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Episode17 - D4


「素材が欲しいって言ったけどさぁ……!」


2層を進んでいく事、暫し。

私は空中に紫煙の足場を展開し、マングローブに似た植物の森の中を逃げ回っていた。

ちら、と背後を見る。

そこには、


『――ァッ!』


巨大な、赤い魚の影が居た。

今まで見た事のある敵性モブの中でも特に大きく、森を破壊しながらこちらへと迫ってくる姿は一種のパニックホラーの様で。

しかしながら、私の目は別のモノも観えていた。

……ああいうのって小魚とかがやることじゃないの?!

無数の魚の影。

しっかりと観てみれば、それらがアロワナの群れである事が分かる。

だが、私の持つリアルの知識ではアロワナはあの様に群れることは無かったように思う。


「しかも、階層ボスとか何それー!」


そして、もう1つ。

私の視界上には、1つの長い緑のバーが出現していた。

その名も、【階層ボス ドランクイーター】。

ほぼ確実に、今も迫ってきている背後のアレの名称なのだろうが……だとしても、階層ボスなんてものが存在しているなんて情報は初耳だ。


片手間で掲示板を開き調べてみると、複数のスレッドがヒットしたものの……そのどれもが初見。

何なら、一度見た事のあるスレッドもあるにはあったが、見た事のないレスが付いている。

……これも情報規制の1つか……!


「逃げ回ってる意味も薄いんだよねぇこれ……!」


相手に対する情報を掲示板から得ようとは思わない。

しかしながら、背後のドランクイーターをどうにかしない事にはこの階層の探索を進められない。

ならば、倒すしかないだろう。


今も昇華を使わない全力の速度で逃げ回っているものの、追いつかれる様子はない。

ならば、相手の速度はそこまで速くはないはずだ。……本気を出していないかもしれない、という悪い予想は置いておいたとしても。


「はぁ……使いたくないんだけどなぁ……!」


インベントリの中から昇華煙用の煙草を取り出し、一息。

気合を入れてから口に咥え、火を点け大きく吸った。

瞬間、私の身体が魔狼の力によって昇華し、形を変えていく。


強烈な酒臭によって機能していなかった嗅覚が、再び機能し始め咽そうになりながら。

涙で滲んでいく視界を、身体ごと背後に向け、バックステップによって距離を稼ぎながらも巨大な魚影を中心に捉える。


「ここが使い時ってね!」


更に、インベントリ内から1つ。

琥珀色の液体が入った瓶を取り出し、一気に飲み干した。

どくん、と熱のある痺れが身体の内側を駆け抜けていくのを感じ。

その痺れが、琥珀色の電流となって私の手足を覆う形で発現する。

だが、それと共に私の視界は回り始める。

『酩酊』の効果が強まった所為だろう。


……電気ブランって絶対そういうのじゃないと思うけど、まぁ良いか!

光の粒子となって消えていく瓶を空に捨てながら、私は手斧を軽く握り、


「起動」


漏れ出た2対の紫煙の斧をドランクイーターに向かって射出した。

琥珀色の電流と、紫の電流を纏い飛んでいくそれらを、避けようとした巨大な魚群は避けきれず。

頭に見える部位へと直撃する。

衝撃が空気を揺らし、空中に居る私の身体を揺らしつつ。

更に2つの電流が、下に広がっている酒や、アロワナ達の身体へと引火する事で巨大な火となってその場を荒らす。


「ちょっとやりすぎかなぁコレ?!」


私の視界に表示されているHPバーは今も急速に減っていくのが見えている。

それと共に、ドランクイーターという塊から炎を纏いながら逃げ出していくアロワナ達が見えた為、一応紫煙の斧を操る事で仕留めていくと。

やがて、その全てが燃え尽きログが流れた。


【階層ボス ドランクイーターを討伐しました】

【討伐報酬がインベントリ内へと贈られます】

【特殊討伐報酬:酒狂魚の鍵を入手しました】


……おっと?鍵?

煙草を取り出し、森へと燃え広がっていく様子を横目に私はインベントリを開き確認すると。

大量のアロワナの素材と共に、何やら南京錠のアイコンが付いた鍵を手に入れていた。

実体化させて【観察】してみても……特に変わった所は観つける事が出来ない。

アロワナ達のような赤色をした鉄製の鍵。


「階層ボスって称号みたいなのが付いた敵を倒して、鍵が手に入る……何かあるんだろうけど、探索不足だなぁコレ」


今のところ、全く探索というモノは出来ていない。

最初に会ったアロワナを倒した後、適当に前へと進んでいたらアレと出会ったのだから仕方がないと言えるが……この鍵を使うような場所を見つけているかと言われれば、否としか答えられないだろう。

……ドランクイーターは倒せる。っていうか、相性が良いかな?

ぶっつけ本番ではあったものの、紫電や酒の効果によって引火する、というのが分かった時点でアレは既に敵として警戒する程の相手ではなくなった。

もし、私の不意を衝くような特殊能力があったとしても……最悪、大量の紫煙を使って巨大な檻を作ってやれば……動きを止めるくらいは出来るだろう。


「うん、本格的に探索開始しよう。流石に階層ボスってのが他に出てこないとは思うけどー……」


紫煙を足場に、空中で移動を開始する。

今も尚、炎によって森や酒が燃えているのだ。流石にあそこに降りて探索をする勇気はない。


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