イベント2日目。
私は1日目の最後と同じ様に、治世区へ敵性モブ達への対処に出掛けようとした……のだが。
「えーっと……これは一体?」
「いやぁ、嬢ちゃんすまんなぁ。うちのリーダーが連れてこいって聞かんくてな」
マイスペースから出た所を、スリーエスに米俵を抱える様な形で攫われていた。
抵抗できないわけでは無い。
エデン内ということもあり、武器に出来る紫煙は幾らでも存在しているのだ。
しかしながら、彼が言う事に興味が湧いてしまった。
「リーダーっていうと、あの巨人の人だよね」
「おう、せやで。うちのリーダーの
1YOU。名前だけは聞いた事がある。
元はFPSの世界プロであり、VRゲームがゲーム界に進出すると同時に引退。
現在はストリーマーとして活動していたはずだ。
私との繋がりは、バトロワ時に彼が禍羅魔と戦闘している時に少しだけお邪魔した程度であり……何かを話すような間柄ではない。
「んー……何かしたっけなぁ」
「多分そのピアス関連の話やろ。ほら、前に言った」
「……あ、あー。そっちのグループの専門家に見てもらうって話?」
「そうそう。ワシの配信のアーカイブでも観てどんなもんか判断したんやろ」
元はスリーエスとした口約束。
しかしながら、そこにリーダーが出張ってくる……というのは中々だ。
プレイヤー全体で問題になる様な事があれば、多くのプレイヤーが関わろうとするのは分かる。
しかしながら、今、この個人での問題という小さな状態で関わってくるとなると、
「……私、もしかして勧誘とかされる?」
「ピアスがどうにかなったらされるかもしれんな。ワシでも抑えるのキツいレベルの力やし」
落とし所として私が予想できるのはそんな所だ。
プロでも、そして特段ストリーマーとして活動しているわけでも無い個人。
目立つ格好且つ、実力も伴っているならば……良い『Sneer Wolf』の宣伝にもなるだろう。
……問題は、そんな過剰評価されるような存在じゃないって所だろうなぁ。
「あは、タイマン特化の君に言われるとむず痒いねぇ」
「一瞬コメ欄荒れたんやぞこっち。主にワシへの煽りで」
「それは普段の行い」
そんな事を話している内に、私達は中央区へと辿り着く。
【世界屈折空間】や外界へと繋がっている門の前にはイベント中だと言うのに、今日も人が多い。
そんな中、ある一角に数人のプレイヤーが集まっていた。
誰もが似たような甲冑に身を包み、まるで騎士団かのような様相をしている集団だ。
その中心部には1人、見覚えのある男が立っていた。
腰からはスリーエスのように剣を下げ、1人薄く青掛かった白色のファーコートに身を包む男だ。
「おーい、リーダー。連れてきたで」
「……スリーエス、せめて女性を運ぶならそんな米俵を運ぶ様な方法はやめておけ」
「おう、すまんすまん。文句も言われんかったからな。――嬢ちゃん、立てるか?」
軽く降ろされ、しっかりと両の足で立つ。
リーダーと呼ばれた、あの時の森で出会った男はこちらへと軽く礼をしてから笑顔を浮かべた。
「君と会うのは、前のイベント以来だな。1YOUという。『Sneer Wolf』のリーダーなんてものをやらせてもらってる。よろしく」
「こちらこそ、ただの一般人のレラだよ。よろしくね1YOUくん」
「……くん?」
「あれ、ダメだった?私基本的に誰に対しても『くん』『ちゃん』付けて呼んでるんだけど」
私が名前を呼んだ瞬間、彼の背後に回ったスリーエスを始めとした何人かのメンバーが噴き出したのが目に見えた。
そんなに面白かったのだろうか?
……いや、この場合はそう呼ばれた1YOUくんに対しての笑いかな。
あまりそうフレンドリーに呼ばれる事が少ないのだろう。私には関係のない話ではあるが。
「い、いや。大丈夫だ。……さて、本題に入ろうか」
「そうそう。今回はポイントみたいなのを稼ぐ形式じゃないからアレだけど、イベント中に呼び出すってどういう事?」
「それについては申し訳ない。連絡は早い方が良いだろうと判断したんだ。――君、そのピアスの力を上手く扱えるようになりたいか?」
予想していた言葉だ。
というか、ここで本題と言われて出るような内容はピアスの話か、1YOUが前のイベントの事を根に持っていて、この場で決闘をしようと言われるくらいなのだから。
……問題は、道中でも考えてたけど『何を要求されるか』って所かな。
モノを教えてもらうには、何かしらの対価は必須となる。
私がこのゲーム内で支払えるものと言えば、大量に余り散らかしている煙草くらいのもの。
それ以外は基本的には誰でも手に入るようなモノしか持っていないのだから、物を対価にするというのは難しいだろう。
「先に確認させてもらっていいかな?……私は君、っていうか君達に何を対価に教えてもらえばいいのかな?正直、あんまり凄いものとかは持ってないし、生産職でもないよ?」
「あぁ、対価についてはそこまで考えてはないんだが……そう、あの修羅のような状態と戦わせてもらえないだろうか」
「……え、なんで?」
どうやら1YOUは