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Episode11 - OWB3


思えば、前線に引っ張られてきて見せ場を作っていないのは私だけだ。

伽藍ドゥやスリーエスは勿論の事、他のプレイヤー達も所々で敵性モブを数体一気に倒したり、ボスからのヘイトを一身に受けたりと、自身の持つ紫煙外装の能力を最大限に発揮して活躍している。

元々私と同じパーティの音桜やメウラもそうだ。

音桜は、支援班や補給班に被害が行かないように障壁を張ったり、後方から攻撃をしたりと、1人の仕事量を遥かに超える働きをしているし、メウラなんていつの間にか数十体以上の人形を出現させ、軍のようにして戦っている。


だが、私がやった事と言えば……1発、ボスへと向かって投擲したくらいで、それもすぐに割れた情報を手に入れただけの事。

他よりも活躍していないと言われれば頷くしかないだろう。


「3本目入るぞ!」


誰かの声と共に、『樹葬の宿主』の2本目のHPゲージが割れ、最後のゲージが露わとなる。

その瞬間、今まで叫んでしかいなかった白い少女のような部位が苦しんでいるかのように悶え、


「なっ!?」


落ちていく。

まるで、果実が熟れ過ぎてその身を落とすかのように。

地面へと落ち、水っぽい音と共に落下の衝撃で潰れ……中から1つの苗木が私達の前へと姿を現した。


「チャンスだ!やr――ッ!?」


1人の、刀のような紫煙外装を持ったプレイヤーがその苗木へと向かって駆けだし……次の瞬間、地中から生えてきた枝によって、串刺しになってその身体から力が抜けていく。

だが、消えていかない。

明らかにHPが0となっているというのに、光の粒子には変わらずに……そのまま栄養を吸われているかのように萎み、ミイラのようになって……最終的に、粉々になって消えていってしまった。


『――!』


それが何かのキーになったのだろう。苗木が成長し始める。

普通の木のようにではなく、何処か人のような姿形へと変わっていくのだ。

元の白い少女のような姿ではなく、大人びた女性のような形をした木。

明確に意志のある、瞳のような光を宿した2つのうろがプレイヤー達に向けられた瞬間……それは、蔦を鞭のように振るい始めた。


「あは、良いじゃんね!」


樹人トレントというやつだろうか。

人と木の特徴を併せ持つ、ファンタジー御用達の異人種だった気もするが……まぁそれは良い。

今、私が注目しているのは、ボスが人のような形を態々取った上で戦っている事自体だ。


……当てにくくはなったけど、でも十分!

片手に手斧を、もう片方に高濃度の紫煙の手斧を持ち、軽く後ろへと跳躍する。

距離を取るのは余裕を持つため。

鞭なんてものを使っている相手に、タンクや近接系のプレイヤーでもないのに私が前に出る必要はないだろう。

今もその手のプレイヤー達が『樹葬の宿主』を囲むようにして抑えているのだから。


「紫煙駆動、起動。『煙を上げろワイルドハント』」


だからこそ、徐々に削れていくボスのHPバーを観ながら私は紫煙を漏れ出させる。

両手の手斧に、両脇の巨大な紫電の斧。

そしてそれら全てに、群青の紫煙が纏わりついていくのを確認した後……更に、周囲の紫煙を操っていく。

普通の、何の効果もない紫煙は適当な武器の形に変え。

昇華の効果を含んだ紫煙だけを私の身体に吸引させていけば……獣人のようになっていた身体が、更に変化を重ねていく。


左手が霧を発する布の手に。

右手は何処か影を感じる道化の手に。

胴体は半透明のガラス状になり、心臓の部分が淡い光を放っている。

そしてそれ以外の部分は、いつものように人狼へ。


過剰供給のログが一斉に流れると共に、私は両手に持った手斧を『樹葬の宿主』へと全力で放った。

空気が破裂する音が連続すると共に、巨大な群青の狼と化した斧達が4つ、ボスの身体へと向かって飛んでいく。

気が付いたプレイヤー達が慌てて離れていく中、ギリギリまでその場に抑えられていた『樹葬の宿主』はもろにそれを喰らい、


『――アァアアッ!ウァ!!』


身体を群青の狼に噛み砕かれながら、私へと向かって一直線に駆け始める。

速度は速く、ほぼ一瞬で私へと到達する事だろう。

しかしながら、


「ごめんねぇ。――『変われ』」


最期の一撃は叶わない。

私の一声によって、周囲の紫煙が怨念へと変わり……群青の狼によって噛み砕かれていたボスの身体へと流れ込む。

瞬間、その身体から血液のように樹液が漏れ、毒のエフェクトが発生し、手に持っていた蔦の鞭は急速に枯れ、身体の崩壊は加速していき……最後、私の身体には『樹葬の宿主』が駆けた事によって生じた風だけが叩きつけられた。


【『樹葬の宿主』を討伐しました】

【MVP選定……選定完了】

【MVPプレイヤー:スリーエス】

【討伐報酬がインベントリへと贈られます】


短いログが流れると共に、周囲の景色が変わっていく。

森が急速に枯れていっているのだ。

それと共に、私達の居る森の中心部に向けて篝火が元と思われる炎の波紋が広がっていく。


【外界のボスを討伐しました】

【一部地域の制限を解除します】

【一部地域内での紫煙の加護を付与開始……簡易付与完了】

【ガスマスクが休眠状態へと移行します】


どうやら、ボスを倒した事で色々と環境が変わったらしく。

ガスマスクを外し、歓声をあげているプレイヤー達を見ながら一本、適当な煙草を取り出し口に咥える。

……無事に見せ場作れてよかったぁ……。

安堵の吐息と共に、紫煙が私の口から漏れ、空へと溶けて消えていった。


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