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Episode10 - EB2


『すまん、そろそろ限界や。準備は?』

「上々。いつでも良いよ。戻ったら一気に下がってね」

『了解、戻るで』


瞬間、言葉が切れると共にボスとスリーエスはこの場へと帰還し、


「『変われ』」

「おおぉ!?」


ボスの元に集まっている紫煙へと、私に繋がれた線から【怨煙変化】が伝わり、赤の怨念がボス全体を包み込んだ。

慌てて此方へと避難してくるスリーエスが、何やら非難めいた目を向けてくるものの……後で聞くとして。

私はすぐさま高台の1つへと跳び乗り、


「『煙を上げろワイルドハント』ォ!」


群青の紫煙で右肩から右手までの全体を覆ってから構え。

次いで紫煙駆動まで起動させてから、怨念の中心に居る黒狐へと手斧を投げつけた。

空気が破裂する音と共に、手斧が視認するのも難しい速度で飛んでいき……怨念の中心へと届く。

それに幾拍か遅れ、2本の紫煙の斧が追撃として直撃した。

……普通ならこれで大抵のは終わる。だけど。

油断せず、腕を上げる。

瞬間、それを合図にして様々な遠距離攻撃が怨念内部の黒狐へと襲い掛かった。

火炎が、雷が、氷塊が。

弓が、槍が、直剣が。

それら全てが遠方から射出され、蹂躙していく。

内部の黒狐はやはりHPが尽きていなかったのか、悶える様に筆を奮い、黒い液体を操って迎撃しようとしているものの……怨念の所為か、時折動きが鈍ったり、動くたびに血を吐いているのが目に観えた。


「えっげつないことするのぅ、嬢ちゃん」

「これくらいやらなきゃでしょ、4人で仮にも外界のボスに挑んでるんだし。……で、特殊な行動とかあった?」

「いんや、無いな。基本も基本、ボス戦初心者用のチュートリアルかと思ったくらいや。ただその分ダメージも痛かったがな」


近付いてきたスリーエスに会話を返しつつも、視線は黒狐へと向けたまま……私はピアスへと触れる。

その仕草に気が付いたスリーエスは、笑みを少しだけ崩しつつも大丈夫なのかと視線で問いかけてきた。

黒狐の全体が見え、HPバーの総量も観えてくる。

その量は、凡そ半分。

1本のバーではなく、3本ある内の1本半が削れていると言えばいいだろうか。

今も音桜とメウラが攻撃をしているものの、その削る量は微々たる量だ。


「んー、まぁスリーエスくんが居るから使おうかなぁって思う程度かな。タイマン能力で他の2人には被害及ばないし」

「頼りにされるのは良い男の特権ってやっちゃなぁ」

「都合の良い男だねぇ」


軽口を叩きつつ、一歩前へと出る。

元より私の立ち位置はスリーエスよりも遠く、音桜達よりも黒狐に近い位置。

そこから一歩でも前へと移動すれば、そこから『黒血の守狐』へとは昇華やスキルによって強化された私にとっては一足飛びで届く距離だ。

軽く息を吐き、手斧を仕舞う。

私の様子に何かを思ったのか、後ろから何かを問いかけるような声が聞こえてきたものの……既に私の思考は動きだしていた為に聞こえなかった。


ピアスに触れる指に繋がるように、紫煙の糸を模り。

それを怨念の塊へと向かって軽く投げるようにして空中を泳がせば……赤い糸のように向こう側から勝手に繋がってくる。

……一回は、使っておかないとって気持ちは有ったんだよ。でも機会が無かった……っていうのは、まぁ言い訳か。

赤い糸が迫ってくる、なんて言えば少しは気持ちが変わるのだろうか、なんてことを思いつつ。

私は再度、息を吐いた。


――声が、聞こえ。周囲の景色が白黒へと切り替わる。


余力を振り絞り、こちらへと駆けてこようとしている黒狐の姿。

それを迎撃しようと黒剣を握りしめつつも、こちらへと視線を投げるスリーエスの姿。

何があっても良いように、数体の人形を私の元へと向かわせるメウラの姿。

心配そうに、しかしながら周囲に複数の御札を浮かべ私を見つつも黒狐へと攻撃を加える音桜の姿。

それら全てが、ゆっくりと……時が止まったかのように動かなくなっていく。


『――識って尚、我が怨念を遣おうとするか』


身体は動かない。

あの時と同じ様に、粘度の高い液体の中に居るかのように動かす事が叶わない。


『その傲慢さ、強欲さはいつか汝の首元へ喰らいつくだろう。儂へと至る力の一端を、ここに』


ピアスから漏れ出た、赤黒い靄が私の全体を覆っていく。

抵抗は……出来そうにない。

右手にはいつか見て、そして振るった刀が。

そして見える範囲の私の服装は、赤黒い羽織袴のように変わっていた。

視界の上部の方には、右目側に切り込みの入った赤黒い編笠が見えている。


『儂に至る道を示せ』


身体が自由になっていく感覚と共に、私の視界は一変する。

目の前には1つの湖のみが。

それ以外には何もなく、暗闇の中へと取り残される。

……ここ、は……?

湖を見てみれば、そこには1つの……否、あるものが映し出されていた。

それは、先程まで居た図書館のホールを俯瞰した視点から見ているものだ。

しかしながら、その中心には黒狐ではなく……赤黒い修羅が居た。


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