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Episode4 - E3


エデンの空を駆けるなんて、普段は出来ない行動だ。

やろうと思えば出来るのだが、まぁ幾分か目立ってしまう為に控えているのが真実で。

普通に歩いているだけでも、赤ずきん風の姿をした私は目立ってしまうのだから、必要以上に目立つ意味もないだろう。


「結構いるねぇ」


白と黒の敵性モブ達は、外周部から離れた区画内にも少数ながら出現している。

地面から湧き出る様に出現していたり、そもそもが高高度から降ってきたりと、中々に無法な登場の仕方をしているのが見えた。

しかしながら、強さはそこまででもないらしく、明らかに初心者らしき装備をしたプレイヤーでも問題なく倒せていた。……まぁ、すぐに黒い液体から形成し直している為、倒せているかと言われれば疑問が残る所だが。


「……うーん、やっぱり観えないな」


空中から紫煙を操り、対処が遅れているプレイヤーの所へと援護しながら駆けていると1つの事実が観えてくる。

あの白と黒の獣達にはHPバーが表示されていないのだ。

HPバーが見えるのは、私の持つ【観察】の効果によるもの。

相手に強力な認識妨害能力や、スキルの効果阻害能力があるのならば話は別だが、そのような報告は伽藍ドゥ達他の班からは挙がってきていない。


「面倒かもしれないなぁ……」


脳裏に浮かぶのは、かつてイベントで相対した襤褸の侍の姿。

真と偽の姿を持つ彼は、別の空間にHPバーを持った本体が居た為に、偽を倒す事は実質不可能だった。

ならば、今回は?


「似た様な敵性モブ、もしくはまだ準備段階かなっと」


予想は遠からず当たっているだろうという確信はある。

明らかに時間を稼ぐ事に特化しているのが白と黒の獣達だ。

これが本気で潰しに来ているならば、初めっから豹などの大型を出してきていれば良い話。

初心者にも楽しめる様に、なんてゲーム運営側の考えを無視するならば……まぁそんな感じにはなるだろう。


……あ、居た居た。

そんな事を考えながら、空を駆けていると。

お目当ての人物を発見することができた。

近くには白と黒で出来た巨大な獅子が居り、今にも彼を噛み砕こうと大きな口を開いている。


「お邪魔するよ」

『!?』

「なっ……!?」


だが、それが彼の身に届く事は無かった。

空から自由落下によって落ちる私によって、その大きな頭に紫煙の杭が叩き込まれたからだ。

次いで、紫煙駆動によって紫電を発生させその身を灼き、復活させない様にしてから地面へと着地する。


「おま、持ち場はどうしたんだ?!」

「いやね、伽藍ドゥくん。ちょっと面と向かって話し合おうかなって思ってさ。それにスリーエスくんも居るから、私手持ち無沙汰でね」

「通話でも……いや、通話じゃダメかもしれない案件か?」

「そういう事」


私の知らない復活方法があっても困る為、纏う紫煙全てに紫電を発生させ、周囲の敵性モブ達を襲わせる。

何事だと、周囲から伽藍ドゥが統率していたプレイヤー達が集まって来るものの、彼が制止した事で迎撃へと戻っていった。

……持ってるのは……薙刀か。中々渋いねぇ。

プレイヤーメイドであろう武器に目が惹かれつつも、私側で気が付いた事を報告していくと、


「やはりか……」

「あ、気が付いてるよね。……目の効果?」

「まぁな。そっちは【観察】か」

「そうだねぇ。こっちの班にはそういうの持ってる人居ない感じ?」


紫煙によって模った武具によって、話している私と伽藍ドゥに近づいてくる敵性モブ達を掃討していく。

紫煙駆動によって紫電も発生している為に、そこから巨大な何かに変わる事が無い安心安全な倒し方、という奴だ。

……【多重思考】のおかげか、話しながらでもちゃんと操れるようになってるなぁ。

他の事を考える余白が生じる、というのは中々に良い事だ。

その余白には今まで描き込めなかった警戒を始めとした絵図を挿入する事が出来るのだから。


「見て分かる通り、今回は斥候系のは娯楽区には居なくてな。俺は目のおかげでサポーターの真似事なんかをやってはいるが」

「成程ねぇ。ここら辺は普段ソロかどうかの差か。……ちなみに他の班には?」

「伝えてない。というか、確証がなかったからな。通話で言ってくれたら確認は取れたのだろうが……どうせ他でも同じかどうかを確かめる為にこっちに来たんだろう?」

「それもあるよ」


実際は他はどのような敵性モブが出現しているのか、と気になったから好奇心で動いただけなのだが……黙っておこう。

真実というのは、時に口に出さない方が華である事もあるのだから。


「で、どうする?多分待ってれば出てくるとは思うけど……ジリ貧だよね」

「そうさな……条件達成系の可能性もある」

「あー……一定数討伐で本体出現!とかいうのね」


この場合、私達の選択肢は大きく分けて2つしかない。

待つか、行くか。

メタな視点で言うならば、このままだらだらと迎撃し続けても問題はないだろう。

敵性モブ達の親玉、大本、本体……何でもいいが、今回のボスとも言える存在が最終的に出てくる可能性は高いのだから。


しかしながら、早く終わらせるというのもプレイヤーには選ぶ事が出来る。

それが『行く』という選択肢だ。

外周部から見ていた限り、今回の敵性モブ達は基本的には外界から……丁度エデンが移動している真下辺りから出現しているのが分かっている。

ならば、外界で活動出来るプレイヤー達が下に降りる事で迎撃ではなく殲滅を仕掛ける事が可能なのだ。

だが、これに関しては上手くいくかは……大分運だろう。

何せ、これらの考えは大本が居るという仮定の元に成り立っているものなのだから。


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