「一旦戻ろうか」
「……良いのか?あいつらもあの場に居たって事は知らないわけじゃないだろ?攻撃されねぇか?」
「そうですね。高確率でそういった状況になると思いますが」
「いやね?ちょっと考えてたんだけど、それは無いんじゃないかなって」
「「?」」
そもそもの話をしよう。
幾らランダムに外界へとスポーンするからと言って、何故彼らがあの場で話し合っているのか。
来るだけで寄生樹関係に巻き込まれると分かっている状態ならば、私はそれらの心配がないエデンでの話し合いを行うだろう。
しかし彼らはそれをしていない。つまりは、
「あの篝火、敵意とかデバフとかそういうのを排除できる効果あるんじゃない?」
「……セーフティエリアだからって事か?」
「そういう事。まぁ、確証はないから行ってみない事には分からないけど……大丈夫だったら大丈夫で、私達もエデンに安全に戻れるし、良いんじゃないかなって」
セーフティエリアがセーフティエリアである為の所以。
害意を持つ何某を排除する事が出来るからこそのそれなのだとしたら、確実に人体へ害のある寄生樹は中に入る事は出来ないし、それに準ずるものも難しいだろう。
既にアイテム化している寄生樹の種に関しては……微妙な所ではあるが、これがダメならばこちら側で加工する手段があるという事。
エデンの【簡易菜園】で本当に栽培出来たかどうかを確かめる必要もあるが、そこは仕方ない所だろう。
私の好奇心でエデンや他のプレイヤー、NPCを危険に晒すのはいただけない。
そうして、篝火の元へと戻ってきた私達を迎えたのは、険しい表情をしたプレイヤー達だった。
その中でも1人、両目が黒く染まっている男性プレイヤーが私達へと近寄ってくる。
……両目が紫煙外装になるパターンもあるのか……中々凄いな。
何処か騎士のような装備に身を包んだ彼に既視感を覚えながら、私は冷や汗を掻いていた。
「……あは、まずったかなぁ?」
「いや、すまない。こちらも殺気立っているんだ。……分かるだろう?」
「分かるよ、だから戻ってきたんだ。私達も。……どうなってるか教えてもらってもいいかな?」
彼は私達の表情、身体等をじっと見た後、安堵したように息を吐いた。
一歩私達がセーフティエリアへと入った瞬間、篝火が激しく燃え熱波を放つ。
すると、私達の身体の一部……私であるなら、ブーツの紐の部分などが激しく燃え上がった。
一瞬驚いて飛び退きそうになったものの、よくよく見てみればHPは減っておらず……寧ろ、少しだけ減っていたHPが回復しているのが分かった為に、今度はこちらが安堵の息を吐く事となってしまった。
「どうなっているか、か。……この場に居るプレイヤー達は、基本的にこの森をどうにかして駆除したいと考えている」
「作戦は?何かこの森の心臓部みたいなのを見つけたって事?」
「前半についてはノー、後半についてはイエスと答えよう。この場に居る、というのがミソでな。あれらに対して有効打を与えにくい紫煙外装持ちしかいないんだ。作戦を立案しようにも、要となるものがないのであれば何も出来ないだろう?」
「そりゃそうだ」
彼に案内されるように、私達は篝火の近く……プレイヤーが十数人程集まっている場所へと連れていかれた。
恐らく彼が言っていた、どうにか駆除したいと考えているプレイヤー達なのだろう。
その中でも、彼と似たような姿をしたプレイヤーを三人程見つける事が出来た。
「では、自己紹介を。私はプロゲーミングチーム『Sneer Wolf』所属のストリーマー、伽藍ドゥだ。この集まりではまとめ役のような事をしている。よろしく」
「私はどこにも所属してないただのレラ。『Sneer Wolf』のリーダーさんには少しだけこの前のイベントでお世話になりかけたかな。よろしく」
……思い出した。あの巨人の人と似てる見た目の装備をしてるんだ。
PvPイベントで、私を直接倒したのは禍羅魔ではあるものの。あの場にはもう1人、冷気の巨人を操るプレイヤーが居たのを覚えている。
すぐに逃げ出してしまった為に、しっかりと確認したわけではないものの……確か彼も似た装備をしていたはずだ。
「……あぁ、リーダーと禍羅魔くんが戦ってた所に突っ込んで行っちゃった赤ずきんの子か、君は」
「あは、突っ込みたくて突っ込んだわけじゃないんだけどねぇ。後ろに居るのはメウラと音桜。私のパーティメンバーだけど……どうする?紫煙外装の能力とか詳細見せた方がいい?」
「いや、詳細じゃなくていい。駆動時に出来る事を一部教えてくれればそれで構わない」
「良いのですか?」
「あぁ。いつまたPvPイベントのようなものが開催されるか分からないからな。それに外界ではプレイヤー同士が別々の立場に立って行動する事もあるかもしれない。……この場に居るからといって、次に別の場所で会った時に味方であるとは限らないからな」
「成程、確かに道理だな」