「よし、じゃあ行こうか。降りる所までは紫煙で滑り台作るから、後は各々で」
言って、行く。
まずは私が先に駆け、外周部から空中へと躍り出る。
周囲に纏っている大量の濃い紫煙と共に落ちていくと、後ろから3人の声が聞こえてきた。
私がすぐに滑り台を空中に作り出さなかったからだろう。慌てたような声や、心から笑う声。
そして、信じているものの……高さからなる恐怖に塗れた声が落下していくのを聞き、私は笑う。
「お姉様ぁ!?」
「あは、そんな焦らないでって。――ほらね」
指を指揮棒のように振るい、私の後に続くように紫煙で出来た滑り台が空中に作り出されていく。
3人は何とかそれの元へと辿り着き、滑り始めた様だが……落下と空中を滑るのとではあまり恐怖の度合いに対差はないだろう。
……それにしても、やっぱり変わるもんだねぇ。
以前私達が訪れたのは寄生植物に侵された森林地帯であり、今現在眼下に広がっている光景とはまた別の環境だった。
「あれは……人の住んでた名残かな」
見えるは、石造りの何か。
エデンが相応に巨大という事もあり、それなりの高さから飛び降りている為に地上に何があるかはハッキリ分からない。
しかしながら、それが大量に地表にあるのだけは見て取れた。
それに加え、
「ほら、来てるよ皆!」
「おまっ、俺にはこの状態で迎撃なんて出来ねぇぞ!?」
こちらへと……エデンのある方向へと向かって、地表から飛んでくるモノがある。
黒い液体だ。
娯楽区に出た動物型になっているものではなく、まるで豹やライオンに変わる過程の液体状態のそれらは、明確な意思があるかのように私達へと襲い掛かろうと迫って来ていた。
だが、それ自体に問題はない。
紫煙を纏っている私は勿論の事、私達のパーティの中には1人、空中でも自由自在に動き回らせる事が出来る武装を持つ者が居るのだから。
「――『剣』、『剣』、『剣』」
凛として、3度。
短く続いた言葉の後、私達へと迫っていた大量の黒い液体は、見える範囲にある全てが細切れとなって地面へと落下していく。
……音桜ちゃんはアレどういう設定で使ってるんだろうねぇ。
落下していく私達の周囲には、いつの間にか3枚の黒い御札が追従するように飛行しており。
軽く紫煙が揺れた事から、空気か何かを固めたカマイタチのような何かを射出する事で迎撃したのだろうと考えられる。
似たような事は出来るものの、こうして音桜がやってくれるのはありがたい。
自由度で言えば、私よりも彼女の方がずっと高いのだから。
「そろそろ到着するよ。紫煙回収するから、言った通りそれぞれでよろしくね」
そんなこんなで、既に地表は目と鼻の先まで来ている。
私はここまで展開していた紫煙の滑り台を霧散させ、エデンから大切にここまで身に纏ってきた紫煙を身体に染み込ませる。
……さぁてと、ぶっつけ本番だけどどうなるかな!
警告のログが流れると共に、私の身体は変化していく。
但し、全体ではなく一部……それも腰の部分だけだ。
普通に使用した時は小さな蝙蝠の羽根しか生えてこなかったそれは、今では巨大な……何処か悪魔を思わせる巨大な羽根へと変貌し。
私の意志で自在に動かす事が可能となっていた。
「うぉおおお!時代は浮力ッ!!」
人類が、羽根を使って空を飛ぶ。
そんな未知であり、実際はどのような感覚でどのように飛ぶ事が出来るのか、と好奇心に犯された頭で羽根を必死に動かそうと意識する。
大きく羽ばたこうとすれば、その分だけ頭の奥に熱が溜まっていくような感覚があったものの……それも一定の所で収まり、慣れていく。
もしかしなくても【多重思考】の効果が出ているのだろう。
それに加え、周囲の紫煙を操作する事で羽根の大きさを更に巨大なモノへと一時的に変え……無理矢理に浮く力を作り出し。
地面に直撃する一瞬手前で、私はふわりと浮く事が出来た。
「よっしゃ……っぁあ!?」
だが、それだけだ。
気が抜けてしまった所為で、羽根の操作を誤りそのまま地面へと熱い接吻を交わす事になってしまう。
「なにやってるんや嬢ちゃん……」
「大丈夫ですか?!」
「ばっかじゃねぇのか?」
他の3人がそれぞれふわりと、何かしらのスキルなどを使って降りてきて私へと近付いてきたものの。
何故だか私の心の中ではどこか勝利したかのような気持ちが湧き上がって来ていた。
……っとと、いけない。好奇心だけで思いつきの行動するのはあんまり良くないんだよ。まじで。
しかし、それに浸るのも束の間。
すぐさま周囲の地形を把握するべく視線を投げると、
「ここは……市街地、で合ってるよね?」
「やっぱお前見てなかったのか。合ってるぞ。……エデンとは時代ってよりは技術的に何歩か前の市街地だろうけどな」
そこには、石を組み合わせる事で造られた市街地が存在していた。
エデンにある建物のように巨大なものは少なく、1階建ての住居が主になっており、その中でも一際目立つ建物が1つだけ存在しているのが見えた。
「あれ、だよねぇ」
「あれじゃなかったらワシの目は節穴やろなぁ」
今も、黒い液体が煙のように立ち昇っている建物。
それは図書館のようにみえる建物だった。