--紫煙駆動都市エデン・娯楽区
数日後。
諸々の準備を終えた私は、いつものように喫茶店で人を待っていた。
「遂に来ちゃったなぁ、イベント日」
【紫煙奇譚外伝 亜獣掃討】。
エデンを舞台に、外界から襲い掛かってくる敵性モブ達を迎撃するというイベントであり、期間は長めに一週間。
事前の告知では、実際に迎撃が必要なのは最初の3日間のみであり、それ以外の4日間はイベント限定のコンテンツ等が体験できるようになっている……らしい。
……まぁ、前回みたいにダンジョンとかだろうけど。
正直、迎撃自体は問題ないだろう。
この間の外界での戦闘……プロゲーマーやストリーマー達と討伐した『樹葬の宿主』との戦闘が良い例だ。
1人1人が固有の、それも強力な紫煙外装なんていう武装を持っている。
その能力が支援に特化していても、その支援が広範囲に届くならばそれだけで今回のイベントでは活躍が保証されるのだから。
「……ま、運営もそれが分かってないわけじゃないと思うし」
出現する敵性モブが持ってそうな能力で、有り得そうなのは再生能力とかだろうか。
どれだけプレイヤー側の火力が高くとも、再生できるのであれば関係ないとばかりに突っ込んでくる事も有り得るだろう。
まぁそれもそれで消し炭や氷漬けなど、再生しても意味がない状態にしてしまえばいいだけの話なのだが。
「あ、お姉様!」
「すまねぇ、待たせたな」
まだ見ぬイベントに想いを馳せていると。
大量に荷物を持ったメウラと、手ぶらの音桜が現れた。
待ち人来たれり、という奴だ。
「どうしたの?その荷物。まるで娘や彼女に大量に買い物付き合わされた感じになってるよ、メウラくん」
「娘や彼女じゃねぇが、この女に買い物付き合わされたんだよ。素材類から武器類、防具類、消耗品もだ。俺の所有物じゃねぇからインベントリに勝手に仕舞えねぇし」
「申し訳ありません。私の紫煙外装的に必要な物でしたし……仕舞う前に次に欲しいものが見つかっちゃって」
声だけは申し訳なさそうに、しかしながら表情は笑いながらメウラから荷物を受け取っていく音桜を見つつ、コーヒーを一口飲む。
「仲良さそうで何より何より。……で、私達はどこ担当?」
「私達3人は基本的にここ、娯楽区の担当ですね。以前共闘した伽藍ドゥさん達が推薦してくださったそうで」
「有難い事におまけとかじゃなく、全員をちゃんと推薦してくれたみてぇだ。俺あの時あんま活躍してなかったんだがなぁ……」
「あは、後ろで見てる限りは結構凄かったけどね、アレ」
今回、一部プレイヤー達はそれぞれ担当区画なんてものを決めて防衛する事にしている。
態々一部、と付けているのは……まぁ、こういうMMOというゲーム的に仕方のない事だ。
全てのプレイヤーと意思疎通が図れるわけでもなく、指示に従わないプレイヤーや、意図して和を乱そうとするプレイヤーも居るのだから。
だからこそ、出来る限りの人数で……主に私達が共闘した事のある『Sneer Wolf』や、それ以外のストリーマー集団などが筆頭となって防衛する区画を決定し、そこを重点的に守る事にしたのだ。
「お姉様、一応パーティリーダーはリーダー通話の方に参加してほしいとの事です」
「了解。……今更だけど、そういう連絡が来る音桜ちゃんがリーダーで良かったんじゃないの?」
「いえ!絶対にお姉様がリーダーで!」
「おぉう、凄い剣幕」
音桜に言われた通り、私はゲーム内の機能を使ってパーティリーダー達の居る通話へと参加する。
人数は10人程。少ないとは思ったが、娯楽区のみでのグループ通話なのだろう。
「あーあー、聞こえるかな?レラです、よろしくね」
『お、来たな嬢ちゃん。待っとったで』
「あれ、スリーエスくんじゃん。……君、娯楽区担当だっけ?」
『いや、ワシは本当は中央区なんだけどな?』
『俺が呼んだんだ。ソロ特化の奴が範囲殲滅系の集まってる中央区に居ても仕方がないだろうとな。久しぶりだ』
「伽藍ドゥくん」
……『Sneer Wolf』のストリーマー2人とか結構豪華じゃんね。
『樹葬の宿主』で共闘した2人とまた共に戦える。
これだけでもかなり気持ちが楽になるのだが……それだけではない。
この通話に参加しているメンバーは大体が伽藍ドゥによって推薦、集められたメンバーなのだ。
つまるところ、それは、
「これが伽藍ドゥくんの考えるドリームチームって事で大丈夫かな?」
『おいおい下手な事言わないでくれ。……俺が指示出来て、尚且つそれの裏まで理解してくれるメンツを集めただけだ』
実力と、ある程度の見栄えを気にする事が出来るメンバー達という事だろう。
きちんと通話メンバーの名前を見てみれば、私達のような一般ユーザーよりも配信サイトで見かけるような名前の方が多い。
ここで下手なミスをやらかしたら……と考えると少しだけ背筋が寒くなるのを感じる。
「お、お手柔らかにぃー……お願いしまぁーす……」