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Episode10 - OWB2


「出来る限り数は減らそうか、これ」

「せやな。最悪は想定してなんぼやろ。――伽藍ドゥ!」

「分かっている!」


伽藍ドゥが応えると同時、私達の身体を紫煙で出来た波が飲み込んでいく。

一瞬、驚きで身体が竦んだものの……他のプレイヤーにはほぼ関係なかったのか、1本目のHPバーが削り切られた。


『――ォゥォウウウウ!』


瞬間、『樹葬の宿主』が叫び声をあげる。

今度はデバフを掛けられなかったものの……変化は目に観えて明らかだった。

……敵性モブ達の蔦や花が……!


今まで相手にしていた、敵性モブ達の身体に寄生している蔦や花といった植物部分が成長し始めたのだ。

身体を更に侵食するように、ある者はその身体の半分を。

ある者は、その手に持っていた自身の得物が植物に飲み込まれ、今までとは全く違う武器へと変化していく。


「配下の強化……!」


あるあると言えばあるあるだろう。

しかしながら、その数が多くなればなるほどに敵としての厄介度合いは変わってくる。

パッと見ただけでも、この戦場に居る敵性モブの数は私達プレイヤー達の倍は居るだろう。

舌打ちしそうになるのをこらえながら、私は手斧の羽根を千切ろうとして……近くに来ていたスリーエスに止められる。


「待つんや、嬢ちゃん。今は休憩タイムや」

「休憩……って戦闘中じゃ……あれ?」


ここである違和感を感じ、周囲を見渡してみると……その答えが嫌でも目に入った。

ボスを含め、敵性モブ達が目の前に居るはずの私達を見失っているのだ。


「伽藍ドゥ、どれくらい保つ?」

「最短で……5分は保たせよう……!」

「上々!――参戦プレイヤー達ィ!一旦休憩や!3分で体制やら立て直すで!」


見れば、伽藍ドゥが脂汗を流しながら目を開き続けている。

彼の身体からは今も紫煙が湧き出ており……紫煙外装である両目からは、青い光が漏れ出ていた。

……アレが伽藍ドゥくんの紫煙駆動、ってこと?敵味方識別型のステルス付与とか最高じゃんか!

思えば、彼の駆動の内容は教えてもらっていない。

本人が戦闘場面ではあまり役に立たないと言っていた事もあり、追及していなかったのだが……それでも、この状況は役に立たないなんてものじゃないだろう。


スリーエスの声に、慣れているプレイヤーはすぐに回復や状況の把握を。

慣れていない、私達のようなプレイヤーも周囲の状況からやるべき事を導いていた。

私はと言えば……伽藍ドゥから垂れ流されている紫煙を少しずつ集め、高濃度の紫煙の手斧を造り始めていた。


「良いか、本体より先に配下を倒せ!流れ的に確実に次も強化入るぞ!」

「支援班!バフは防御系厚めにしてくれ!タンク班でボスのヘイトは取っておく!」

「敵性モブは……リポップしてねぇな。ここで狩りきらねぇと後が怖いぞー!」

「行動パターンが変わってる可能性もあるから気を付けろ!……そろそろ3分だぞ、スリーエス!」

「オーライ!あとタンク班も別にボスのヘイト取らんでえぇで!ワシにも取れ高作らせぇや!」


スリーエスが伽藍ドゥの肩を軽く叩く。

その瞬間、紫煙の波が引いていき……敵性モブ達の視線が私達へと向いた。

それと共に、ボスが枝を揺らし何かをしようとし始めたものの。

次の行動が私達の目に映る事はなかった。


「『多勢に無勢に闘争を』ッ!」


スリーエスの身体から湧き出た紫色をした紫煙と共に、ボスの姿が消えたからだ。

彼の姿を探そうにも……彼も戦場のどこにも姿が見えなかった。

デスペナルティになったのでは?と思ったものの、それではボスの姿が消えた理由にはなっていない。

どういう事だ、と思っていると、


「スリーエスは大丈夫だ。……いや、大丈夫なのか?あいつ……」

「大丈夫って……どういう事?」

「あぁいや。あいつの煙質と駆動の合わせ技みたいなもんでな。対象と強制1on1を行うっていう……どっかのFPSのキャラみたいな事してんだよ、あいつ」

「えぇ……?」


こちらへと迫ってくる敵性モブをいなしながら、伽藍ドゥの話を聞けば。

強制的にパーティから抜けてしまうものの、ステータスの増強が行える【孤立無煙】という煙質と。

選択した対象のヘイトを取る、という通常駆動時の能力が強化された紫煙駆動を組み合わせた結果、そんな事がスリーエスは出来るようになったらしいのだ。

と言っても、だ。


「まぁ、俺らがまだ知らない、何かしらの技術は使ってそうだけどな。あいつがアレ出来るようになったのも最近だし」

「……って事は、外界のボスの討伐報酬?」

「あり得るな」


現状のプレイヤーの能力を見るに、スリーエスの強制タイマン能力は頭が1つ以上抜きんでている。

これが『信奉者』などの通常のボスならばまだ納得出来ただろう。

しかしながら、相手はレイド戦のようになっている外界のボス。

技量でどうにかしている、というには無理がある。


「ま、俺らはやる事やるだけだ。その分あいつも楽になるだろうからな」

「そうだねぇッと!」


強化された敵性モブは、強化されたといっても所詮は話しながらでも対処できる相手でしかない。

だが倒す事によって『樹葬の宿主』のHPが減るのが分かっている以上、数を減らせば減らす程、1人で頑張っているスリーエスも楽になるのだろう。


脇に高濃度の紫煙の手斧を浮かせながら敵性モブを狩り続ける事数分。

もう片手で数えれる程に敵性モブが減った所で、突然視界に変化が訪れた。

巨大な樹が、『樹葬の宿主』が戻ってきたのだ。

それと共に、スリーエスも満身創痍の姿で私の近くに出現した。


「やって、やったでぇ……!」

「おぉ、ナイスナイス。凄いじゃん」


見れば、スリーエスがかなり頑張ったのか、『樹葬の宿主』の2本目のHPバーはほぼ1割程しか残っておらず。

アレならば、残っている敵性モブ達を狩り切れば3本目……最後のHPバーへと突入する事だろう。


「皆!2本目の行動は、上から種がいっぱい入った頭蓋骨を降らしてくる!地面に落ちたら、そっから蔦やら花やら沢山生えて攻撃してくるからどうにかしてくれ!」

「「応!」」

「……それ、どうやって迎撃してたの?1人だよね?」

「……はは、男には隠し札が何枚もあるもんなんやで、嬢ちゃん」


納得のいくようないかないような返しをされた後、彼は伽藍ドゥによって後方へと運ばれていった。

どうやらステルス効果は通常駆動時からの能力のようで、スリーエスが回復しきるまでは狙われないように近くに居るとの事だ。

……ってぇ、事はだ。


「そろそろ、私も私で見せ場作らないとねぇ……!」


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