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Episode3 - E2


次第に大きく、そして立体的になっていくそれは1つの形へと変わっていく。

何処からか白の色が混ざり始め、周りの兎達の様な2色の獣へと変貌していくそれは、豹の様に見えた。


「おーい、伽藍ドゥくん。こっち兎やカエルが豹になったよ」

『こっちは虎ね。他の所は?』

『うちは象だな』

『成程、俺の所はライオンだな……正しく鳥獣戯画に出てくる動物達という事だろう。対処は任せる』

「任せる、だってさ」

「勝手な事言うなぁ、あいつは」


通話を聞いていた私とスリーエスは苦笑する。

というのも、だ。

豹は豹でも、私達プレイヤーよりも2回りは大きいであろうそれを任せられれば笑うしか無いだろう。

きっと他の所で出現した動物達もそのような巨体であると予想できる。

だが、


「ま、いけるよね」

「いけちまうわな。先、貰うで」


そこまでの脅威には感じていない。

豹は真っ正面へと立っている私達へと駆け出し、その巨大な爪を使って地面ごと抉り取ろうとしてきているものの……そんな攻撃に当たる程、私達は遅くない。

互いに左右に避け、私は一歩後ろへ跳び。

スリーエスは一歩前へと踏み込み、黒い剣を手の中へと出現させ、流れのままに軽く振るう。

懐へと入り込んだ剣は、そのままの勢いでこちらへと振り下ろされていた前脚を1本斬り飛ばしていた。


『――!』

「おっと、これは悪手か」

「先に分かっただけでも僥倖ってね!」


だが、その程度では特段行動不能にするには足りない様で。

身体の大きさが少し小さくなりながらも、豹は前脚を再生させ、近くに居るスリーエスを狙い始める。

それと共に、斬り飛ばされた前脚は一度黒い液体へと形を変え、そのまま兎などの先程から襲撃してきている敵性モブ達へと姿を変えていく。


……再生能力、ってよりは実体が液体だからこその形成変化とかそっちかな?

だが、それならば打つ手はいくらでも存在する。


「借りるよ、皆」


再度後ろへと一歩分跳び、足が地面へと着いた瞬間。

足裏から紫煙の足場を空へと伸びる様に展開する。

白い立方体が地面から伸びていくのを尻目に、私の視界はどんどんと高くなり……上から豹を見下ろす形になった所で、


「大盤振る舞いって、ねっ!」


手斧を思いっきり投げつけた。

それも周囲の紫煙を纏わせて、普段の倍以上の大きさにした上で、だ。

まるで紫煙駆動をした時に出現する紫煙の斧のように、しかしながら勢いはそれの比にならない程の速さで、上空から投げられた手斧は、瞬きをする間に豹へと命中し、その身を弾けさせる。


「頼むよ、メウラくん!」

「人使いが荒い!」


ただ弾けさせただけでは、更なる敵性モブを産むだけの攻撃。

しかしながら、私が弾けさせた黒の液体へと群がるは……身体の一部から熱気や冷気、電流を走らせる人形達だ。

彼らは一様に、紫煙を間接部から散らしながらも液体へと近付き、


「ド派手に俺も花火をあげてやるよ!」


メウラの声と共に、大きく音を立てながら爆発した。

だが、単なる爆発ではない。

火炎が、氷が、そして雷がそれぞれ激しくその場に留まり、爆発地点を蹂躙しているのだ。

……うわ、流石に見た事なかったなアレは。

それなりにメウラとも長い付き合いにはなってきたものの、私ですら見た事が無いメウラの手札。

恐らくは、彼の紫煙外装が強化された後辺りから使えるようになったのだろうが……それにしても、中々に悪辣な技ではあるだろう。

何せ、これまでは壊れたらそこで終わりだった彼の人形は、その全てがあのように活用できる可能性が出てきたのだから。

所謂、見せ札。隠さずに大勢に見せておく事で効果を発揮する類の面倒な札だ。


「音桜ちゃん!」

「確認してます!……爆発地点の液体消滅!火炎と雷地点のみです!」

「オーケィ!……スリーエスくん、イケる?」

「おいおい、流石に前足一本斬っただけのワシがいけないと思っとんのか?」


黒い液体は消えてはいる。

しかしながら、この間にも継続的に敵性モブが倒され続けているからだろうか。黒い津波のようにこちらへと迫ってきているのが観えているのだ。


「あは、思ってないよ。思ってないけど、活躍の場がもっと欲しいかなって」

「……嬢ちゃん、もしかして……」

「じゃ、私伽藍ドゥくんの所に行ってくるから、ちょっとアレの相手は頼むよ!」

「おいちょっと待てェ!コラァ!」


背後から聞こえてくる笑い混じりの怒号を無視して、空中へと駆けあがりその場から離脱する。

仕方がないだろう、見えてしまったのだ。

黒い津波が合流し、先程よりも巨大な豹のようなバケモノが作り上げられていく光景を。

音桜の報告を考えるに、私の紫煙駆動の紫電は確かに有効だろう。

しかしながら、流石にあの場で延々戦い続けるのも精神的には辛いものだ。

……無限湧き、っぽいんだよなぁコレ。

防衛として考えるのならばこれで良いのかもしれないが、根本の解決を図るのであればこのままではジリ貧になってしまう。

その対策や、他の区画ではどうなっているのかの情報を確かめに行くのだ。


「ま、通話は繋がってるんだけどさ」


百聞は一見に如かず、という言い訳と。

好奇心、という持病を胸に、私は空を駆ける。


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