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Episode2 - E1


『テステス。オーケィ……やぁ皆!運営の遠野でーす!』

「お、始まったね」


外から聞こえてきた運営の声に、私達は会計をして店を後にする。

アナウンスが終わればイベントの本格的開始。

ゆっくりしている時間がどれほどあるかは分からないが……3日間は小休止以上の休憩は取れないだろう。


『今回はプレイヤー皆が協力してエデンを防衛するイベント!事前告知はちゃんと読んだかな?』


空中に浮いている遠野の周りに紫煙で出来たウィンドウが複数枚出現し、今回のイベントの内容説明が再度されていく。

その声をBGMに、私達は事前に決められた位置へと移動していた。


「よし、レラ班所定の位置に到着。……ってスリーエスくん何やってんの?」

「んぁ?……おぉ、嬢ちゃんか。ワシの性能知っとるやろ?何処にいても仕方ないからって、支援系揃ってる嬢ちゃんの所に居てくれって」

「まぁ、私は楽できそうだから良いけど……」


娯楽区の最外周。

少し下を覗き込めば、外界を見ることが出来る位置。

そこに辿り着くと、何やら1人で煙草を吸っているスリーエスがそこに居た。

彼の単体特化の能力は確かに便利だ。

1体の強力な敵性モブが出現した場合、彼に1度任せる事で戦場全体の立て直しを図る事が出来るのだから。


そして、私達のパーティはそんな彼を強化、援護する事が出来る後衛型のパーティ。

私は言わずもがな、音桜は紫煙外装によるバフを、メウラは人形達による多による制圧が行える為、ある意味で万能寄りのパーティとも言えるだろう。


「伽藍ドゥくん?聞いてないんだけど」

『あー……すまない。スリーエスが言った通りだ。それに、君の所は前衛火力が足りていなかっただろう?展開が終わればそうでもないかもしれないが、それまでの繋ぎと、何か強力な敵性モブが出てきた時用の肉壁として使ってやってくれ』

「次から事前にお願いねー!」


スリーエスをパーティに加え、私は手斧と煙草を取り出す。

まだ戦闘自体は始まっていないものの、昇華だけでも使っておいた方が良いと判断したからだ。


「お姉様、バフはどうします?」

「あー、じゃあ防御系特化でお願いできる?攻撃系はどんな敵が出てくるかで都度言うよ」

「畏まりました」

「メウラくんは今のうちに陣地形成、人形は……音桜ちゃん護衛に5、あとはスリーエスくんと同じラインで」

「了解、弓持ちは必要無いか?」

「飛んでる奴の数次第で勝手に出して良いよ」


今回は防衛迎撃戦。

その中でも、外周部という最前線にあたるであろう位置にいる私達は、あまり移動しない事を前提に事前準備を進めていく。

というのも、私やスリーエスは兎も角として、後の2人は自陣というモノが必要となる性能ビルドをしている為だ。


「――【清調】、【不浄祓】。紫煙外装、起動」

「――【工房構築】、【架空炉】展開。景気付けに生体系素材50ずつ消費」


音桜は、その場からバフなどの邪魔となる穢れや抵抗といったモノをスキルで無くし、紫煙駆動を行う事でバフの効果を高め。

メウラは自身の周囲を擬似的な自身の生産用の工房とし、その内部で自身の紫煙外装を取り出し使役する事で、そのステータスを引き上げる。


どちらも、決まった場所で留まる事を意義とし、より強力な結果を得る為のもの。

普段は私に合わせる為に、逐一移動出来るよう控えているものの、今回はそれをする必要が無い。

……いつもは合わせてもらってる分、私が頑張ってるけど。

彼らも普段の私と同じ様に、ソロでダンジョンの攻略を行う者達だ。

その実力は考える必要が無い程に高い。


「……嬢ちゃん、これワシら居るかぁ?」

「あは、ほぼほぼ要らないね。この2人、裏方大好きだからさ。普段は目立とうとしないんだけど――」


空で響いていた運営の声が消え、花火の弾ける音が聞こえ。

それと共に、外界の方から何やら獣が鳴き始めた。

イベントが開始したのだろう。


最初に見えたのは、白と黒の2色で出来た兎の様な敵性モブだ。

かなりの量のソレは、外界側から大きく跳んできたのか、私達を越えて市街地の方へと向かおうとするも、


「――仕事はしっかりしてくれるんだよ、こういう時」


人形が、炎が、雷が、氷が。

様々な攻撃が殺到し、その姿を黒い液体へと即座に変えていく。

……黒い液体?光になって消えてないな……?


『リーダー組、報告するぞ。現在出現しているのは兎型の敵性モブ。白と黒の2色のモブだ。名称は『戯画兎』。恐らくこっからカエルなんかも出てくるぞ、気を付けてくれ』

「戯画……鳥獣戯画?」


思いつくは、日本最古の漫画とも言われる動物達が描かれた墨絵。

兎やカエルに始まり、猿や架空の生物なども載っていたとされるものであり、昨今色々なネタとして使われがちなものだ。

今も、伽藍ドゥが言った通りカエルや、猿。

見える範囲では鷹や鶏なんかも出現し始めたのが見えている。


「スリーエスくん、良かったね。これ私達にも出番がありそうだぜ?」

「そうっぽいなぁ……楽はできんか」


だが、私達が動くのはこの後だ。

何せ、メウラ達を含めた周りのプレイヤー達がそれらを倒し、黒い液体へと変えていく中で……それらが1つに集まっていくのが観えてしまったのだから。


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