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Episode9 - EB1


プレイヤー達との戦闘……否、蹂躙とも言えるそれが終わった後。

私とスリーエスは軽い打ち合いをしながらメウラ達を待っていた。

と言うのも、


「……うん、やっぱりそういうスキル持ちだよね、スリーエスくんは」

「いつから気付いとった?」

「少し前に貰った言葉を返そうかな。……この戦いの少し前だよ。君、何かと大きな敵と戦う前って、少しだけ適当な敵と戦ってたじゃん?」


それなりの速さで振るわれる黒剣を、観てから避け、身体を廻す事で手斧を相手の胴へと導いていく。

しかしながら、それは当たらない。

軽く一歩半程、後ろに下がられたからだ。


「ワシが言うのもなんだが、よく見とるなぁ嬢ちゃん」

「そりゃスキルが生えるくらいには周りをよく観てるからね」


距離を取り、再度似た様な攻防を繰り返せば。

先程と同じ動作、速さなのにも関わらず、スリーエスから感じる圧が少しだけ強くなった様に感じた。

気のせいでは無い。

……戦闘中、ステータスが増加するスキル。どんな名前だろうなぁ。

本人の認識では体感速度などは変わっていないのだろう。だからこそ、先程と同じというのは彼が意図的にこちらに合わせてくれているのだ。


「合成後?合成前?」

「合成後や。所謂レアスキルっぽいからこれだけで勘弁してくれ」

「おっけ、じゃあ自分で探してみるよ……っと、来たみたいだけどクールタイムは大丈夫?」

「5分で切れるが……まぁー問題ないやろ」


と、ここで後方から支援してくれていたメウラ達が私達の元へと合流した。

一瞬、私とスリーエスが打ち合っているのを見て驚いていたものの、身体を暖める為だと言って誤魔化しておく。

本人的には隠しているつもりなのだろうから。


「さて、行くよ。準備は良いよね?」

「えぇ、ここに来るまでに整えておきました」

「入ってからの作戦は……まぁいつも通りか?」

「いんや、まずはワシが突っ込むから、そこで場を整えてくれ。タイマン能力なんて開幕か最後くらいでしかボス戦で使えんからな」


簡単なブリーフィングの後、私達は黒い液体が立ち昇る図書館の中へと足を踏み入れた。

一瞬、何かを通過する様な感覚と共に、私達の視界は歪んでいく。



――――――――――――――――――――


天まで届く程に高い書架が立ち並ぶ中、それは居た。

書架達の中心部、巨大なホールの様になったそこの中心に、漆黒を思わせる毛色をしたそれは丸まって居た。


狐だ。

黒の液体を天へと立ち昇らせ続ける壺を背負い、近くには筆のような物が置かれ。

歩いてきている私達へと視線を投げるその姿は、何処か神秘的なモノを思わせる。


一歩、また一歩と私達が足を進ませると共に、狐は身体を起こし、筆を咥え、黒い液体を身の周囲へと浮かび上がらせていく。

私達が正面へと辿り着いた時、黒狐は殺意の籠った視線を私達へと向けていた。


――――――――――――――――――――


【『黒血の守狐』との戦闘が開始されます:参加プレイヤー数4】


「頼んだ!」

「任されたァ!『多勢に無勢に闘争を』ッ!」


瞬間、私達の目の前からスリーエスと黒狐の姿が掻き消える。

彼のタイマン強制能力だ。

一応、パーティメンバーの欄にはスリーエスがいる為、生死の判断はここから行う事が出来る。

彼が時間稼ぎ、そしてボスのある程度の削りをしてくれている間、私達がする事は1つ。


「メウラくん、工房準備。高台を幾つか用意して」

「了解。大小含めて5造るぞ!」

「音桜ちゃんは今のうちに出来る限りの浄化と、攻撃複製。足りない消耗品はこっちで出すよ」

「畏まりました。では各種10ずつ複製します。お姉様、余っている素材……薬草類で構いません。融通を」


戦場を作り上げる事。

まともに相手のフィールドで、よーいドンで戦う必要なんて全く無い。

折角スリーエスが戦ってくれているのだ。それを活かし、戻ってきた時に勝負を決められるように準備するのがせめてもの礼だろう。


図書館内のホールに、幾つもの石で出来た高台が造られていく。

それぞれの根元では、メウラの人形達が何やら踊っているものの……それが構築方法なのだろう。

そこに、淡い白の光の波長が流れ、浸透し、補強していく。

音桜による場の整調及び、バフによる耐久性の向上だ。


その間、私が何をしているかと言えば……ただ1つ。

メウラや音桜の行動によって生じた紫煙を幾ばくかちょろまかし、ボスが元々いた位置へと集めているのだ。

濃く、まるで濃霧のように向こう側が見通せないようになってきた所で、私とそれが繋がる様に細い紫煙の線を繋ぐ。

時間にして凡そ5分。短い様で長い時間だ。

しかしながら、私達がしたい準備は全て完了する事ができた。


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