目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
Episode4 - OW2


「数……4。人の様に見えますけど……所々に蔦の様なものが巻き付いてます」

「友好的っぽい?」

「いえ、完全に狙われてますね。持ってるのは……短刀、曲刀、槍に弓です」

「了解、迎撃は……出来るっちゃできるか。やろう」


私の言葉に、2人は頷き準備を進める。

メウラは2体の人形を出現させ、そのどちらも影道化へと。

音桜は、私達の周囲へと2枚の御札を浮遊させ、速度上昇と膂力上昇のバフを。

そして私はと言えば、手斧についている羽根を1枚千切り取った。


「カウントダウンで攻撃します。ソレを目印に」

「こっちは準備完了したよ」

「俺もだ。これなら問題ねぇ」

「分かりました。ではカウント5で開始します。……5」


静かになった森の中、音桜の言葉が紡がれていく。

……ううん。やっぱりこれ・・、考えた方がいいな。

私はいつも通りに投擲する為に構えつつも違和感を感じていた。


この場、というよりも。

この外界というフィールド自体には、紫煙がほぼ存在していないのだ。

それもそうだろう。エデンやダンジョンの中の様に、プレイヤーや住人達が煙草を吸い、紫煙に満ちている環境ではなく、単純な外。

長らく住人が居ない世界に、加工物である煙草が残っている道理もない。

セーフティエリアであった篝火の周りならば、プレイヤーがいた為にある程度は漂っているのだろうが……それも今は近くにない。


では、自身で吸えば解決するかと言われれば……今の装備では出来ない、と言うのが正しいだろう。

私の左手の指が、冷たいガスマスクに触れる。

これがあるからこそ、今の環境で行動出来ている……と受付に言われたものの。

これがある故に、煙草を吸うことが出来ないのだ。


……何か手段を考えておかないとね。

そう考えていると、いつのまにか時間が経っていたらしく。

既にカウントダウンは終わりかけていた。


「2、1……着弾」


言葉と共に、少し離れた位置から衝撃音がこちらへと届く。

ソレと共に、私達は動き出した。

軽い動作によって振るった腕から放たれる手斧。

そして2体の影道化はそれを追うように駆け出した。


無論、私達3人もその後ろから着いていく。

結局の所、私達が得意なのは遠距離での戦闘ではなく、近中距離での乱戦紛いの戦闘だ。

私のスタイルは言わずもがな。

メウラも、そして音桜も奇襲、防衛に特化していると言えるスタイルをしているのだから、得意を押し付ける場合、相手が見える位置に居た方が便利であるのに変わりはない。

だからこそ、征く。


「見えた、着弾数1、防御数1。半々だね」

「俺のは半自動化デミオートにしてあるから気にしねぇで攻撃してくれ。俺も支援する」

「畏まりました。では後ろの弓は抑えましょう……『壁』」


私の手斧によって、1体の短刀を持っていた個体が光となって消えていくのが目に見え。

曲刀を持っている個体が、しっかりと防御体勢をとっているのが分かる。

とはいえ、手斧の威力が思ったよりも出ていたのか、その手に持っている得物には既に罅が入っていた。


……人、ではあるけど……ちょっと怖いなコレ。

見た目的には、音桜が言っていた様に基本的には人。

何処かリアルに居てもおかしくはない民族的な衣装を身に纏ってはいるが、そこはあまり気にならない。

それらよりも目に入るのは、彼らの身体の一部に巻き付いている蔦だろうか。

ある者は腕に、ある者は足に。

そして私が今から相手をしようとしている、曲刀を持った者はその頭部に巻き付いているのだ。


確実に見えてはいないはず。

だというのに、私の投擲は一度防がれているという事実。

スキルなんてものが存在している世界である為に、視界自体が必要無い手合いの可能性もあるものの。

強烈な違和感を感じてしまうのは仕様がない事だった。


「怖いから一気にケリ付けるよ」


云うや否や、私の手に戻って来ていた手斧から紫煙が漏れる。

STの回復手段が限られている中あまり使いたくはなかったものの……速攻で片づけるならば瞬間火力は必要なのだから。

漏れ出る紫煙に何か嫌な予感がしたのか、曲刀持ち、そして槍持ちも一緒になってこちらへと向かってこようとするものの。

2体の影道化が、それぞれを羽交い絞めにして動きを止めた。


「行かすかよッ!」


メウラが作ってくれた隙のおかげで、私の両脇には紫煙の斧が出来上がり紫電を纏う。

……ちょろっと怖いんだよねぇ、あの蔦。

狙うは、私から少し離れた位置で拘束されている曲刀持ちの頭部。

軽く、それでいて身体の体重を乗せた投擲を再度行えば……紫煙と紫電の斧がそれに追従して射出された。

しっかりと【魔煙操作】によって、2体へと当たるよう誘導されたそれはしっかりと命中し。

瞬間、森の中に衝撃音が響き渡る。


メウラの紫煙外装がどうなったかは分からないものの、別段問題はないだろう。

問題があるのならば、あのような拘束の仕方をするわけがないだろうし。


「よぉーしこっちは終わり!音桜はぁー……うん、心配なさそうだね」

「終わりましたか。一応話を聞けるかもしれないんで残しておいたんですが」

「んー……聞けると思う?アレ」

「……話してみない事には……」


視線を向けると、そこには障壁で四方を囲まれた弓持ちと、それを離れた場所から見守っている音桜の姿があった。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?