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Episode11 - EB3


【『真斬のピアス』に込められた怨念が一定以上溜まりました】

【怨念を輩出します】

【具現化概念『想真刀そうまとう』、『死傷続しにしょうぞく』、『師生ししょう』が一時的に使用可能となりました】

【『信奉者の指輪』による補助を確認。使用時のデメリットが一定時間打ち消されます】


以前みたログとは違う部分が何個か存在している。

だが、それを詳しく考えるのは今ではないだろう。

何せ、視線の先……湖に映っている視点は、今も動き続けているのだから。


赤黒い修羅は、その手に握る刀を振るい黒狐へと襲い掛かる。

否、修羅が襲い掛かるのは何も黒狐だけではない。

近場にて戦っていたスリーエスにも届くよう、周囲の怨念を吸収し、『想真刀』の刃先を伸ばした上で大きく横に薙ぐように刀を振るったのだ。

黒狐は避け切れず、スリーエスはギリギリのタイミングでそれを避けていく。

だが、それで終わりではない。攻撃が命中した、という事は。


「バフが掛かる……!」


何をどうしているのか、私の現状出来る速度よりも早く動くソレは、相対する者を一度斬った事で更にその速度を上げた。

空中に浮かぶ黒い液体は、悉くその全てを斬り刻まれていき、赤黒い靄に浸食され消えていく。

ターゲットにされ続けては敵わないと考えたのだろうか、スリーエスが離れていくのが見えたものの……修羅は止まらない。

黒狐と真正面から戦い始めたのだ。


大きく、そして力強く振るわれる筆を細い刀で弾き、返す刀で一方的に斬りつける。

黒い液体を津波のように使う事で、飲み込み距離を取らせようとするも……一刀で割られ、効果は無い。

その巨体を使い、前足で叩き潰そうにも速度を捉えきれず、避けられ斬り刻まれる。

一方的だった。

力の源はほぼ確実に『人斬者』であろうと予想出来るものの、同じボスでも……力の一端でもここまで圧倒するものなのか?と考え、頭を横に振るう。

あれは『人斬者』であって、私でもあるのだ。

強化系のスキルが半ば自動で発動するような身体に、あの修羅が乗っている。

そしてあの修羅は、敵を斬れば斬る程に自身を強化していくのだから……最初はステータスが拮抗、ないしは劣っていたとしても、その関係は時間と共に崩れていく。


……好奇心がそそられる状況ではあるけど……楽観は出来ないなぁ。悲観は出来るかもしれないけど。

そう遠くない内に、『黒血の守狐』との戦いは終わるだろう。

しかしながら、あの修羅が消えてくれるとは限らない。


「私の所為で消えない可能性が高いんだよなぁ……やっちゃったなぁ……」


何故なら、あの場には大量の……濃い怨念が溜まっているからだ。

元は、あの場に『黒血の守狐』を縛り付け、出来る限りのデバフとダメージを与える為に使った【怨煙変化】ではあるのだが……それが、今は悪い方向に作用している。

修羅がたまに攻撃を喰らったとしても、周囲の怨念がその身に吸収されているのだ。

明らかな回復作用。怨念で出来た存在であるが故に、怨念があれば活動をし続ける。


「えぇっと……ここ多分プレイヤー専用の精神保護とかそういう空間だよね。パーティチャットは……見えるか。打ち込めは……するなぁ。成程ね」


最悪の想定をしつつ、私は音桜へと向けたメッセージをその場からチャットへと打ち込んでいく。

普段から彼女と組んでいるのは、何も彼女の押しが強く私がそれに慣れてきたからではない。いや、それも多分にあるのだが。

それでも……立派な理由が1つ、存在している。

……あ、スリーエスくんには抑えてもらった方がいっか。

そう思った瞬間、湖に映る視点では満身創痍となっていた黒狐が真っ二つに両断される場面が映っていた。

何やら口を動かしつつも消えていくのが見えているが……私の方にはログが流れてきていない為、本当に倒しているかは分からない。


視点の中、消えていく黒狐を目隠しにスリーエスが修羅を抑えに行く。

ボス戦開始当初の、両者を何処か別の空間へと飛ばすタイマン強制能力ではなく、単純にヘイトを自分に向ける類のスキルを使っているのだろう。

身体から離れている筈の私の視線すらも、彼の動きから離す事が出来なくなってしまった。

だが、それで良い。この場に居る私ですら惹きつける程の効果だ。あの場に居る修羅が、スリーエスを無視する事はないだろう。

……単純に凄いな。あの状態のアレに1人で斬り結べるの。

ボスや、それ以外にも彼自身も斬られているだろう。その分、あの修羅にはバフが乗っているはずなのだ。


それを証明するように、本当に苦しそうな表情をしたスリーエスの顔が見えるものの……その表情は徐々に和らいでいく。

何故ならば、周囲から白く輝く光が立ち昇り始めたからだ。


「音桜ちゃんの本領発揮、ってね」


以前、スリーエスに話した時、意図的に話していなかった部分。

制御云々ではなく、自身で考え探した怨念への対策の1つ。

修羅も既に周囲の雰囲気が切り替わったのを感じたのだろう。だが、既にもう遅い。


この場には聞こえてこない筈の、鈴の音が1つ聴こえた。

――瞬間、修羅の両手に白い光の枷が嵌められる。

鈴の音が2つ、聴こえた。

――瞬間、修羅の両足に白い光の杭が打ち込まれる。

鈴の音が3つ、高く鳴る。

――瞬間、修羅の首が白い光の断頭台に固定された。


再度、鈴の音が空間に響く。今まで鳴った音のどれよりも低く。

それが耳に聞こえた瞬間、私の視点は暗転した。




【死亡しました】

【デスペナルティ2h:全ステータス制限怨念耐性低下四肢動作不良


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