図書館らしき建物に近付くのには、特段困難という困難は訪れなかった。
エデンに出現している敵性モブ達が徘徊している為に、戦闘は継続的に起こったものの……それだけでしかないからだ。
元よりも強化されているわけでも、変な動物へと変化しているわけでもない。
それならば、私達に対処できない相手でもないのだから。
「予想外と言えば予想外はあったけどねぇ」
図書館の前へと辿り着いた私は周囲を見渡す。
そこには、
「スリーエス達が来たってことは、組織立って動いてる連中が来たのか」
「チッ、行かせんなよお前ら。ここまで美味いところ取ってかれたら意味がねぇ!」
「分かってらァ」
十数人の、紫煙外装を握っているプレイヤー達の姿だ。
私とスリーエスを囲むように、敵意を隠そうともせずにこちらを睨みつけている。
……これは妬みとかかなぁ。私が元じゃないみたいだけど。
彼らは言ってしまえば……はぐれのプレイヤー、とでも言うべき存在なのだろう。
『Sneer Wolf』達が集めた防衛メンバーにすら選ばれず、かと言って誰かと共にエデンで好きに防衛する事もない。
そんな中で外界に安全に降りて活動出来る程度には実力のあるプレイヤー達。
「で、どうすんのスリーエスくん。
「良いか嬢ちゃん。こういう時はまず対話からや。相手がどんなに野蛮人でも、対話は忘れちゃあかん。……おう、そこの真ん中の奴!そう、お前や!鎌持ってる奴!」
スリーエスはプレイヤー達の中の1人、彼らを統率していた男へと声を掛ける。
こちらが武器を出していないからなのか、それとも2人という相手に十数人で囲んでいるからという余裕があるからか。
嫌な笑みを浮かべながら、彼は一歩前へと……こちらへと進み出た。
「んだァ?今更解放してくれって言われても許せねぇぞ?ここで――」
「あっ、悪ィ」
その瞬間、スリーエスが取り出した紫煙外装がその男の頭を斬り飛ばした。
それと共に、私は周囲の紫煙を操る事で油断していた数人を串刺しへと変える。
「やるのは分かってたけどさぁ!事前に教えてくれないかなぁ!?」
「あっはっは!こういうのは騙すのは味方からとか言うやんな!」
「危険になるのはこっちなんだけどね!?」
言いつつ、私達は倒し切れていないプレイヤーへと襲い掛かっていく。
ここでやっと状況が頭に入ったのか、相手方も反撃しようと紫煙外装から紫煙を垂れ流し始めたものの……私が居る場でそれは悪手としか言いようがないだろう。
私の手斧のように何かを模ろうとしたそれらを、全てこちらの手元へと集め、1本の槍に変え。
長く、そして濃くなった槍を一度横に振るう。
「槍の扱いは初心者かよ、やっちま――ぁが?」
それをスキルも込みで軽く避けたプレイヤーが居たものの。
これは槍であって槍でない、紫煙の槍だ。その形に固めた所までで終わりではない。
避けた先へと矛先が、柄が、槍を構成している部品のその全てが新たな槍と変わって襲い掛かるのだから。
予想していなかったのか、それとも私の【魔煙操作】がそこまで変化出来ないものと侮っていたのか、そのまま1人はデスペナルティとなって消えていく。
だが、流石に多勢に無勢。
数人巻き込むような攻撃は出来ないわけでは無いが、それをすると近くで戦っているスリーエスを巻き込んでしまう可能性も出てきている。
今も、私の狼の耳には背後から駆け寄ってきている足音が聞こえ、
『ヘッドショット。ナイスですメウラさん』
『おう、次も行くぞ』
「狙撃手かぁ!?」
「さっ探せッ!仲間ならそんな遠くには居ねぇはずだ!」
地面へと倒れ込む音も聞こえてきた。
遠く……ある住居の屋根の上を陣取っている、パーティの後衛陣による狙撃によるものだ。
メウラの紫煙外装による狙撃手と、音桜の紫煙外装によるバフ。
そして彼らのスキルによる狙撃に対する補正や、場の整調によって私とスリーエスの居るこの場にクリティカルな狙撃が届く。
無論4人でこの場に来ても良かったのだ。
他のプレイヤー達が私達をツけてきている事自体は、この場に降りてすぐ程度には分かった事。
だが、途中から二手に分かれ……今の状況に持っていったのはスリーエスによる発案だった。
……ま、戦いやすいのは良い事なんだけどね。
遠くから狙えるのに、近場で戦う意味は無い。
それが出来ない、もしくは出来なくてもある程度戦える私達2人は近場でプレイヤー達のヘイトを受け。
その間に、1人1人確実に潰していくのが後衛陣2人の仕事。
「紫煙駆動さえ使えたらお前らなんかよォ!?」
「私も紫煙駆動使ってないけど?素の実力とスキルの使い方なんじゃないかなぁ」
「っ!うるせぇ!」
適度に煽りも入れつつ、私へと、時にはスリーエスに擦り付けながら踊るように攻撃をいなしていく。
この場であまり消耗するような戦い方はしたくないのだ。
なんせ、この後戦う事になるのは……確実にボス相当の相手なのだから。
数分後。
多少のかすり傷だけを身体に刻まれた私と、全くの無傷であるスリーエスだけがその場に残っていた。
「何や嬢ちゃん。ちっと喰らい過ぎちゃう?」
「私は元々中衛寄りのビルドなんだよ。それなのにこの距離感で戦ったらこうなるに決まってるじゃん」
笑いつつ、その場へと座り込む。
近くには敵性モブが出現し始めているものの、軽く紫煙の武具を向かわせればこちらには来ないのだから……まぁ、安全とは言えるはずだ。