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Episode9 - OWB1


――――――――――――――――――――


其処は、朽ち果てた村だった。

何処に目を向けても、木、木、木。

僅かに残った残骸の様な家屋も、青々とした蔦が幾重にも絡みついており、どうやっても人が住む事は出来ないだろう。


そんな村の中心に、ソレは居た。

巨大な1本の木。

現実では見た事のない様な大きさのソレの根本付近には、数多くの骸が積み重なり、若木を生やしている。

そんな巨大な木の中心、幹の辺りには変わったモノが生えていた・・・・・


美しいとさえ感じさえ感じさせる白。

幹から生えているには可笑しい、陶器のようなソレは、遠目から観ても……人の少女のように観えた。


『ァ――』


ソレが口を開く。

木のうろのような、真っ黒な瞳を此方へと向け、叫ぶ。

まるで全てを呪うかのように。


――――――――――――――――――――


【『樹葬の宿主』との戦闘が開始されます:参加プレイヤー数31】


入った瞬間のムービー処理が終わったようで。

私達の身体は動くようになっていた……のだが、


「数多いなぁ!?」

「お膝元やからしゃーないやろッ!」


既に此方へと向かってきている人影が複数存在する。

今まで森の中で戦闘を行った、寄生樹に寄生されている民族系NPC達だ。

だが、これまでと違う点として、森の中で出会った時とは違いHPバーが観えていない。

もしやと思い、巨大な木……『樹葬の宿主』の方へと視線を向ければ、そちらにはバーが3本ほど観えている。

……これってそう言うことだよね!?


「スリーエスくん!こいつらHPバー見える?」

「見えへんなぁ……!そう言うことか!?」

「多分!」


1番イメージしやすいのは、『四重者』戦だろう。

アレは、ギミックのように敵性モブを召喚し要となっている相手を倒さないといけない行動をしてきていた。

それと同じ行動か、もしくは、


「撃破!――ボスのHP削れました!」


共に前線で戦うプレイヤーの1人が声をあげる。

どうやら予想はある程度合っていたようで。

……全部狩るか、一定のHPまで続くウェーブ型!

継戦能力が必要な戦いである事を示唆していた。


「オーケィオーケィ、じゃあもう一個試そうか!音桜ちゃん!」

「ッ!畏まりました!『壁』」

「だぁーもう!アドリブ好きやなぁ嬢ちゃん!」


私の周囲に音桜による障壁が張られ、私へと迫ってきていたモブ達をスリーエスが一振りで倒していく。

それに笑顔で応えつつ、私は手斧を構える。

狙うは、これみよがしに狙ってくださいと出ている白い少女のような部位。

倫理観とか、そういったものを天秤にかけるまでもなく、アレは敵なのだから討たねばならないのだから。


「【狼煙】は……いいや。【怨煙変化】も無しの純粋な私だけの力で……」


持てる限りの力を使い、振りかぶって、投げる。

流石にこちらの意図に気がついたのか、それともあのボスの防衛本能的なものなのか。

寄生されている敵性モブ達が、私の投擲した手斧へと飛びついて文字通りの肉壁になろうとしたものの、それらは全て、プレイヤー達の攻撃によって防がれる。

昇華煙もステータスに乗っている事もあり、一息の間に手斧は少女の元へと辿り着き、


『――ッァア!』


HPバーのうち、削れている1本が大きく減少する。

だが、それと共に『樹葬の宿主』を中心に黒い波紋が広がっていく。


【デバフ:寄生耐性減少が付与されました】

【デバフ:刺突耐性減少が付与されました】


「デバフまで掛けてくる、ってよりは本体に攻撃したからかぁ!?」

「でもこいつら無視しても問題ないって分かっただけでも十分だな!」

「燃やせ燃やせェ!」

「ヒャッハー!汚物は消毒だァ!」


一部、テンションがおかしいプレイヤーがいるものの。

紫煙外装が近接系以外のプレイヤー達が一斉に本体へと攻撃を仕掛けていく。

中には火炎系の攻撃も見られる為……そう遠くない内に1本目のバーは削り切られるだろう。


……確か、音桜ちゃんが手を貸したんだっけな。

彼女の紫煙外装は、等級の強化によって更に多機能になっている。

そんな中の1つが、攻撃の転写機能だ。

制限は多いものの、音桜の持つ紫煙外装で行える行動を他のプレイヤーが具現煙という形で再現できるアイテムを作成できる……といえば、その有用性は分かるだろう。

多種多様な障壁が、支援が、そして攻撃が、音桜でなくても行えるようになる。

完全なサポーターではあるものの、時間を与えれば無視できない軍団を作り上げてしまう。


「それぞれが一騎当千、ってのはこういう事を言うんだろうなぁ」

「嬢ちゃんの火力もおかしいけどな?」

「あは、それを君が言う?スリーエスくん」


軽口を言いながら、私は近くに居た敵性モブを手斧で叩き斬っていると。

スリーエスはその倍の速度で倍の量の敵性モブを狩っていく。

単純な火力の差もあるのだろうが、身体の動きに無駄が少なく……近接戦闘の経験値が比較にならないのだろう。


「ちなみに、スリーエスくんはこの状況どう見る?」

「ワシは……まぁ、まずいんちゃうか?スムーズすぎるやろ」

「あ、やっぱりぃ?」


戦闘状況が円滑に進んでいくのは良い事だ。

しかしながら、初見のボスに対して、これ見よがしに存在している弱点のような部位。

そしてもう少しで削り切られそうな1本目のHPバーを見ていると……誘われているような感覚を覚えてしまう。

どうやら、私やスリーエス以外にも一部のプレイヤーはその考えに至ったのか、それとも単に慎重なだけか、本体ではなく敵性モブを倒している者も何人か存在していた。

だが、敵性モブは際限がないかのようにリポップしてくる為に、狩り尽くすという事は出来なさそうだった。


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