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Episode18 - D5


結論から、鍵を使う場所は見つかった。

というか、見つけるべくして見つけた、と言うべきか。


「次の階層に行くのに必要とはねぇ……」


今私の目の前には、周囲のマングローブのような木々の根が扉の様な形へと変容しているモノがある。

その中心部、そこには鍵穴が開いており。

扉へと触れるとログが流れた。


【3層へとアクセスするには鍵が必要です】

【消費アイテム:酒狂魚の鍵】


私は一度空中へと跳び上がり、紫煙の足場に胡座をかく形で諸々の確認を始める。

周囲の警戒は……必要ないだろう。

……周り全部、燃えちゃったしなぁ。


この扉を見つけるにあたって、見逃しがないようゆっくりと2層を探索していたのだ。

そうしていれば、必然的に敵性モブとの交戦は発生する。

そして、


「やっぱ1時間って結構長いよねぇ」


電気ブランの効果は、効果切れるまで全ての攻撃に適用される。

ドランクイーターとの戦闘では、紫煙駆動も合わせた結果、かなりの広範囲が燃焼した。


その為、かなり気を遣って戦闘を行っていたのだ。

投擲する手斧には紫煙の糸を繋ぐことで、木々へと当たることを避けたり。

出来る限り出会った敵性モブ達を何もない空中へと打ち上げる事で、他への引火を防いだり。

でも、


「流石に燃えた状態で逃げられちゃうと、咄嗟に反応出来ないよねぇ……」


こちらに向かってくるのではなく、木々へと隠れるようにして逃げられてしまうと、咄嗟の判断が間に合わない事が多々あった。

紫煙を操って止める、と言っても紫煙が動くのにも限界の速度というものもある。

今後の課題がもう1つ増えたな、と思いつつ。


「消耗したのは……大分少なめか。まぁ当たり前だけど。戦闘っていう戦闘あんまりしてないし」


他にも、STの回復目的で適当な煙草を口に咥えてふかしながら。

インベントリ内のアイテムの確認や、掲示板での情報収集を進めていく。

当然ながら、私が現在居る【酒気帯びる回廊】の直接的な情報は集めない。

そもそも情報規制によって集める事が出来ない、と言えばそこまでだが……やはりネタバレ無しの初見でのリアクションが大切だと思っているからだ。

……ま、配信者の子が言ってたから私もそう考えてるだけではあるんだけどぉー……。


そんな考えの私が今調べているのは、【世界屈折空間】の中層に存在しているダンジョンの階層数だ。

ネタバレ以前に、どこまでダンジョンが続くかという情報は探索をする側としては重要な情報であり。

あまりに長くなるようでは、何処かの階層をクリアした段階で一度離脱するのも考えねばならないのだから。


「えぇっと……あ、良かった。流石に情報規制対象じゃないっぽい。……成程、5階層か」


全5階層。

上層と比べると2層増えた形にはなり、一度に攻略するとなると以前よりもリソースの管理をしっかりしないと厳しくなってくる階層数ではあるだろう。

特に私のような、STを湯水のように使うプレイヤーは煙草の総数を常に気にしながら探索、攻略を行う必要がある。


「出てくるのにも寄るけど……一旦、STの消費を抑える方向でいくかな?」


現在、煙草の数には余裕はある。

ダンジョンの攻略等に出ていない時も、ルプス達が適当な薬草などを使って煙草を作っているからだ。

だからといって、使い過ぎればすぐにでもなくなってしまう量ではあるだろう。


「……次の階を見てみて、探索するか決めようかな」


丁度真ん中の階層である3層。

そこを消費少なく攻略できるのであれば、4層以下を次回に回す、という選択肢も取れる。

そう考え、私は一度紫煙の足場を解除して扉の前へと降り立ち、鍵穴へと鍵を挿し込んだ。

カチリという、見た目からは想像が出来ない金属的な音が聞こえ、独りでに扉は開いていく。

奥に見えたのは、下へと降りる事が出来る木製の階段だった。

酒が流れ込んでいく為、滑らないように気を付けて降りていかねばならない。

暫くそうやって降りていくと。不意に階段の先に青い光が見えてきた。

何かと思い、そちらへと視線を向けてみるとそこは、


「うわぁ……如何にもって感じじゃん」


周囲が木々の根によって覆われた、下には足首程度まで酒が満ちているドームのような空間が広がっている。

空中には青い光を放つ鬼灯のような植物が、照明の代わりとばかりに天から垂れさがっていた。

視界の隅に3層の表示がされると共に、私の周囲から何かが歩き近づいてくる水音が聞こえ始める。


『――』


それ以外にも、何かが聞こえてくる。

こちらへと語りかけてくるような、ぼそぼそとした喋り声だ。

脳に響くような感覚をするそれに耳を傾けてみると、


『――ァ?』


という疑問を投げかけてきているかのような、そんな音だけが聞こえた。

なんだ、と思いつつ。周囲を警戒しているとソレは現れた。

……海賊?突然だな。

ボロボロの海賊の衣服を纏い、マスケット銃を手に持ったそれはこちらへと視線を向ける。

その顔は真っ青に染まっており、瞳孔は開き斬っている。

どう見ても、生きているようには見えなかった。


『――オマエ、酒、持ってるなァ?』

「また酒狂いかよ」


ついそう言ってしまった瞬間、海賊が襲い掛かってくる。

よく分からないが戦闘開始だ。


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