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Episode15 - E1


先程の1YOUとの話を簡潔に音桜、そして通話を繋いだメウラへと話すと。

彼女は少しばかり苦笑いを浮かべつつ、


「受けて大丈夫だと思いますよ」


そう言った。


「人手不足ならば、私も解決する術……というか。私の場合は紫煙外装がその方向での性能なので」

「あー、じゃあ実際の所困りそうなのは私くらいか」

「そうですね。報酬に関しては……私やメウラさんから直に交渉するべきでしょう。向こうも、何も考えずに専属なんて話を出してはいないでしょうし」

『そうだな。俺は問題ない。顧客っていう顧客はいねぇし、そろそろ露店生活から移ろうかと思ってたくらいだし』


2人共に、別段問題は無いようだ。

ならば断る必要も無いだろう。

……私が問題として捉えてたのって、結局……この2人がどう思うかだしね。

ゲーム内で知り合い、そして共に行動している仲ではあるものの。

各々が個人で行動したいときは自由に行動しているのが私達だ。

それを私の一存で全てを決定してしまっては……今まで築いてきた信頼関係が崩れてしまう可能性だって存在していた。


「ですが、私達を専属に……ですか」

「あ、やっぱり気になる?」

『気にならないわけないだろ。俺側装備関係ならもっと良い性能を造れる個人勢は他に居る。音桜の方は個人のセンスが入ってくるが、【浄化】関係はそうじゃねぇだろ?』

「そうですね。だからこそ、私達を指名して専属という形を取るのは……何かしらの別の意図を感じずにはいられないかと」

「だよねぇー。私の【煙草製作】も、別に熟練度の段階がめちゃくちゃ高いって訳じゃ無いし」


最近は、新しい素材を使う時くらいにしか煙草を自分の手で製作していないのだ。

それなのに、私達を専属契約とはいえグループの一部に関わらせる、という事は、


「近々、何か大規模な動きがあるのかもね」

『このゲームでイベント以外の大規模っていうと……治世区か外界のどっちかか?』

「案外どちらも、かもしれませんよ?」

「あは、どっちにしても面倒な事には変わりないさ」


戦力として召集される可能性もある、そう考えておいた方が良いだろう。

それに、1YOUは『生産系のプレイヤーとして』契約を結びたいとは発言していない。

『私達パーティと』契約を結びたい、そう言ったのだ。

その場では生産系プレイヤーの数などを私が聞いた為にあの返答をしたのだろうが……戦力として契約する、というのは案外あり得ない話ではないのだ。

……所謂数合わせ、とかにはなりそうだけど……そうならない為のピアスなのかもしれないしね。

力を貸すからには本気で、全力で取り組むしかない。

例え、それが茨の道になろうとも……その先に見えるものに好奇心が疼く興味がのを感じたあるのだから。


「下に見られないようにしないとね」

『1番辛いのはどう考えても俺だろ。お前らと違って、どうしても少しは準備時間が必要なんだぞ』

「私も準備は必要ですよ。戦いながらでも何とか出来ますが」

『俺はそれが出来ねぇんだよなぁ……どうにか次の紫煙外装の強化でその手の方向に行ってくれれば良いんだが』


こうして、私達の話し合いは雑談へと流れていく。




数時間後。

私達も含めた数多くのプレイヤー達がエデンの防衛に従事している中、少数の精鋭達によって残っていた3体のボス達は討伐された、らしい。

らしいというのも、特段ログが流れたわけでもなければ、運営から何かしらの発表があったわけでもないからだ。


「何かあるとしたら、夜明けとかからかなぁ」

「仮眠取っておきますか?」

「いんや、下手に寝ちゃうと頭働かなくて変なミスしそう。音桜ちゃんは寝てても良いよ」

「私はいつもデザイン仕上げる時に徹夜とかしているので平気ですよ」


それは微妙にダメな類のクリエイターではないだろうか。

そんな事を話しつつ、私達は完全武装の状態で深夜の娯楽区のパトロールを行っていた。

メウラはその人手の多さから他の区画に駆り出されているものの……基本的に、防衛チームを組んでいるプレイヤー達は1日目と同じ配置で見回りをしているはずだ。

……これだけで終わるとは思えないんだよねぇ。……メタい事言えば、まだ遠野さん出てきてないし。

イベント進行役である運営が姿を見せていない。それはまだ今回のイベントの本編が終了していないという事を意味している。


「音桜ちゃんは何が来ると思う?」

「うーん……今まで出てきた敵性モブ達大集合!とかですかね?ありそうじゃないですか?」

「あー確かに。そういうの好きそうだよね、運営」


これまで出現した敵性モブが全て出現する、となれば混乱は免れないだろう。

娯楽区だけでも普通には倒せない敵性モブが出てきていたというのに、そこに他の区画……血液人型スライムやゴブリン、やかましい鷲などが加わったら地獄の様な光景になる事は間違いない。


「でも、私はちょっと違う事が起きるんじゃないかなぁって思ってるんだよね」

「えぇ?」

「あは、こういうのはいつも単純っていうか。フィクションでも、現実でも最後はでっかく行くもんなんだよ」


そう私が隣を歩く音桜へと笑いながら言った瞬間。

中央区の方から大きな爆発音と共に、エデン全体が警報で包まれる。


【中央区に強大な敵性モブが出現しました】

【これより紫煙駆動都市エデンは警戒及び排除モードへと移行します】


「見事なフラグ回収ですね、お姉様?」

「言ってる場合かな!?――行くよ!」


不穏なログが流れるのを視界の端で確認しつつ。

私と音桜は紫煙を足場に、空中から中央区へと向かい始めた。


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