑えようと紫煙外装やスキルを全力で使っているのが見えるものの……そう遠くない内に中央区の元の形が残らない程度には破壊されてしまうだろう。


「……いけるかな。いけるよね。多分」


破壊された後、どういう風にゲーム内でストーリーが進んでいくのかは見てみたいものの。

それはそれ、これはこれ。そういった物を見るのは、またの機会にしておくべきだ。

私は空中に立ち、鼠の身体から生み出される敵性モブ達を相手にしながらも、中央区に漂う紫煙を周囲に集め、私を覆う球体の様に変えていく。

多くのプレイヤーが集っている為か、すぐに私の視界は白に染まった。

だが、これだけでは足りない。

やりたい事をするには、もう少し手を加えていく必要があるだろう。

……紫煙駆動かなぁ、ここは。

手斧から紫煙が漏れ出し、そこから紫電が発し始める。

それを操る事で、私を覆うように球体状になっている紫煙へと紫電を纏わせていく。


瞬間、流石に目の前の空中でそんな事をしている私を無視は出来なかったのか。

私へと群がるように、こちらへと向かってくる敵性モブの姿が多くなったのが紫煙の隙間から見えてしまった。

だが、問題はない。私がこうして紫煙を大量に扱えるという事は……その全てを攻撃に転用できる、という事なのだから。


『あーあー、もしもし。大丈夫かな?』

「ん、1YOUくん。どうしたの?下で攻撃してるっしょ、今」


と、このタイミングで何故か1YOUから通話が掛かってきた。

何の用事だろう、と眼下の彼へと視線を向けると、


『君が何をしようとしているかは分からないが……少しだけでも援護しようと思ってな。君に向かってくる敵性モブは任せてほしい』

「……大分多いけど大丈夫?」

『はは、何も1人で対処するわけじゃないさ。ウチの面々はこういう場面には強くてな』


言うや否や、空中に居る私の周囲に様々なモノが飛来する。

黒い杭、黒のフクロウ。何故か見覚えのある空を飛んでいる黒の狼や、多数の剣。

私を護るように、私を中心にしてそれらは集まってくる敵性モブ達を倒していった。

……うわぁ、凄いな。ソロじゃ基本は見られない光景だよコレ。


『どうだろうか、邪魔にはなっていないか?』

「いんや、全然。……あぁ、出来れば下で煙草を吸う量増やしてもらっていい?ちょっと量が足りるか分からなくてさ」

『了解、周囲にボックス単位で吸わせる事にしよう』

「程々にねー」


言って、すぐに中央区から立ち昇る紫煙の量が目に観えて増えたのを掬うように操って。

私は狙いを定めるように、指を銃のような形にして鼠へと向けた。

今回、私がやるのは攻撃役ではなく、阻害役。

数多くのプレイヤーがいるのだ。ダメージを今更追加する意味は薄く、それよりも中央区がこれ以上破壊されるのを防ぐ方向で動いた方が後々良いだろう。

だからこそ、


「――BANG」


私が発した声と共に、私の周囲に集められていた紫煙が鼠へと殺到する。

だが、それは普段使うような攻撃的な形ではなく……巨大で、無数の人の手のように見えた。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?