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Episode14 - D1


--【世界屈折空間中層】


……さて、来たわけだけど。

門を通った先、以前は白い私との戦闘場へと繋がっていた其処は、全く違う風景へと切り替わっていた。

煉瓦造りの壁、何かによって光の灯っている街灯。

上層のような空はなく、しかしながら街灯の光が強いからか、そこまで薄暗いとは感じない地下空間が広がっていた。


「成程、成程ねぇ……今度は3つか」


そして、目に見える位置に3つの異なる色をした門が存在している。

オレンジ、紫、そして白の色。

順当に考えれば、上層と同じようにこれら3つの門の先に存在しているであろうダンジョンを攻略すれば、更に下……下層とも言える場所が解放される筈だ。


「どれから挑もうかなぁ。今回はボス戦までいけなくても良いけど……」


オレンジの門から行けるダンジョンの名称は【死迎えぬ天の箱】。

紫の門のダンジョンは【誓約刻む娯楽街】。

そして白の門のダンジョンはと言えば、【酒気帯びる回廊】となっている。

どれもこれも、名前から面倒臭そうな匂いがしているものの。

この段階で解放されたダンジョンなのだ。

1度で攻略出来ずとも、装備を整えれば2度、3度目の挑戦で攻略は出来るはずだ。


「……んー……よし、白から行こう」


理由は特にない。

ただ、3つの中で1番分かりやすい名称をしていたというだけの事。


「さぁて、邪が出るか何が出るか……お酒は出そうだけどね」


そう軽口を口から溢しつつ、私はダンジョンへと侵入した。



--【酒気帯びる回廊】1層


【ダンジョンへと侵入しました:プレイヤー数1】

【PvEモードが起動中です】

【どうやらここはセーフティエリアのようだ……】

【『酩酊』が付与されました】


「おっとぉ?……うわ何これ酒くさっ!」


いつも通り、セーフティエリアに飛ばされる……までは良いのだが。

私は強い酒の匂いに思わず首から下げていたガスマスクを装着した。

煉瓦造りの部屋の中にいるのにも関わらず、本当に酷く強い匂いが充満している。


「えぇっと?『酩酊』……あぁあった。ステータス低下と平衡感覚の低下か」


そして、侵入と共に付与されたデバフ『酩酊』。

これは単純に、全ステータスの低下及び、キチンと歩けなくなる程度のモノ。

……これ、しっかり意識すれば歩けるけど……中々にキッツイな……!


試しにセーフティエリア内を軽く歩き回ってみると、『酩酊』の厄介さがよく分かる。

所謂、千鳥足に強制的になってしまうのだ。

これでは戦闘時の踏み込みはおろか、通常の探索でもしっかりと前に進む事ができない為、必要以上に時間を食ってしまう事だろう。


「選択肢ミスったかぁ?……いやまぁ、行くんだけど」


何はともあれ、この状態で進んでみるのもアリな選択だ。

私の持病もそうだが、酒臭いとは言え我慢すれば煙草が吸える環境で退く意味もない。

セーフティエリアから外へと続く扉をゆっくりと開く。

すると、そこに広がっていたのは、


「これまたオーソドックスな。【地下室】と同じ形状かぁ」


酒臭く、所々水溜りが出来ているものの上層の【地下室】と同じ、これぞダンジョンといった風な薄暗い煉瓦造りの通路が目の前に現れた。

だがこれまでと違う点もしっかりと存在している。


「コンソール……なんだろうこれ」


エデンの所々にあるような、プレイヤーが操作できるコンソールがセーフティエリアを出てすぐに置かれていたのだ。

疑問と好奇心を半々に、周囲を警戒しながらもそれにアクセスしてみると、


【酒屋ダンジョン支店へとようこそ!】

【通貨や素材と引き換えに酒を購入する事が出来ます!】


「酒屋ぁ……?」


無人の酒屋だ。

ダンジョンの中だというのに、購入できる種類は多く。

カクテルなんかも購入する事が可能だった。

試しに1つ、安いウイスキーを選んで購入してみると、


「……成程、そういうギミックのダンジョンなのね」


――――――――――

ウイスキー

種別:特殊消費品

品質:-

効果:消費後、火炎耐性火炎属性付与、『酩酊』(小)を1h付与

   ※【酒気帯びる回廊】のみで効果を発揮

説明:安い、美味い、香りが薄い!

――――――――――


琥珀色の液体が入った小さな瓶を手で弄びながら。

私はこのダンジョンをどう進むべきかを考える。

といっても、そこまで複雑に考えるわけでは無い。

……私にとって、使えると便利なのはダメージ増加系、もしくは……遠距離での攻撃に特化できるもの。

しかしながら、酒というのがまた問題だ。

今も尚、平衡感覚を狂わせてきている『酩酊』というデバフ。

これの所為で、私の主力とも言える手斧の投擲は命中率が酷い事になっている事だろう。

酔っている時に投擲なんて事を行っても、どこに飛んでいくかも分からないのだから。


「……よし、決めた」


私はコンソールを再び操作し、あるカクテルを数個購入するとダンジョンの奥へと足を進めた。


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