「あー、一応確認はしておかないとか」
音桜との通話終了後、私は【酒気帯びる回廊】で手に入れた各種素材の確認を始めた。
といっても、1層で手に入れた素材に関してはスルーだ。
人間範疇の肉や骨は私の装備に使う余地はあまりないし、それらを使うくらいだったら鉄製の素材や、【峡谷の追跡者】のHardモードでマノレコ辺りを狩って毛皮を手に入れた方が汎用性も高いだろう。
しかしながら、2層以降で手に入れた素材はその範疇に含まれない。
「ドランクイーターとか、酒浸りの親衛者とか……まぁ使えそうだよね。何かには」
階層ボス達、強者の素材は使えるものが多い。
インベントリを確認し、まずはドランクイーターの討伐報酬らしきものを取り出していく。
「骨、魚肉、鱗……は良いとして。何だこれ」
まるで魚でも捌いたかのような状態になっていくマイスペースの一角で、私は1つの真珠の様な乳白色の球体を取り出した。
例によって酒の匂いがキツいものの……薄い赤のオーラを纏っているそれは、私の周囲の紫煙へと干渉しようとしているのが目に観えた。
「うわ怨念系?これ」
慌てて紫煙をそれから遠ざけた後、その素材の詳細を開く。
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狂酒の球結晶
種別:素材
品質:C
説明:真珠の様な、乳白色の球体型の結晶
酒に狂う者の体内に収められていたからか、その性質は変化し、周囲を酒気で汚染するようになってしまった
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「……これも酒かぁ……」
怨念の様なものではなかったものの、面倒な代物だ。
流石に使えないかな、と仕舞おうとして……ふと思い付く。
……もしも、程度だけど。
インベントリから新たに、最近はそのまま使う事自体が少なくなったHP回復薬を取り出した。
普段のHP回復には具現煙や、薬草を使った煙草を使ってしまうためにインベントリ内に死蔵に近い状態で仕舞われていたものだ。
一瞬外界で使えるかもしれない、と考えたものの、そちらもそう遠く無いうちに煙草が再び使える様になりそうな為、必要性自体が下がっていた物。
コルクによって封がされている丸フラスコを開けると、中からは青臭い薬草の匂いが周囲へと漂い始めた。
「ま、どうなるかはお試しって事で」
その中へと、狂酒の球結晶を入れて再び封をする。
すると、だ。
【熟成を開始します】
「おお、ビンゴじゃん」
ウィンドウが回復薬の前へと現れ、フラスコの中で狂酒の球結晶が泡立ち始めた。
性質的に、酒気で周囲を汚染するなら普通の液体などに入れたら酒に出来るのでは?と思い付きでの行動ではあったのだが……本当に反応があるとは思わなかった。
少しだけ感動しつつ、私はそれをルプスへと渡し、経過観察をお願いする。
「問題はありませんが……ご主人様」
「ん?何?」
「失礼ですが……凄く、お酒臭いです」
「あー……うん、まぁ、うん……そうだね……」
普段、あまり酒を嗜まない私としては、その一言は中々に心にくるものであったことだけは言っておこう。
「さ、さて。気を取り直してもう1つの方……酒浸りの親衛者の奴」
ハウジングメニューから大型の換気扇をマイスペース内に追加した後。
私は酒浸りの親衛者の討伐報酬らしきものをインベントリ内から取り出していく。
「えぇっと、こっちは……基本的にはドランクファイターと同じ人間系の素材がメインかな?」
『酒浸りの』という枕詞が付いている為に別枠としてインベントリ内には入っているものの、基本は人間系から入手できる素材と同じ。
肉、骨、そして血は一旦置いておいて、それ以外のモノへと目を向ける事にした。
「えぇっと……酒浸りの外套、酒浸りの眼球、酒浸りの首飾り……この辺がユニーク素材かな」
ボロボロで、酒の匂いが強い外套。
白く濁っており、こちらも酒の匂いが強い人の目玉。
そして、唯一酒の匂いがあまりしない金属製の錆びている首飾りだ。
外套と首飾りの詳細を開いてみても、どちらも種別が素材表記になっている為、これをこのまま装備する事は出来ないのだろう。
説明文も、特には変な事が書かれているわけではない。
……ん、これ中々使えそう?
だが、酒浸りの眼球は少しだけ毛色が違った。
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酒浸りの眼球
種別:素材
品質:C
説明:酒に全身浸る程に依存した海賊の眼球
酒を見つけ、狙い続けるその目は、いつしかそれを操る力を手に入れた
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「これがお酒を操ってた元凶か」
酒を操るスキル……なんていう、マイナーもマイナーなスキルがあるのかどうか分からないものの。
これがあればラーニング可能性はあるだろう。
酒と私の紫煙外装の能力の相性の良さはダンジョンで見た通り。
だが限定的すぎる使い道は、それを封じられた時に戦力の下落具合が凄まじい為に少し考え物だ。
「……面白いし、探してみようか。丁度お酒が作れそうな素材も手に入れたわけだしね」