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Episode14 - F2


「リーダー、それだけだと勘違いするで」

「おっとっと。それはすまない。単純な話、我々はまだ君のあの状態をしっかりとこの身この目で見たわけでは無い。スリーエスの配信画面を通して知ったわけだからな」

「あ、あー。成程?意見や対策をしようにも、実物を確認したわけじゃ無いから的外れな物になりかねない、ってわけだね?」

「話が早くて助かるよ」


事実、彼の言っていることは道理だろう。

対策というのは、相手の事を理解した上で行われるものであり、理解の工程を欠いた状態で行われるそれは逆効果にもなり得る事もある。

だからこそ、確実に封じ込める、もしくは制御出来るようになってもらいたいのだろう。

だが、ここで1つの疑問が私の中で大きくなっていくのを感じる。

……向こうのメリット、何もないんだよね。この提案。

今の話だけでは、私だけが利を得るだけとなる。

無論、向こう側は私に恩を売る……貸しを与える事ができる訳だが……大手のストリーマー集団やプロゲーマーなら兎も角、一般の1ユーザーに貸しを与えるのは何故なのか。


「まず、あの状態になるのは良いとして。……君達『Sneer Wolf』にメリットが少なすぎるような気がするけど?」

「このゲームを楽しむ1プレイヤーの悩みを解決したい……この答えでは駄目か?」

「それも本心ではあるんだろうけど、答えにはなってないかな」


それをやるのは運営の仕事であり、同じプレイヤー間でやるのには理由になり得ない。

素直に聞き、その答えを返した私の目を1YOUはじっと見つめた後、浅く息を吐いてから笑みを浮かべた。


「すまない。試すような事をした。スリーエスや伽藍ドゥからは実力者だと聞いていたからな。こういう話方面では少しはやれるのかと気になってしまったんだ」

「じゃあ、他に私に求める何かがあるんだね?」

「あぁ、勿論。君と……いや、君を含めた君のパーティとゲーム内での専属の契約を結びたい」


……そう来たかぁー。

専属契約。私はあまり関係はないものの、メウラと音桜にとっては大問題だろう。


装備関係ならば、基本的にスキルを持ち合わせており、その性能もある程度は確実に保証される実力を持つメウラ。

そんな装備のスキンや、それ以外にも補助系の生産スキルを伸ばしている音桜。


この2人が『Sneer Wolf』の装備に携わるとなれば……彼らの攻略速度は確実に上がるだろう。


「……そっちのグループにも専属っていうか生産職は居るよね?」

「あぁ。それぞれ1人ずつな」

「あー……人数かぁ……」

「そう言う事だ。無論、断っても構わないし、断られたとしても私達は君のピアスの対策、制御を手伝うと約束しよう。パーティでの相談もあるだろうからな」


……って言われても、結局これ受ける方がこっちのメリットが大きいんだよね。

生産スキルの熟練度は、モノを作る事で得られるものだ。

そして大きなグループならば、モノを作る回数は多いだろう。

それ以外にも、専属での契約、と態々謳っている事から別に報酬なんかも用意されている可能性もある。


……目に見えてない、不確定要素っていうと……どれくらい生産に時間をとられるかって所かな。

最悪、メウラは自身の紫煙外装を使えばある程度は別の時間も確保出来るだろう。

問題は他、音桜や、私にそれらが降り掛かった場合だ。

従者ルプスを使うにしても、人手不足になる可能性は高い。


「ちなみに、今のこのゲームにおける『Sneer Wolf』の人数って?」

「ログイン人数は14人。フルでは21だな。生産職はその内の3人となる」

「18か……うん、分かった。ちょっと持ち帰って聞いてみるよ。答えを出すのはその後でいいよね?」

「問題ない。双方にとって良い話になる事を祈っている」


極め付け、と言っても良い言葉を1YOUに吐かれた後、私は苦笑しつつその場からマイスペースへと移動する。

……双方にとって、ねぇ。

今回の場合の双方、というのがミソだ。

私以外に対して報酬の類の話はされていないものの、基本的には受けた方が得になるのが今回の話であり……メウラにこの話をすれば、ほぼ確実に首を縦に振る事だろう。

彼の紫煙外装の効果は、敵性モブの素材があればあるほど良いのだから……素材が勝手に集まってくるような環境は願ってもないはずだ。


「どう話すかなぁー……」


別段、私としては受けても良い話ではあるのだ。

この話を受けた所で得られるものは数多い。

『真斬のピアス』の対処を始め、スキルの熟練度からスリーエス達以外の『Sneer Wolf』へのコネ。

それ以外にも、交渉によっては私の知らない設備に触れる可能性だって存在している。


「やっぱり、問題は音桜ちゃんかな」

「あら、私がどうかなさいました?お姉様」

「……いつから居たの?」

「つい先ほどですよ」


いつの間にか、私のマイスペースに侵入している女が居た。

一応、フレンドであれば入れるようには設定しているものの、こうして音もなく入ってこられると中々に怖いものがある。


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