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Episode12 - EBR


--紫煙駆動都市エデン・娯楽区


「――と、お姉様がデスペナルティ後になった訳ですね」

「成程ねぇ」


娯楽区の一角、いつも使っている喫茶店にて私は音桜から事の顛末を聞いていた。

というのも。

あの後、デスペナルティとなった私は身体も碌に動かせない状況であった為に、マイスペースに引き篭もっていたからだ。


……予想以上に反動が大きかったなぁ。

現状、娯楽区には敵性モブの侵攻は止まっている。

私達が『黒血の守狐』を討伐した後、娯楽区に湧いていた敵性モブ達は一様に溶ける様に消えたらしい。

それに加え、今の今まで敵性モブが出現していない事から、一旦警戒は続けるものの娯楽区は一時的な休憩地……非戦区となったわけだ。


「その流れで、今は他の区画で大規模な侵攻が企画されてると」

「そうなります。メウラさん、スリーエスさんは伽藍ドゥさんに呼ばれて管理区に。他の方々も各々の行きたい区画へと足を運んでいるそうです」


尚、既に斥候役のプレイヤー達が下の外界に居るであろうボス達の情報をとってきているらしい。


管理区の下に居るのは、『玩具の緑小鬼王』。

王冠を頭に乗せた、縫いぐるみのような見た目の大きなゴブリン系のボス。

当然ながら、大量のゴブリンが襲い掛かってくるらしくボスとの戦闘では範囲殲滅か、個々人の戦闘能力が高い必要があるらしい。


生産区の下は、『万食の自食狼』。

前の右脚が血で出来た、黒色の巨大な狼系のボスだ。

単純に強く、1つ1つの動作が目に見えない程に速いらしい。

私は相手がしたくない類のボスだ。


そして治世区の下。こちらは『印液の偽正鷲』という名の巨大な鷲型のボス。

半透明の白い液体を纏い、時に消え、時に此方にバフデバフを無差別に付与してくる類の、少々面倒なタイプのようで……まぁ苦戦はするだろう。


「話を聞く限り、メウラくんは兎も角……2人は治世区の方がいいと思うんだけどなぁ」

「何かと事情があるのでしょう。……しかし、申し訳ありません」

「ん?何が?」


突然、話を切って音桜が頭を下げる。

謝られる覚えなんて1つもない筈なのだが。


「その、浄化の力が思ったよりも強すぎて……」

「あぁ、デスペナの事?別に良いよそれくらい。あれはあんなもん使った私が悪いし」

「いえ、いえ!そうではなく……!お姉様の愛らしい耳が……!!」


そう言って、彼女は私の頭上へと視線を向けた。

以前はそこにあった、狼の耳。

しかしながら、今はもうそこには無かった。

理由は簡単。音桜が修羅となった私を強力な浄化の力によって祓った為だ。


彼女とパーティを組んでいた大きな理由の1つ。

それが、スキルや紫煙外装を使った強力な浄化の力の行使にある。

彼女の特性上、何かと場を清める……なんていう、いわば光属性的なスキルを用いる事が多い。

修羅に放った一撃もその流れを汲んでいる。

あれは彼女の紫煙駆動と、【浄化】及び、【不浄祓】などのスキルの組み合わせによって行われる強力なお祓いであり、怨念の塊であるあの状態の私や場にとっては特攻ともなり得る攻撃だったのだ。


そして、私が良く使う魔煙術。

その中でも、昇華煙を過剰供給する事で人狼と成る行為は毎度毎度警告が来る程度にはアバターに対して影響が出るものだ。

頭にあった狼の耳もその影響の1つであり……それを除去するには、都度書かれていたように【浄化】を使うしかない。

そう、【浄化】だ。

奇しくも、今回私は修羅となった事で魔煙術の後遺症からも解放されてしまったわけだ。

扱っていた本人は不本意であったようだが。


「いやぁ、私としては良かったんだけどなぁ」

「うぅ……今後は控えます……」

「控えてもらうのはちょっと困るかな!?」


イベントはまだ続く。

それこそまだ1日目であり、そろそろ夜へと移行する時間帯だ。

運営側もプレイヤー達がこのような速度でボスを倒す事自体は想定しているだろう。

だからこそ、何かしらのボスか突発イベントの類を用意しているに違いない。

……案外、何も用意してなくて慌ててたりしてね。

そう考えると、少しだけ面白くなって笑ってしまう。


「よぉーし、私達もどっか行くかぁ。音桜ちゃんはどこの援軍行きたい?」

「私は……そうですね。治世区でしょうか」

「あー、私達だけだと遠距離系に特化してるもんね。確かに相性は良いか」


言って、すぐさま準備を開始する。

消耗品自体は今回あまり使っていなかった為に、それなりの数が余っているのだ。

ST回復薬の飴玉も使ってすらいないのだから、色々と悪さが出来るだろう。


「鷲系が出てくるんだったよね、敵性モブは」

「えぇ。ボスの方には行きます?」

「んー……今行った所で連携取れるとは思えないしパス。それに」

「それに?」


一息。


「この手のボス達って、後でどっかから挑めるようになる類じゃん?そうなったらいつもの3人で挑んでみようぜ」

「……そうですね。変に今回みたいに襲われても敵いませんし」

「あは、その通り」


本当にこの後挑めるようになるかは分からない。

だが、それを楽しみに適当に。自身の得意を押し付けられる所で、少しだけサボるのも良いだろう。


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