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Episode16 - EB?1


既に、その存在の姿は見えていた。

何分、出現したというのが中央区。エデンのどこからでも何がそこに居るのかが確認出来ていた。

それは、巨大な鼠だった。

ただの鼠ではない。

黒く、赤く、緑で、白く。

筆を咥え、血液のようなものを纏い、数を増やし、翼が生えている。


「ボスの複合体、って訳かな……!」


その全てに、今回のイベントで確認できた敵性モブ達の特徴が表れていた。

筆や黒の部分など、私達が主に戦ったあの黒狐の特徴が見えているのだから。

自身の分身でもある敵性モブを召喚し続けているのか、それの周囲には様々な攻撃のエフェクトが見えている。

私達に何かをする隙があるようには見えない。だが、行く。駆ける。

……ここで出てくるのは、好奇心いつもの病気だよねぇ!

近くに行けばどうなるのか。あの巨大な身は、どのようにしてこのエデンという都市の中に侵入してきたのか。

その身に斧を叩きつけた時、どのような反応をするのか。

全てを識りたい……そのような考えに頭の中が、思考が支配されていく。


「音桜ちゃん!」

「はい!援護ですか!?」

「よろしく!私は……合流できそうな所に合流か、もしくは……」


ピアスに意識が行く。

これの力を使えば、力不足にはならないだろう。しかしながら……まだ。

制御云々の話が出たばかりのモノであり、力なのだ。

使った所で持った刀の行き先が、鼠ではなく人の身である可能性すらある。

それだけは避けねばならない。


「――まぁ、何とかするよ!じゃあまた後で!」


言い切って、私は先行するように宙を蹴る。

急に空中で足場が消えてしまう音桜には申し訳ないが、それの心配をする思考の余白はどこにもなかった。

……あの手の化け物って自重とかどうなってるんだろうなぁ!

既に、見えているものは鼠のみ。

その名がなんであるか、その身に宿っている能力がどのようなものなのかなど考える事は無い。

だが、戦いの場に行くのだから、最低限の準備だけは必要だ。


「ふぅ-……行くよ」


空中で紫煙を使って急停止した後。

インベントリ内から2本、昇華煙、具現煙の煙草を取り出して口に咥えた。

火を点し、一気にその煙を肺へと入れようと大きく息を吸い込めば……瞬間的に咽せそうになるのを、ぐっと堪え。

それと共に、煙草から立ち昇る紫煙を周囲の物と合わせて私の目の前へと集めていく。

ある程度まで……凡そ、成形せずとも紫煙の向こう側が見えなくなった程度の所で、私はその場の足場を力強く蹴って前へと跳んだ。

瞬間、私の身体が一気に変化していく。


【注意!昇華煙の濃度が濃すぎる為、アバターに影響が残る可能性があります】

【スキル【浄化】を使う事で影響を薄め、完全に消し去る事が可能です】

【注意!具現煙の濃度が濃すぎる為、アバターに影響が残る可能性があります】

【スキル【鎮静】を使う事で影響を薄め、完全に消し去る事が可能です】


視界の隅に、久々に見たログが流れる。

それと共に、私の真正面には巨大な鼠がこちらへと頭を向けているのが目に観えた。

視界が急速に白黒へと変わり、景色がゆっくりと流れていく。

片手には手斧を、もう片手には複数の飴玉を持ち、私は征った。


『――ッヂュア!』


鼠が鳴くと同時、私の周囲に翼の生えた蛇、狼、ゴブリンが出現し襲い掛かってきたものの。


『遅イ』


紫煙、そして酒の飴玉がそれらを貫くように瞬時に形状を変えた。

断末魔を挙げられると面倒になる可能性もあった為、そのまま首に当たる部位を吹き飛ばしつつ、私は鼠の手前……大量のプレイヤーが集まっている所に着地する。


「何だ?!新手か!?」

「待て、煙草を咥えてる。それに紫煙外装持ちだ」

「プレイヤーには全く見えねぇな……!」


それはそうだろう。

私の今の見た目は、前よりも人外に近いもの。悪魔と言われても相違無いだろう。

ベースは元と同じ人狼で。

身体の節々から多くの草花が生えており。

腰からは巨大な蝙蝠の羽根、口からは青い炎が呼気と共に漏れ出しているのだ。

これを悪魔と言わずして何と呼ぶか。


『『煙を上げろワイルドハント』!』


周囲のプレイヤー達については置いておいて。

群青の紫煙を足に纏い、私は地面を強く蹴る。

瞬間、コマ落ちのように景色が切り替わり……私の目の前には鼠の巨大な身体があった。

その身体に対して、私が行う攻撃はただ1つ。

……この距離感で、この巨体で、外せるわけがないよねぇ!

手に持った手斧へと、再び群青の紫煙を纏わせた後。

私は空中で、目の前の獣へと手斧を力強く投げつけた。


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