アロワナは蕩けた目とは裏腹に、しっかりとした動きでこちらへと向かって泳ぐ。
大きな口を開きながら迫ってきている事から、遠距離攻撃はない……と信じたいものの。
「由緒正しき水鉄砲とかあるからなぁ……!」
一直線ではなく、蛇行をしながらの泳ぎの為、左右に跳んで避ける事は難しい。
ならば、と私はインベントリ内から適当な煙草を取り出しながら上へと跳ぶ。
既に酒の匂いについては諦めた。否、既に酒の匂いによって鼻が利いていない為に煙草を吸っても咽る事はない。
空中で素早く火の点いた煙草を咥え、一息。
それと共に、吐き出した紫煙によって足場を作り出す事で空中に留まって。
「さぁってと。……やる事やりましょうかねッ!」
アロワナの突進は、丁度私の紫煙の足場の真下を通り過ぎていき……そのままの勢いでUターン。
私の居る空中へと浮かび上がる事で再度突進を仕掛けてきているものの。
空中へと躍り出るだけで避ける事が出来る攻撃だ。
そこまで脅威度はないだろう。
……狙いは……アレか。
手斧を構え、投擲の為に重心を移動させながらアロワナを【観察】してみれば。
大きく開いた口。その内部に透明な液体がチェーンソーの刃のように回転しているのが観えた。
噛みつかれたら最後、その部位は捨てる選択をしないといけないだろう。
それに、この酒に満ちたダンジョンに出現する敵性モブだ。
『酩酊』を追加付与してくる……なんて効果もあってもおかしくはない。
「ま、食らう気は全く無いけどね」
言って、投げる。
アロワナとの距離はそこまで無く、それでいて両方共に近づいていくのだから接敵するのも早い。
流石に危ないとでも思ったのか、アロワナは少し避ける様にその身体を横に逃がしたものの。
「こっちのは喰らっときなよ、悪い事は言わないから」
『ロアッ!?』
紫煙を糸のようにして手斧へと結び付け、それを思いっきり引っ張る事でアロワナの後方から激突させる。
投擲に比べるとダメージは少ないものの、【魔煙操作】などによって自由に動かせる為に命中率は劇的に向上した私の攻撃。
元より、似たような事を紫煙駆動で行っていたのだ。
何故今まで普通の手斧でもやってこなかったのか、というだけの事。
「一発食らうとスタンみたいになって……再起動まで2秒くらい?十分すぎるねぇ」
アロワナは予想外の方向からダメージを喰らった所為か、それともこのゲームにおけるアロワナという敵性モブの特性なのか、空中で頭を振りながら静止していた。
開発側の想定としては、何でもいいから攻撃を1回当てた上で大ダメージを加えて倒し切れ、という感じなのだろうか。
……攻撃系じゃない紫煙外装貰った人向けの調整だなぁ、これ。
悪いとは思わない。私のようにダメージに直結しない通常駆動の能力や、伽藍ドゥなどのような支援向けの紫煙外装ならば、この配慮はありがたいものだ。
だから、それを最大限に活かすために……そして、それがどう作用するのかを確かめる為に。
「まずはどれくらいのダメージでそうなるのか、確かめておこうか」
『……ァロ?』
この間も吸っていた煙草の紫煙を操り、アロワナを囲うように棘のついた檻を作り出す。
身動きすればその棘に当たり、ダメージを喰らうものの……無理矢理に動けば壊れる程度のものだ。
だが、性質的にアロワナはこれで動けなくなってしまう。
『アッ!……ロッ!……ロロッ!?』
「うんうん……再起動から次のスタンまでは大体2秒。余裕もって大体4秒くらいで考えれば拘束できるわけだね、君」
アロワナには申し訳ないものの、私の好奇心は満たす事が出来た。
結論から、アロワナは今後どう出てきたとしても一方的に嬲る事が出来る程度の、このダンジョンの中では文字通り雑魚であると考えていいだろう。
なんせ、手斧さえも必要ない……紫煙だけあればその場に縛り付ける事が出来てしまうのだから。
……ミソは、【魔煙操作】さえ使えれば誰でも出来るって所かな。
後でメウラや音桜には教えておいていいだろう。
イメージ次第では何でも形成できるのだから、彼らなりの足止め方法なんかも思いつくだろうし。
そんな事を考えながら、流石に可哀想になってきた私は手斧を使ってアロワナにダメージを与えていき。
その身体をバラバラにしたところでログが流れた。
【ドランクアロワナを討伐しました】
【ドロップ:酒浸の鱗×1、酒漬の魚肉×1】
「……うーん酒。酒って感じだねぇ……これ煙草の材料に使えるのかな?燃やした瞬間全部燃えない?」
燃焼材なんてものではないだろう。
だが、これはこれで何かに使えるかもしれないため、適当に量は集めておきたい。
1層でもある程度の数の素材は集まっているものの……ボスを討伐出来たらこのダンジョンに再び訪れる確率はそれなりに低いと思われるからだ。
流石に何度も酒によって鼻を壊されていたらたまったものではないし、酒も少し飲むのは好きだが……文字通り浴びる程の量は要らないのだから。